花崗石みかげいし)” の例文
溝にわたした花崗石みかげいしの橋の上に、髪ふり乱して垢光りする襤褸ぼろを着た女乞食をなごこじきが、二歳許りの石塊いしくれの様な児に乳房をふくませて坐つて居た。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
製糸工場の最初の経営者の墓は、花崗石みかげいしの立派なもので、寄付金をした有志の姓名は、金文字で、高い墓石にりつけられてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
奥筋の方から渦巻うずまき流れて来る木曾川の水は青緑の色に光って、かわいたりぬれたりしている無数の白い花崗石みかげいしの間におどっていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本堂のような所にはアラバスターの仏像や、大きな花崗石みかげいしを彫って黄金を塗りつけた涅槃像ねはんぞうがある。T氏はこれに花を供えて拝していた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
湯壺ゆつぼ花崗石みかげいしたたみ上げて、十五畳敷じょうじきぐらいの広さに仕切ってある。大抵たいていは十三四人つかってるがたまには誰も居ない事がある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十日ほど前には、可なりビク/\と潜つた花崗石みかげいしらしい大石門を、今日は可なり自信に充ちた歩調で潜ることが出来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
天保時代の建物たる宗介天狗の拝殿も、窩人達の住居もなかったが、そのいしずえとも思われる、幾多の花崗石みかげいしは残っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白足袋で、黒の爪皮つまかわを深く掛けた小さく高い足駄穿あしだばきで、花崗石みかげいしの上を小刻こきざみの音、からからと二足三足。つむりが軒の下を放れたと思うと、腰をして、打仰いで空を見た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陰氣な花崗石みかげいしの舊い家々、ブルトンのあらゆる物は——ヤンを戀してゐる今でこそ彼女の心を魅してはゐるが——其の朝は殊に、悲しさと寂しさとに充ち/\て見えた。
入口の格子戸から、花崗石みかげいしを塗り込めたたたきの庭まで、小ざっぱりと奥床しげに出来ている。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
黒胡麻の花崗石みかげいし銷磨しょうまして、白堊はくあのように平ったくさらされている、しぶきのかかるところ、洗われない物もなく、水の音は空気に激震を起して崖に反響し、森を揺すっている
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
紙包みを両手で前胸のところにかかえて、旭小路あさひこうじのゆるい坂を登った。この道は暗い。二間幅ほどの道をはさんで、両側に、どちらも、高い花崗石みかげいしの崖と、煉瓦塀とが聳えている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
花崗石みかげいしと、木煉瓦と、蛇紋石と、ステインドグラスと、白ペンキ塗りの材木とで組上げた、華麗荘重なゴチック式で、その左側の壁に「御見舞受付……歌原家」という貼札がしてある。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一寸ちょっとその家の模様をはなしてみると、通路とおりから、五六階の石段をあがると、昔の冠木門かぶきもん風な表門で、それから右の方の玄関まで行く間が、花崗石みかげいしの敷石つたい、その間の、つまり表から見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
巨大な花崗石みかげいしふたではありませんか。
花崗石みかげいしとばりに代り、くろがねを
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
秋は木槿もくげなどの紅く白く咲く傍を通つて、ずつと奥深く進んで行つたところにあるのであるが——周囲を花崗石みかげいしの塀で囲まれて
百合子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
今廃道同様の運命になつて、花崗石みかげいし截石きりいしや材木が処狭ところせきまで積まれて、その石や木間から、尺もある雑草が離々として生ひ乱れて居る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
九竜くりゅうで見たと同じ道普請のローラーで花崗石みかげいしのくずをならしている。その前を赤い腰巻きをしたインド人が赤旗を持ってのろのろ歩いていた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其外にやすりと小刀ないふ襟飾えりかざりが一つ落ちてゐる。最後さいごむかふすみを見ると、三尺位の花崗石みかげいしの台の上に、福神漬ふくじんづけくわん程な込み入つた器械が乗せてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
十日ほど前には、可なりビク/\とくぐった花崗石みかげいしらしい大石門を、今日は可なり自信にちた歩調で潜ることが出来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この地勢のやや窮まったところに、雪崩なだれをも押し流す谿流の勢いを見せて、凍った花崗石みかげいしの間を落ちて来ているのが蘭川あららぎがわだ。木曾川の支流の一つだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いつも夜なかに小用に行く女中は、竹のさらさらとれ合う音をこわがったり、花崗石みかげいしの石燈籠を、白い着物を着た人がしゃがんでいるように見えると云ってこわがったりする。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一ツ曲って突当りに、檜造ひのきづくりの玄関が整然きちん真四角まっしかくに控えたが、娘はそれへは向わないで、あゆみの花崗石みかげいしを左へ放れた、おもてから折まわしの土塀のなかばに、アーチ形の木戸がある。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花崗石みかげいしとばりに代り、くろがねを
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
今廢道同樣の運命になつて、花崗石みかげいし截石きりいしや材木が處狹きまで積まれて、その石や木の間から、尺もある雜草が離々りゝとして生ひ亂れて居る。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
日本橋その他の石橋の花崗石みかげいしが、大正十二年の震火災に焼けてボロボロにはじけたあとが、今日でも歴然と残っている。
鑢屑 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのほかにやすりとナイフとえり飾りが一つ落ちている。最後に向こうのすみを見ると、三尺ぐらいの花崗石みかげいしの台の上に、福神漬ふくじんづけかんほどな複雑な器械が乗せてある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花崗石みかげいし門柱もんばしらを並べて扉が左右に開いて居る、門の内の横手の格子こうしの前に、萌黄もえぎに塗った中に南と白で抜いたポンプがすわって、そのふち釣棹つりざおふごとがぶらりとかかって居る、まことにもの静かな
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを這入はいると、向うにすすけたような古家の玄関が見えているが、そこまで行く間が、左右を外囲そとがこいよりずっと低いかなめ垣で為切しきった道になっていて、長方形の花崗石みかげいしが飛び飛びに敷いてある。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして五六間来ると其処等の山から切出す花崗石みかげいしの石材が路傍に五つ六つころがしてあつた。四人はそれぞれ其上に腰掛けた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
朝食後に上陸して九竜くりゅうを見に行く。……海岸に石切り場がある。がけの風化した柔らかい岩の中に花崗石みかげいしの大きなかたまりがはまっているのを火薬で割って出すらしい。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いかめしい表玄関の戸はいつもの通りまっていた。津田はその上半部じょうはんぶすかぼりのようにまれた厚い格子こうしの中を何気なくのぞいた。中には大きな花崗石みかげいし沓脱くつぬぎが静かに横たわっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
普請小屋ふしんごやと、花崗石みかげいし門柱もんばしらならべてとびら左右さいうひらいてる、もんうち横手よこて格子かうしまへに、萌黄もえぎつたなかみなみしろいたポンプがすわつて、そのふち釣棹つりざをふごとがぶらりとかゝつてる、まことにものしづかな
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大きい花崗石みかげいしの台に載つた洗面盥には、見よ見よ、こぼれる許り盈々なみなみと、毛程の皺さへ立てぬ秋の水が、玲瓏れいろうとして銀水の如く盛つてあるではないか。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
浜べに近い、花崗石みかげいしの岩盤でできた街路を歩いていると横手から妙な男が自分を目がけてやって来る。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
花崗石みかげいしの上に平蜘蛛ひらぐも
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場近くの神社で花崗石みかげいしの石の鳥居が両方の柱とも見事に折れて、その折れ口が同じ傾斜角度を示して、同じ向きに折れていて、おまけに二つの折れ目の断面がほぼ同平面に近かった。
静岡地震被害見学記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)