かたじけ)” の例文
「御好意は実にかたじけない。しかし先方で断わる以上は、娘も参りたくもなかろうし、参ると申しても私がやれんような始末で……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は年来非道を行ひて、なほこの家栄え、身の全きを得るは、まさにこの信心の致すところと仕へ奉る御神おんかみ冥護みようごかたじけなみてかざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
藤「はゝゝゝ誠に千万かたじけのうござる、親類なればこそ五十金という金を心掛けて御持参下さる、此の恩は忘却致しません」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これはこれかたじけなくも難有ありがたくも日本文明の一原素ともなるべき新主義と時代おくれの旧主義と衝突をするところ、よくお眼を止めて御覧あられましょう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ああ宜くわたくしを高坂の録之助ろくのすけと覚えてゐて下さりました、かたじけなう御座りますと下を向くに、阿関はさめざめとして誰れも憂き世に一人と思ふて下さるな。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
〈世のひとがみな王のご愛顧をねがったころ、わたしは二度までも王の恩顧をかたじけなくしたものである。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
尊王そんのうの哲理は既に「かたじけなさに涙こぼるる」宗教心と一致せり。しこうして宗教心は人間最大の運動力たる利益心と伴随し来る。革命の精神は、さらに万斛ばんこくの油を注がれたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「何かのご縁でしょう。将軍は私にめぐり会うべく諸州をさまよい、私は将軍のお招きをかたじけのうすべく今日まで田野のにかくれて陽の目を待っていたのかも知れません」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有るか無いか分らない。いわんや酒を飲むなどゝ云う金は一銭もない。れだけは念の為めにお話して置くが、酒を飲みにおさそいとは誠にかたじけない。是非お供致そうとう出掛けた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
き直きお言葉を交していただきますさえ、何とのうかたじけなさすぎる気がいたしまして——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
感応かんのうありて、一念の誠御心みこころかない、珠運しゅうんおの帰依仏きえぶつ来迎らいごうかたじけなくもすくいとられて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かたじけなさにさしぐみて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
いやそれは何うもかたじけのうございます、お前さんが改心して下されば、私も誠に申した甲斐あると申すもの、さア速かにお立退きなさい、下山げさんの処を
かたじけないけれど、僕の迷は未だ覚めんのだから、間は発狂してゐる者と想つて、一切いつせつかまひ付けずに措いてくれ給へ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あゝ宜く私を高坂の録之助と覺えて居て下さりました、かたじけなう御座りますと下を向くに、阿關はさめ/″\として誰れも憂き世に一人と思ふて下さるな。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私事、おもと様御舟にて、船島へつかわさる可旨べきむね、仰せ被聞きけられ重畳ちょうじょうお心づかいの段、かたじけなくぞんじ奉候
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御承引で、かたじけない。では、こうまいられい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あゝわたくし高坂かうさか録之助ろくのすけおぼえてくださりました、かたじけなう御座ござりますとしたくに、阿關おせきはさめ/″\としてれも一人ひとりおもふてくださるな。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
數「いや/\、格別の手当でかたじけない、あい/\、成程、これは中々立派な茶碗だな、余程道具好きだと見えるな」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『おことば、かたじけのうござります、御奉公も、まだ、済んだとはぞんじませぬ。ふつつか者でござりますが、内蔵助もまた、あの世まで、内匠頭様の御家来で通る所存でござります』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたじけのうござりまする」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「おお、それはかたじけない」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こゝろのうちではほんに/\可愛かあいいのにくいのではありませぬ、あはせてをがまぬばかりかたじけないとおもふてりまする。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
春部だの祖五郎はお暇になってゝも、代々の君恩のかたじけない事は忘却致すまい、君恩を有難いと考えるならば、御家督は何う致すが宜しいか少しは考えも有ろう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふうときて取出とりいだせば一尋ひとひろあまりにふでのあやもなく、有難ありがたこと數々かず/\かたじけなきこと山々やま/\おもふ、したふ、わすれがたし、なみだむねほのほ此等これら文字もじ縱横じゆうわうらして
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
紋「喜一郎が勧めるのも忠義、富彌がとゞむるも忠義、二人して予を思うてくれる志かたじけなく思うぞ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うれしさむねなかにおさへがたく、かげながらおがんでてもいほどのかたじけさなれど、つく/″\うへおもひまするに、貴郎あなたはこれよりいやます/\の御出世ごしゆつせあそばして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アヽ左様さやうかい、汁粉しるこくひたのか、それうも千萬せんばんかたじけないことだ、サ遠慮ゑんりよせずにこれからあがれ、履物はきものわきはう片附かたづけて置け。「へい。「サ此方こつちあがれ。「御免下ごめんくださいまして。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前の手拵えとはかたじけない、日々にち/\の事で誠に気の毒だ、今日は丁度森松を使つかいにやったから、今自分で膳立ぜんだてをして酒をつけようと思っていた処で、丁度いゝから膳を拵えてかん
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
町「はい、あなたの御親切はまことにかたじけのうございますが、零落おちぶれ果てたる此の姿、誰方どなたかは存じませぬが、江戸のお侍に会いますのは心苦しゅうございます、何卒どうぞお断り下さいまし」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一同「へえ/\お有難う存じます、旦那様、寿命が延びます、かたじけなく存じます」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
定めしお町が八百万やおよろずの神々に此の身の無難を祈っているのであろう、あゝかたじけない
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清「是は何うも暮の二十八日にお年玉を、是は千万かたじけない事で」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)