そんな言葉の一つ/\に、深い/\意味でも籠るやうな、思はせ振りな調子は、色つぽくはあるにしても、相手をひどく苛立たせます。
銭形平次捕物控:162 娘と二千両 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
彼が苛立って乱暴な返辞をすると、もう彼女はなんとも言わなかった。しかしその眼にはやはり心痛の色があるのを、彼は読みとった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年 (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
併し、風の日は風の日で、又その特別な天候からくる苛立たしい不安な心持が、彼を胸騒ぎさせたほどびくびくさせた。
田園の憂欝:或は病める薔薇 (新字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
裕佐は苛立つて来た。彼は出来上つた許りの自分の作をもつと自分の傍においてゆつくり眺め度かつた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死 (新字旧仮名) / 長与善郎(著)
二都物語:01 上巻 (新字新仮名) / チャールズ・ディケンズ(著)
その倦怠と不快な壓迫を遁れようとして盛に働いたみんなの惡戲性は、やがて疲れて來た。先生をからかつて苛立たせて得られる意地惡な面白味は、漸く薄れて行つた。
老人はたびかさなる邪魔立てにすっかり苛立って、経費削減とか改革とかと、一くち口にしただけで、老人と、この居酒屋の賢人とのあいだに大喧嘩がおこる合図になる。
ジョン・ブル (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
だからお母はんはいやや、すぐそうばかりとる、とTちゃんが苛立たしそうにおこる。あっちへかえってからもこの母子の感情の急所はこういうところにあることがわかります。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
重い息苦しい空気のただよっている玄関の、うす暗い灯のなかに突っ立って、私は異常の怖ろしさと苛立たしさに胸をとどろかせていると、たちまちに長い鋭いひと声が家のなかでひびいた。
世界怪談名作集:10 廃宅 (新字新仮名) / エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン(著)
何が私をこうさせたか:――獄中手記―― (新字新仮名) / 金子ふみ子(著)