芭蕉ばせう)” の例文
其晩そのばん宗助そうすけうらからおほきな芭蕉ばせうを二まいつてて、それを座敷ざしきえんいて、其上そのうえ御米およねならんですゞみながら、小六ころくことはなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
借家しやくやは或実業家の別荘の中に建つてゐたから、芭蕉ばせうのきさへぎつたり、広い池が見渡せたり、存外ぞんぐわい居心地のよい住居すまひだつた。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はらすいると、のばしてとゞところなつ無花果いちじく芭蕉ばせうもぎつてふ、若し起上たちあがつてもぎらなければならぬなら飢餓うゑしんだかも知れないが
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
あそこの温泉の位置は芭蕉ばせうの行つた時とは丸で違つてゐて、その時分には、あの殺生石せつしやうせきから此方こつちへと下りて来る渓流の岸に浴舎が並んでゐたらしいが、何でもひどい洪水があつて
行つて見たいところ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
たゞ見るさへあやふければ、芭蕉ばせうが蝶も居直ゐなほる笠の上といひし木曾きそかけはしにもをさ/\おとらず。
この菊塢きくう狂歌きやうかしゆ発句ほつくあり、(手紙と其書そのしよ移転ひつこしまぎれにさがしても知れぬは残念ざんねんにもかくにも一個いつこ豪傑がうけつ山師やましなにやらゑし隅田川すみだがは」と白猿はくゑんが、芭蕉ばせうの句をもじりて笑ひしは
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
こゝも壁のないバラック建てで、田の字づくりの小さい平家であつた。庭に、何人がかへもあるやうな榕樹ようじゆが、乳のやうに枝を垂らしてゐた。青い小さな実をつけた、芭蕉ばせうの葉も繁つてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
軍艦ぐんかん」は、その翌々晩よく/\ばん豫定通よていどうりに、印度大陸インドたいりく西岸せいがんコロンボのみなと寄港きかうして、艦長松島海軍大佐かんちやうまつしまかいぐんたいさと、わたくしと、武村兵曹たけむらへいそうとは、椰子やし芭蕉ばせうはやしひく海岸かいがんおほひ、波止塲はとばのほとりから段々だん/″\たか
日の光を一ぱいに浴びた庭先には、葉の裂けた芭蕉ばせうや、坊主になりかかつた梧桐あをぎりが、まきや竹の緑と一しよになつて、暖かく何坪かの秋を領してゐる。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其内そのうちうすしもりて、うら芭蕉ばせう見事みごとくだいた。あさ崖上がけうへ家主やぬしにははうで、ひよどりするどいこゑてた。夕方ゆふがたにはおもていそ豆腐屋とうふや喇叭らつぱまじつて、圓明寺ゑんみやうじ木魚もくぎよおときこえた。ます/\みじかくなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
無花果いちじく芭蕉ばせうこけむすいづみのほとりに生茂おひしげつてるのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
梧桐あをぎり芭蕉ばせう、柳など詩や句に揺落えうらくを歌はるるものは、みな思ひのほか散る事遅し。一体いつたい百日紅と云ふ木、春も新緑の色あまねき頃にならば、容易に赤い芽を吹かず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いや、暗い軒先の芭蕉ばせうそよぎも覚えてゐる。しかし先生の訓戒には忠だつたと云ひ切る自信を持たない。
漱石山房の冬 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(熱心に棚の書物を検べる。)近松ちかまつ全集、万葉集略解まんえふしふりやくげ、たけくらべ、アンナ・カレニナ、芭蕉ばせう句集、——ない。ない。やつぱりない。ないと云ふ筈はないのだが……
LOS CAPRICHOS (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
牛込うしごめの或町を歩いてゐたら、誰の屋敷か知らないが、黒塀くろべいの続いてゐる所へ出た。今にも倒れてしまひさうな、ひどく古い黒塀だつた。塀の中には芭蕉ばせうや松が、もたれ合ふやうに一杯茂つてゐた。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
芭蕉ばせう おつと、この緑のランプの火屋ほやを風に吹き折られる所だつた。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)