かた)” の例文
僕は両大学がそもそほこを交ゆるに至つた最所からの径路と、紛糾の真相とを詳細にかたりたいと思ふ。僕等は何人も知る如く当年の弥次だ。
予今水の東京をかたるといへども、談つて甚だ詳しからず、必ずや水を得ざるの惨にあふことなからん。呵〻。(明治三十五年二月)
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
今は亡き文芸講談のE師についていろいろかたり合ったが、師吉井勇と飲む時にも、きっと一度はこのE師の思い出話が出ないことはない。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
そうして一方には現実にその経験をもった人々には、今までそれをかたり合い、また考えてみるような機会が、極端に少なかったのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
努力、死、自然の冷淡、生命(親と子)の矛盾と愛——これのものの関係を汝の墓ほど直截ちよくせつかたるものはほかにない。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
奎堂 おそれながら、君子は怪邪魔神をかたらずとか。久保奎堂、荒唐無稽なることは、君前において申し上げかねまする。その儀は平に御容赦を。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は不運で御座りますとて口惜しさ悲しさ打出し、思ひも寄らぬ事をかたれば兩親は顏を見合せて、さては其樣の憂き中かと呆れて暫時いふこともなし。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いずれも生まれて初めて飛行機に乗って珍しく感じたことをかたり合ってそれを全国の聴取者に聞かせるのである。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
信長をうかがひ撃たんと思ひしかば、朋輩の勇士にかたらひ合せけるは、面々明日の軍に打込の軍せんと思ふべからず、ひとえに敵陣へ忍び入らんことを心掛くべし。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
青島チンタオがえりの砲兵たち、甲斐かい出身の予後備らしきが、意気あがっての手柄話、英兵の弱さったらお話にならないまで、声高にかたるに、私もすこしくうけ答えした。
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
云っているではありませんか? またもう一人の琵琶法師は、俊寛様はあの島の女と、夫婦のかたらいをなすった上、子供も大勢御出来になり、都にいらしった時よりも
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
余等が其の頃相かたるのは、氷雪の様に白い肌膚が処女の様にナメラカな仙人の棲んでいる藐姑射山はくこやさんの風物とか、夜になると壺の中へ飛び込んでしまう老仙人の習性とか
十年後の映画界 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
新羅は支那との交通が頻繁であり、便利であつたに拘らず、此の如く新しい文化、新しい知識を輸入するのに不熱心であつて、到底我が國と同一にかたることが出來ぬのである。
その朝も倉地と葉子とは女将おかみを話相手に朝飯を食いながら新聞に出たあの奇怪な記事の話をして、葉子がとうにそれをちゃんと知っていた事などをかたり合いながら笑ったりした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
朝食をせずに日本媼のところへ行く途中、N君に会つた。N君も日本の地震を心配して朝食もせずに日本媼のところに来たのである。二人は近所で朝食をし、日本のことをかたりあつた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
単なる慰藉いしゃや、叱責や、教訓などでは、どうにもならなかった彼も、一緒に旅に出て難儀をしたころのことが、しみじみと孔子自身の口からかたられるのを聴いていると、次第に人心地がつき
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
三宝にのせて玄関へ置きばなしにして行ったから、それを今ここへ埋めたところだと、平然としてかたっているあの度胸には、実際驚きましたなあ、当時、豪傑といわれる武家の大名のうちにも
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔孔子老耼ろうたんを見て帰り三日かたらず、弟子問うて曰く、夫子ふうし老耼を見て何をただせしか、孔子曰く、われ今ここにおいて竜を見たり、竜はうて体を成し散じて章を成す、雲気に乗じて陰陽は養わる
れとて無上の快楽事とも思われず、マア/\児孫まごこを集めて共にたわぶれ、色々な芸をさせたりきな物を馳走ちそうしたりして、一家内の長少睦しくたがいに打解けてかたり笑うその談笑の声を一種の音楽として
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やすらかな一夜いちやごしたことをかたつてゐた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
田川と呼ばれた男がかたり出した。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
多く禍福をかたれば人をして卑小ならしむるの傾がある。言をなすも實に難い哉であるが、讀む人予が意を會して言を忘れて可なりである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
恋は畢竟ひっきょうするにそのちまたつじ彷徨ほうこうする者だけに、かたらしめておいてもよいような、小さなまた簡単な問題ではなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたし不運ふうん御座ござりますとて口惜くやしさかなしさ打出うちいだし、おもひもらぬことかたれば兩親ふたおやかほ見合みあはせて、さては其樣そのやうなかかとあきれて暫時しばしいふこともなし。
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仁右衛門は笠井をにらみながら見送った。ややしばらくすると場内から急にくつろいだ談笑の声が起った。そして二、三人ずつ何かかたいながら小作者らは小屋をさして帰って行った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「黄口の乳児、かたるに足らぬよ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
日本とその南に連なる島々との古い関係が、何かこの方面からも少しずつ、明らかになって来そうな楽しみがかたってみたかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私は不運で御座りますとて口惜くやしさ悲しさ打出うちいだし、思ひも寄らぬ事をかたれば両親ふたおやは顔を見合せて、さてはその様の憂きなかかとあきれて暫時しばしいふ言もなし。
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし魔方陣のことをかたるだけでも、支那印度のいにしえより、その歴史その影響、今日の数学的解釈及び方法までを談れば、一巻の書を成しても足らぬであろう。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さすがに女の子らしく細かい事まで自分一人ひとりの興に乗じてかたり続けた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
仲間から出て常人に交わる者、ことに素性と内情とをかたることをはなはだしくにくむが、外から紛れてきてサンカの群に投ずる常人は次第に多いようである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかしそれは蔵海が指頭ゆびさきかたり聞かせたからであろうと解釈して、先ず解釈は済ませてしまった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何故なぜはがきでもよこしはせぬ、馬鹿ばかやつがとしかりつけて、母親はゝおや無病むびやう壯健そうけんひととばかりおもふてたが、しやくといふははじめてかとむつましうかたひて、らう何事なにごと秘密ひみつありともらざりき。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人間に永遠の児童があり、不朽ふきゅうの母性があることを認めつつも、それを未出の同胞国民とともに、かたりかわすべき用意は整っていると言えるであろうか。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
東京広しといへども水の隅田川に入らずして海に入るものは、赤羽川あかばねがわと汐留堀とのほか幾許いくばくもなし。されば東京の水をかたらんには隅田川を挙げて語らんこそ実に便宜多からめ。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
棒の話がいよいよおそくなるが、もう少しこの背負い道具のかわってきた順序をかたっておかねばならぬ。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
我が福無福をもかたらぬのが常である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
西の方ではまったくきかぬ地名であるから、あるいはこのあたりなどが始まりで、すでに足利期から畠を開発して村を作る風が、始まっていたことをかたるものかも知れない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
生まれ故郷の風物をかたり、または小さなころの思い出を話し合う場合に、いつでも最も多く話題に上るのは、祭礼でなければ、この年中行事のどれかの日の出来事であった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日の苦笑すべき紛乱は、むしろその要求の非常に急迫していることと、これに対する幾つかの提案の、まだどこかにくさびの抜けた所があることをかたっているように私らには感じられる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
土を食い虫を食い口が渋くなったということを、彼もまた中国の田舎の方言を以てかたっていたのである。画眉鳥ほおじろが杉や川楊かわやなぎなどの最上端にとまって、青い天地を眺めつつ啼く声まで、我々には
心を許してかたり合うことができぬような感じが、まだ相応に強く残っているのもその痕跡で、つまり我々はこの古風な感覚の片割れをもったままで、今日の新文化へ入ってきているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分のごとき代々の村人の末でも、ほんのわずかな間の学問生活によって、もうこれほどまでに概念のしもべになろうとしている。これは忘れたというよりも最初からかたろうとしなかったためであろう。
まれには少時間の空漠くうばくを耐え忍んで、目に見えぬ島々を心ざした者が、意外な幸運を見つけて帰ってきてその体験をかたるというようなことが、年とともにだんだんと積み重ねられたことも考えられる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)