追手おって)” の例文
この間は少し急がなくてはどういう事でまた後から追手おってが来ないにも限らないから、急いでその一軒家を出立することにしました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
伊那丸いなまる龍太郎りゅうたろう外濠そとぼりをわたって、脱出だっしゅつしたのを、やがて知った浜松城の武士たちは、にわかに、追手おってを組織して、入野いりぬせきへはしった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
在々所々へ追手おってを差向け、間道や谷間の隅々までも土を掘り返し岩を揺り起して捜索したのでは、殿様とても安き心地はおありなさるまい。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なんだか、あたし、後から追手おってがかかるようにばっかり思われてなりませんの。大丈夫でございましょうね、宇津木さん」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夫人 (間)私には厳しく追手おってかかっております。見附かりますと、いまにもつかまえられなければなりませんものですから。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
訶和郎は死体になった荒甲の胴を一蹴りに蹴ると、追手おって跫音あしおとを聞くために、地にひれ伏してこけの上に耳をつけた。彼は妻の傍にかけていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
余はこの輪廓の眼に落ちた時、かつらみやこを逃れた月界げっかい嫦娥じょうがが、彩虹にじ追手おってに取り囲まれて、しばらく躊躇ちゅうちょする姿とながめた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実は一人の女をあやめて駈落したれど露顕して追手おってがかゝり、片足くのごとく怪我をした故逃げおおせず、遂々とう/\お縄にかゝって、永い間牢に居て
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だが、追手おっての中には、野獣にも負けぬ軽業かるわざの名手が、二人も三人もまじっている。その上、逃げるのは一人、追っけるのは十人に近い人数だ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
追手おって漸次しだい人数にんずを増して、前からうしろから雪を丸めて投げた。雪礫ゆきつぶてを防ぐ手段として、重太郎も屋根から石を投げた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何でもその時の話では、ふとした酒の上の喧嘩けんかから、唐人とうじんを一人殺したために、追手おってがかかったとか申して居りました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかなる訳あって夜道を一人何処いずこへといたわりながら聞くもおそし、うしろから飛んで来る追手おっての二、三人
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
絶えず敵の追手おってを恐れ、ことに恥とあなどりとを防ぐためにあの気高い奥方がどんなに心を苦しめられたか
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
折柄風は追手おってになり波は無し、舟は矢のようにはやく湖の上をすべりましたから、間もなくおかは見えなくなって、正午ひる頃には最早十七八、丁度湖の真中程まで参りました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ロミオ おれかくれぬ。むね惱悶なやみうめきのいききりのやうに立籠たちこめて追手おってふさいだららぬこと。
不思議なことに向うの山峡やまかいに突然黒い人間らしい者が、殆どそれは胡麻粒ごまつぶくらいの一行がうごいて、旅人のあとを追うているらしい、向い山のおなじ山稼ぎのかい馬介うますけ追手おってであった。
が、実際には高城は彼に背いて途を戻って行ったのだ。三時間もすれば原隊にたどり着くだろう。そして隊長に報告するだろう。そうすればあの人の好い隊長は激怒して追手おってをむけるだろう。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
追手おってにつかまるのをまぬがれたんだ
重太郎の飛び降りたのは、美濃屋みのやという雑穀屋ざっこくやの裏口であった。追手おって一組ひとくみは早くも駅尽頭しゅくはずれの出口をやくして、の一組はただちに美濃屋に向った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの物盗ものとりが仕返ししにでも来たものか、さもなければ、検非違使けびいし追手おってがかかりでもしたものか、——そう思うともう、おちおち、かゆすすっても居られませぬ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
借金が有るから追手おっての掛るのを恐れて、逃げて/\信州路へ掛っても間に合わぬから、此奴をくり/\坊主にして私も坊主になってとうとう飛騨口へ逃込んだのよ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
風体ふうていで判断すると、泥棒の木島刑事が逃げ手で、警官姿の治良右衛門が追手おってとしか見えぬのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
怪しきうおのように身震みぶるいして跳ねたのを、追手おってが見つけて、医師いしゃのその家へかつぎ込んだ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
追手おってつかまって元の曲輪くるわへ送り戻されれば、煙管キセル折檻せっかんに、またしても毎夜の憂きつとめ。死ぬといい消えるというが、この世の中にこの女の望み得べき幸福の絶頂なのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この車だって昨夕ゆうべ人殺しをするための客を出刃でばぐるみ乗せていっさんにけたのかも知れないと考えたり、または追手おっての思わくとは反対の方角へ走る汽車の時間に間に合うように
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さすれば今日はまだチベット暦の五月三日、今日明日に追手の追付く訳はないとしたところで、四、五日パーリー・ゾンに引留められて居りますとその間に追手おってが着くことになるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「さては、秀吉ひでよしじんから、もう追手おってがまわってきたな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
追手おっての人々もおなじ村境むらざかいまで走って来たが、折柄おりからの烈しい吹雪ふぶきへだてられて、たがいに離れ離れになってしまった。其中そのなかでも忠一は勇気をして直驀地まっしぐらに駈けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
若しも其のうち追手おってが掛り、引戻されはしまいかとそれのみが心配で、巡査が此方こちらの方へコツリ/\と来るを見ては、両人ふたりの様子を怪しく思って尋ねるのではないか
乞食奴、ふり返って追手おってを見ると、矢庭に駈け出したが、どうも余り駈けっこはお得意でないらしい。ヨタヨタと妙な恰好で走って行くが、到底のっぽの蘭堂の敵ではない。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
〽朧夜おぼろよに星の影さへ二ツ三ツ、四ツか五ツか鐘のも、もしや我身わがみ追手おってかと……
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
生長するどころではない、その生長のすみやかなる事は禅寺ぜんでらたけのこが若竹に変化する勢で大きくなる。主人はまた大きくなったなと思うたんびに、うしろから追手おってにせまられるような気がしてひやひやする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ようやく第二の法王の具足戒ぐそくかいが済み役人達も手隙てすきになり私のひそかに立去った事を知ったところで、どの方面へ逃げたろうかと始めて穿鑿せんさくに掛ってこちらへ追手おってを向けるということになるのでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
吹雪ふぶきがくる——、追手おってもくるぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいあねさん確かりしてお呉んなさいよ伯父さんも此処こゝへ来て居ますよ、村方の百姓衆も大勢来て、手分をして又市の跡を追手おってを掛けましたから、今にお前さんのかたきを捕えて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、月光の町を幾曲がり、いつしか追手おっては野獣の姿を見失ってしまった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おつや 自分の家じゃあぐに追手おってがかかるのは知れている。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
是は土手下の甚藏じんぞうと云う悪漢わるもの、只今小博奕こばくちをして居る処へ突然いきなり手が這入り、其処そこくゞり抜けたが、烈しく追手おってが掛りますから、用水の中を潜り抜けてボサッカの中へ小さくなって居る処へ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
急に振り返って執念ぶかい追手おってに斬ってかかった。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)