はず)” の例文
覚メタケレドモ事ノ意外ニ驚キあきレ、アマリニはずカシイ恰好かっこうヲシテイルノデ、寝タフリヲシテ通ソウトシテイルノダ。僕ハソウ思ッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
先方の心の休まるように書いた方が宜かろうと、はずかしそうに筆を執りまして、大藏が教ゆる通りの文面をすら/\書いてやりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とさも感心したるように言う。小山が笑いながら「誰に教えて戴くのか。エ、誰に」大原「ウフフ」とはずかしそうに黙っている。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
信三はちょっと眼を細めた、昌子は彼が自分の姿を美しいと見てくれたことを感じ、はずかしさと誇らしさとに思わず微笑した。
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして私はお前自身にもよく分らないらしかった、あの時のはずかしさとも怒りともつかないものの原因をそれ以上知ろうとはしなかった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
花嫁ははずかしさのために顔をかくし、さらに自分全体を包み隠してくれるベールをさがしているというような場面を想像しました。
私はそのとき穴へも入りたいほどはずかしかった。世の中には美しく見えて惨酷なものがじつに多い。それを見るとき私の心は憤りに慄える。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その男の感じたこと、考えたことが直ちに施設となるような、その場あたりの脆弱ぜいじゃくな方針が目に見えて来る。はずかしいのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
何だかはずかしいような、また何物かからひどく卑しめられてるような、そしてまた何物かに対して大変申しわけがないようなさまざまな思いが
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
そうなると恐ろしいもので、物を云うにも思い切ったことは云えなくなる、はずかしくなる、極りが悪くなる、皆例の卵の作用から起ることであろう。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あれほどはずかしめられた私ではあったけれど、この有様ありさまを見てはそんな反感なんかは持ちつづけられなかった。私は叔父をつれて病院まわりをした。
私は毎朝この青年の立派な姿を見るたびに、何ともいわれぬうらやましさと、また身のはずかしさとを覚えて、野鼠のねずみのように物蔭ものかげにかくれるのが常であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
はずかしいはなしですけれど、紀介様のしばしばおおせになるああいうお言葉には、やはり嫉妬のようなお心がまざっていると考えていましたわたくしは
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お前は私から都の風をもぎとって、その代りにお前のれた物といえばからすや梟の鳴く声ばかり。お前はそれをはずかしいとも、むごたらしいとも思わないのだよ
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
婦人おんなはよくよくあしらいかねたか、ぬすむようにわしを見てさっと顔をあからめて初心らしい、そんなたちではあるまいに、はずかしげにひざなる手拭てぬぐいはしを口にあてた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その他種々様々の失敗しくじりと後悔とはずかしい思いとを残した四年の間の記憶の土地からも離れて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
はずかしいことには、とり残された私は、神経衰弱になってしまったというわけなんです——
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
二十五年第四高等中学校教授ニ任ゼラレ、以テ今ニ至ル。余ヤ菲才ひさい浅学ニシテ府県ニ文部省ニ奉職シ育英ノ任ニむさぼリ、尺寸せきすんノ功ナク、常ニソノ職ヲむなシクセシコトヲはずのみ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けたたましく警鐘が鳴り、「来たぞゥ」と壮丁の呼ぶ声も胸を轟かします。隣字の烏山では到頭労働に行く途中の鮮人を三名殺してしまいました。済まぬ事はずかしい事です。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なつかしき女史は、幾日の間をか着のみ着のままに過しけん、秋の初めの熱苦あつくるしき空を、汗臭あせくさ無下むげよごれたる浴衣ゆかたを着して、妙齢の処女のさすがに人目はずかしげなる風情ふぜいにて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
はずかしい、と云ったが、一段と声を落して殆んど独語のように、然様そうでは無い山崎、我たとい微禄小身なりとも都近くにあらば、何ぞの折には如何ようなる働きをも為し得て
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ひどく酒くせえなあ。むむそうか。花嫁の部屋でも、身内のよい酒盛りとかやるのがならいだからそのせいだな。……これよ、娘、いや嫁御。なにもそうはずかしがるにはおよばぬよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
な、女は全裸体すっぱだかなのだ。月がそいつを照らしているのだ。グーッと手拭いで体を拭く。そんな時女ははずかし気もなく、片足を上へ持ち上げるのだ。とうとう我輩は呟いてしまった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の部屋の中にいくつも掘り返した穴のあとは、前かた試験に落第してその都度腹を立てた挙動の跡で、のちのちそれを見るとはずかしくなって、人に合せる顔もないように思われた。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「ほんまに好い芸妓げいこさんになりゃはりましたでっしゃろ。このひとにも、好きな人がひとりあるのっせ」と、軽くからかうようにいうと、若奴は優しい顔に笑窪えくぼを見せてはずかしそうにしながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
はずかしながら、おまえがなくてはこのなかに、だれおもってきようやら、おまえ一人ひとりを、むねにひそめてたあたし。あたしにねというのなら、たったいまでも、身代みがわりにもなりましょう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
処女しょじょはずかしがるは何が一番はなはだしきかというに、自分のからだにありて、親にも示すべからざるものあるがためである。これは秘密にすべきものではあるが、善悪の標準をもって論ずる限りではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし何かSの手前へもはずかしいようには感じていた。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はずかしそうに打ち笑みて、まあしましょう。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
はずかしめさへ感じないですんだのでした。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
私はその目を避けるような恰好かっこうをしながら、彼女の上にかがみかけて、その額にそっと接吻した。私は心からはずかしかった。……
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「そらそやわ。女が女に見せるねんもんはずかしいことあれへんし、誰かて自分の肌められて悪い気イせえへんやんかいな。」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
顔の赤くなるほどはずかしいことや、また生きていることがいやになるほど卑しいことや、まだまださまざまの Evil を!
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
なかには男の席から会釈をおくられて、はずかしそうに赤くなる者や、勇敢に挨拶を返してつれの娘に叩かれる者などもいた。
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのとき、太った鈴木隆助の胸に阿賀妻謙の名が彫りきざまれたのである。うずくようなはずかしめの感じを伴っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
お身はまだはずかしいことを知っているし、その羞かしいもののつぐないを世の人におくる善良さを持って、それを挨拶あいさつとして殿中と別れようとしていられる
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
めえらの知った事じゃアない、えゝ殿様、誠にはずかしい事だが、此の千代が御当家こちらへ奉公にめえった其の時から、わしは千代に惚れたの惚れねえのと云うのじゃアねえ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はずかしさのために顔を真赤にして、両の眼には涙さえ浮べながらやっとこれだけを云う事ができた。しかし、彼女自身は自分が今、何を云ったのだかよくは解らなかった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
これらの婦女はほしいままにその淫情を解放して意気揚々いささかのはずる色だもなし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
オホホお登和さん、そんなにおはずかしがりなさらないでもようございますよ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
みやこ子女しじょとして至って平民的な彼等も流石にはずかしそうな笑止しょうしな顔をした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おや、真っ暗じゃねえか。……ははあん、さてははずかしがっているのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光子さんははずかしそうに下向いてくつくつ笑うてなさるだけで、てんと話はずまずに、間ものう帰ってしまわれました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恐らくその青年に、そのしどけない姿を残らず見られたろうと思って、私は死ぬほどはずかしい思いをしていた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「お言葉を忘れずにまいりました、でもわたくし、なんにも存じませんので、——はずかしゅうございますわ」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかしわたくしははずかしさをつぐなうことも出来ず、また、それをしようとも考えていない、わたくしには何ももうしろに退けてしまった、あるものはお身だけだ。
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と一時のたわむれにして此の場の話を打消そうと致されましたのを、女中達は本当の事と思って、羨ましそうにいずれも島路のかたへ目を注ぎますので、島路ははずかしくもあり
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は、母の深い情を感ずるよりも、自分自身の臆病な、卑屈な心をつくづくはずかしく思うた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
これらの婦女はほしいままにその淫情を解放して意気揚々いささかのはずる色だもなし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そんなにはずかしいかえ……」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)