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苛立
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いらだ
ふりがな文庫
“
苛立
(
いらだ
)” の例文
誰もが感ずるであろうような、皮肉じみた笑いが
片頬
(
かたほほ
)
に
顫
(
ふる
)
えたが——、鷺太郎は、何とはなく、不安に似た
苛立
(
いらだ
)
たしさを覚えたのだ。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
そんな言葉の一つ/\に、深い/\意味でも籠るやうな、思はせ振りな調子は、色つぽくはあるにしても、相手をひどく
苛立
(
いらだ
)
たせます。
銭形平次捕物控:162 娘と二千両
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
均平自身も理由もなしに神経が
苛立
(
いらだ
)
たしくなったりすると、いきなりステッキを手にして、ふらりと子供の方へ帰って行くのだったが
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
彼が
苛立
(
いらだ
)
って乱暴な返辞をすると、もう彼女はなんとも言わなかった。しかしその眼にはやはり心痛の色があるのを、彼は読みとった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
ひょっとしたら舞い込むのかもしれない幸運の期待で、自分の心を
苛立
(
いらだ
)
たせ
焦
(
じ
)
らすのは、何とまあわくわくして面白いんだろう!
富籤
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
▼ もっと見る
僕は
苛立
(
いらだ
)
たしさよりも苦しさを感じ、何度もベルの鈕を押した。やっと運命の僕に教えた「オオル・ライト」と云う言葉を了解しながら。
歯車
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
葛木は、これさえあれば、何事もない、と自覚したのに、実際無いのを
口惜
(
くちお
)
しそうに、も一度名刺入を出して、中を
苛立
(
いらだ
)
って
掻廻
(
かきまわ
)
したが
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
手もなくその策略にひっかかった松浦の気は
苛立
(
いらだ
)
ち、
太刀先
(
たちさき
)
は乱れる。その虚に乗じた吉本は、十二分の腕を
振
(
ふる
)
って、見事なお胴を一本。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ただ追われるような不安と
苛立
(
いらだ
)
たしさ、息苦しいほどの激しく強い
動悸
(
どうき
)
だけが、今そこに自分の在ることを示しているような気持だった。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
苛
(
じ
)
れったいというか、
苛立
(
いらだ
)
たしいというか、我々の方でも少し
急
(
せ
)
き込んだ傾きはあったが、どうにも
埒
(
らち
)
があかないのであった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
貧乏世帶
(
びんばふじよたい
)
へ
後妻
(
ごさい
)
にでもならうといふものには
實際
(
じつさい
)
碌
(
ろく
)
な
者
(
もの
)
は
無
(
な
)
いといふのが一
般
(
ぱん
)
の
斷案
(
だんあん
)
であつた。
他人
(
ひと
)
は
只
(
たゞ
)
彼
(
かれ
)
の
心
(
こゝろ
)
を
苛立
(
いらだ
)
たせた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
無意味な、憂鬱な捜査が暫く続いて、やがて
自動車
(
くるま
)
は、胸壁のない猛烈なS字型のカーブに差しかかった。警部補は
苛立
(
いらだ
)
たしげに舌打ちする。
白妖
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
振った女だと思うと、無性にかっとしちゃって、おじさまに会わせてやるものかという、気が
苛立
(
いらだ
)
って来ていたんですもの。
蜜のあわれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
ただ速記者が雇えたらと、時々思うことがある。異常な
苛立
(
いらだ
)
たしさやもどかしさの中で悪魔の
呪文
(
じゅもん
)
の如くにそれを念願することがあるのである。
文字と速力と文学
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
常に心を
苛立
(
いらだ
)
たせて、神経過敏になっているその役にも立たなくなった焦噪の証拠を、何か別の事物へなすりつけようとする
僻
(
ひが
)
み根性であろうか。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
何ういっていいのか——
苛立
(
いらだ
)
たしさと悲しさとが、いいたいと思うことを、突きのけて、胸いっぱいにこみ上げてきた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
併し、風の日は風の日で、又その特別な天候からくる
苛立
(
いらだ
)
たしい不安な心持が、彼を胸騒ぎさせたほどびくびくさせた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
それだから神経を
苛立
(
いらだ
)
たせる原因になるようなこと、例えば、空腹とか睡眠不足とかいうことが避けられねばならぬ。
人生論ノート
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
確かに、私は
苛立
(
いらだ
)
っている。連日の睡眠不足のせいもあった。が、それだけではなかった。一言で言えば、私は、私の宿命が信じ切れなかったのだ。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
いよいよ神経を
苛立
(
いらだ
)
たせるばかりだと思ったので、さらに小石川の方へ転宿して、その翌年に第二回の試験を受けると、これも同じ結果に終りました。
白髪鬼
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そして道端の青草を見出すと、乗手の存在も忘れて草を
喰
(
は
)
み、どんなに私が
苛立
(
いらだ
)
っても素知らぬ風を示すに至った。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
彼は焦燥しながら
鶴
(
つる
)
と
鶏
(
にわとり
)
と
山蟹
(
やまがに
)
の卵を食べ続けるかたわら、その
苛立
(
いらだ
)
つ感情の制御しきれぬ時になると、必要なき偵察兵を
矢継早
(
やつぎば
)
やに
耶馬台
(
やまと
)
へ向けた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
彼女を
苛立
(
いらだ
)
たせる原因であるらしく、苛立てば苛立つほど
尚
(
なお
)
寝られなくなって、夜中に荒々しく廊下を
駈
(
か
)
けて来て、両親の寝室の
襖
(
ふすま
)
をばたッと開けて
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
居士はもう自分の生命は二、三年ほかないものと覚悟した一つのあせりがもとになってじりじりと
苛立
(
いらだ
)
っていた。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
そのためには、
余沫
(
よまつ
)
をうけて書かでもがなの人のことや秘事までが出されたりして、余計にその事件に関係をもった当事者たちを
苛立
(
いらだ
)
たせ迷惑をかけもした。
芳川鎌子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
その間に渠の頭腦は、表面だけ益々
苛立
(
いらだ
)
つて來て、底の底の方が段々空虚になつて來る樣な氣分になつた。
病院の窓
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
崖の崩れた
生
(
な
)
ま
生
(
な
)
ましい痕が
現
(
あら
)
わになり渓流の中にも危岩が
聳
(
そび
)
え立って奔流を
苛立
(
いらだ
)
たせている処もある。
雨の上高地
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
裕佐は
苛立
(
いらだ
)
つて来た。彼は出来上つた許りの自分の作をもつと自分の傍においてゆつくり眺め度かつた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
九時近くになると、彼は
苛立
(
いらだ
)
った顔付を
和
(
やわら
)
げ、そして、自分の本性にかぶせられる限りの恥しからぬきちんとした外見を
装
(
よそお
)
いながら、その日の業務に出て行った。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
苛立
(
いらだ
)
たしさが、湧き返って来たように、綺麗な眉や眸を、高い鼻の上へ、きゅっと寄せてしまった。
貞操問答
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
その倦怠と不快な壓迫を遁れようとして盛に働いたみんなの惡戲性は、やがて疲れて來た。先生をからかつて
苛立
(
いらだ
)
たせて得られる意地惡な面白味は、漸く薄れて行つた。
猫又先生
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
老人はたびかさなる邪魔立てにすっかり
苛立
(
いらだ
)
って、経費削減とか改革とかと、一くち口にしただけで、老人と、この居酒屋の賢人とのあいだに大喧嘩がおこる合図になる。
ジョン・ブル
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
彼もまた、沸騰するような心臓の動悸のために
苛立
(
いらだ
)
っていて、判断力を失っているのだった。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
貫一の
声音
(
こわね
)
は
漸
(
やうや
)
く
苛立
(
いらだ
)
ちぬ。彼の得言はぬを怪しと思へばなり。宮は驚きて
不覚
(
そぞろ
)
に
言出
(
いひいだ
)
せり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
すると
遽
(
にわ
)
かに頭上の葉がざわざわ揺れて、さきほどまで静まっていた空気のなかにどす黒い
翳
(
かげ
)
りが差すと、
陽
(
ひ
)
の光が
苛立
(
いらだ
)
って見えた。それはまた天気の崩れはじめる
兆
(
きざし
)
だった。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
声は少し
錆
(
さび
)
のある高調子で、
訛
(
なまり
)
のない東京弁だった。かなり、
辛辣
(
しんらつ
)
な取調べに対して、色は
蒼白
(
あおざ
)
めながらも、割合に冷静に、平気らしく答弁するのが、
復
(
また
)
、署長を
苛立
(
いらだ
)
たせた。
越後獅子
(新字新仮名)
/
羽志主水
(著)
だからお母はんはいやや、すぐそうばかりとる、とTちゃんが
苛立
(
いらだ
)
たしそうにおこる。あっちへかえってからもこの母子の感情の急所はこういうところにあることがわかります。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
美佐子の返事は
曖昧
(
あいまい
)
で、不満足なものだった。曖昧さはうまく言えないところから来ていた。うまく言えないで
苛立
(
いらだ
)
ち、苛立つと余計うまく言えなくなるのだったが意味はわかった。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
初音町の家を出るまで、
苛立
(
いらだ
)
つようであった純一の心が、いよいよこれで汽車にさえ乗れば、箱根に
行
(
い
)
かれるのだと思うと同時に、差していた
汐
(
しお
)
の引くように、ずうと静まって来た。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
いかに彼が心中
喘
(
あえ
)
ぎ
苛立
(
いらだ
)
って捜し求めているか、十分想像に難くないのであった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
唐突に、
鋸
(
かんな
)
くずのような幕が切っておとされて、野蛮な四重奏が
苛立
(
いらだ
)
たしく鳴りだした。最初、私にあたえられた令嬢社交界のような音律の苦痛が、しだいにエクスタシイに私を誘った。
大阪万華鏡
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
四時過ぎに役所から帰つて来て洋服の儘に机の前に坐つて居たが、妙に心気が
苛立
(
いらだ
)
つのでいつのまにか倒れてしまつた。妻は姉が来て芝居へつれだしたとかで
小女
(
こをんな
)
が独り留守をして居た。
公判
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
欝々
(
うつうつ
)
と頭を押しつけて、ただもう蒸し暑く、電気を含んだ空は、
嵩
(
かさ
)
にかかって
嚇
(
おど
)
かしつけるようで、感情ばかり
苛立
(
いらだ
)
つ、そうして存外に近い山までが、濃厚な
藍靛
(
らんてん
)
色や、紺色に染まって
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
アイツは僕が先生の注射のお蔭でグーグー眠っているのを見ると、妙に
苛立
(
いらだ
)
たしくなって、
癪
(
しゃく
)
に
障
(
さわ
)
って来るのです。そうして
終
(
しま
)
いには殺してしまいたいくらい憎らしくなって来るんです。
狂人は笑う
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
あの
疼痛
(
とうつう
)
に似たせつない空腹感、やがて
空
(
す
)
ききってそれが痛みかどうかさえわからなくなり、ただ、どこにも力の入れようのない
苛立
(
いらだ
)
たしさがからだ全体に漂いだし、遠くのものがかすみ
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
疳高く
凛
(
りん
)
とした声だった。
颯
(
さ
)
っと
褥
(
しとね
)
を蹴って立ち上ると
苛立
(
いらだ
)
たしげに言った。
十万石の怪談
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
重い息苦しい空気のただよっている玄関の、うす暗い灯のなかに突っ立って、私は異常の怖ろしさと
苛立
(
いらだ
)
たしさに胸をとどろかせていると、たちまちに長い鋭いひと声が家のなかでひびいた。
世界怪談名作集:10 廃宅
(新字新仮名)
/
エルンスト・テオドーア・アマーデウス・ホフマン
(著)
私はただ、
苛立
(
いらだ
)
たしい心を抱いて立っているよりほかはなかった。と、前の桑畑から、
肥桶
(
こやしおけ
)
を担いだ一人の百姓男が膝のぬけた股引を
穿
(
は
)
き
菅笠
(
すげがさ
)
を
冠
(
かむ
)
ってやって来て、家の中に這入ろうとした。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
私は
旧臘
(
きゅうろう
)
からのゴタゴタで、満足な仕事もせず、世の中から忘れられたと
僻
(
ひが
)
んでいたときだけに、その客たちが嬉しく、桂子が二時間経っても、まだ来ない気持の
苛立
(
いらだ
)
ちも紛らすことができた。
野狐
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
一言一句がハッキリ耳に
這入
(
はい
)
って、私の神経はいよいよ
苛立
(
いらだ
)
って来た。
急行十三時間
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
苛
常用漢字
中学
部首:⾋
8画
立
常用漢字
小1
部首:⽴
5画
“苛立”で始まる語句
苛立勝