築地つきじ)” の例文
青木さんは、そのデパートの築地つきじの寮から日本橋のお店にかよっているのであるが、収入は、女ひとりの生活にやっとというところ。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
それには少年らしい志望がしたためてあり、築地つきじに住む教師について英学をはじめたいにより父の許しを得たいということがしたためてある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私が再びうなずきながら、この築地つきじ居留地の図は、独り銅版画として興味があるばかりでなく、牡丹ぼたん唐獅子からじしの絵を描いた相乗あいのり人力車じんりきしゃ
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
男「何処だか存じませんが、今朝程築地つきじのお屋敷へ往って浮田金太夫うきたきんだゆう様の処へ、竹次郎というお弟子と今一人を連れて参りました」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
木挽町汐留こびきちょうしおどめ(いまの新橋しんばしのふきん)にある奥平おくだいらやしきにいきますと、鉄砲洲てっぽうず築地つきじ)にあるなかやしきの長屋ながやをかしてくれるということでした。
せいては事を仕損しそんずる、今日のように築地つきじへ打っちゃられに行った猫が無事に帰宅せん間は無暗むやみに飛び込む訳には行かん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
月島つきしまの埋立工事が出来上ると共に、築地つきじの海岸からは新に曳船ひきふねの渡しが出来た。向島むこうじまには人の知る竹屋たけやの渡しがあり、橋場はしばには橋場の渡しがある。
そうして古人の作は参考品としたら、さらに興味が深いであろうという議が起りまして、それが決まると、早速築地つきじ本願寺で開会することになった。
築地つきじの川は今よりも青くながれている。高い建物のすくない町のうえに紺青こんじょうの空が大きく澄んで、秋の雲がその白いかげをゆらゆらと浮かべている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
水脚みずあしを入れた艀舟は、入れかわり立ちかわり、大川へ指し下り、天神の築地つきじかかっている親船へ胴のをよせてゆく。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして彼は、木村氏の案内によって築地つきじの某料亭の門をくぐったのであった。時刻は丁度午後三時十七分であった。
暗号数字 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夏のある朝築地つきじまで用があって電車で出掛けた。日比谷ひびやで乗換える時に時計を見ると、まだ少し予定の時刻より早過ぎたから、ちょっと公園へはいってみた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
幸子は今度も築地つきじの浜屋を宿にしたが、妙子は彼女と策謀しているような形になるのを避けて、用談を片附けるまでは渋谷に泊り込み戦術を取ることにした。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そろいも揃って気骨きこつ稜々りょうりょうたる不遇の高材逸足の集合であって、大隈侯等の維新の当時の築地つきじ梁山泊りょうざんぱく知らず
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
庸三はその夏築地つきじ小劇場で二人に出逢った。額に前髪のかぶさった彼女の顔もやつれていたし、無造作な浴衣ゆかたの着流しでもあったので、すぐには気がつかなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わたくしは大正四年の十二月に、五郎作の長文の手紙がうりに出たと聞いて、大晦日おおみそか築地つきじの弘文堂へ買いに往った。手紙は罫紙けいし十二枚に細字さいじで書いたものである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
古いところでは『倭名鈔』の郷名に上総かずさ畔治あはる郷がある。まずあぜを築いて後に田を開くことあたかも近年の築地つきじ、築出し新田のごときものを意味するのであろうか。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
聖アグネス病院といふのは、ご存じないかも知れませんが、築地つきじ河岸かしちかく三方を掘割にかこまれてゐる一劃いっかくに、ひつそり立つてゐるあまり大きくない病院です。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
築地つきじ別院に遺骸いがいが安置され、お葬儀の前に、名残なごりをおしむものに、芳貌ほうぼうをおがむことを許された。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
現に横浜の外国人中にも養鶏は大流行をしていますし、築地つきじ辺の外国人も沢山鶏を飼っています。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
古藤はやむなくまた五十川女史を訪問した。女史とは築地つきじのある教会堂の執事の部屋へやで会った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
替えて、できるだけ大廻おおまわりをして、築地つきじの高梨家へ行くんだ。田舎言葉がばれないようにね
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私が恋したその役者と云うのは、浅草の猿若町の守田座——これは御維新になってから、築地つきじに移って今の新富座しんとみざになったのですが、役者に出ていた染之助と云う役者なのです。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ねて板伯より依頼なし置くとの事なりし『自由燈じゆうのともしび新聞』記者坂崎斌さかざきさかん氏の宅に至り、初対面の挨拶を述べて、将来の訓導を頼み聞え、やがて築地つきじなる新栄しんさかえ女学校に入学して十二
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これは築地つきじの、市の施療院せりょういんでのことですが、その病院では、当番の鈴木、上与那原かみよなはら両海軍軍医少佐しょうさ以下の沈着なしょちで、火が来るまえに、看護婦たちにたん架をかつがせなどして
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「そちはこのあたり、築地つきじのホテル館や新島原のにぎわいやなどをゆるゆる見物するがよい、拙者ひとりで一ッ走り行ってまいろう、今日のところは到着のことをお届けするだけじゃ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そうして九月もいつか二十日ほど過ぎた或日、独逸ドイツの婦人が兄の後を追って来て、築地つきじ精養軒せいようけんにいるという話を聞いた時は、どんなに驚いたでしょうか。婦人の名はエリスというのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
本当の仕込みは伯父さん(芝猿丈しえんじょう)と築地つきじのお師匠さん(藤田勘十郎氏)のお蔭なのですが、それとても、身体からだが弱いために本当の勉強が出来ておりませんので、トテモお恥かしい訳なのです。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あなた、築地つきじへ異人館が出来たそうですから、見に行きましょうよ」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゴーリキーの『母』という小説がありますが、あれを築地つきじったことがあります。山本安英やまもとやすえが母になって非常によく演りました。これはプロレタリア・イデオロギーの立場からみたのであります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
築地つきじの瑪瑙座の事務所を呼び出して、暫く受話器を握っていたが、軈て通話が終ると、何思ったのかついぞ着た事もないタキシードなどを着込んで、胸のポケットへ純白なハンカチを一寸折り込むと
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
築地つきじきん楽。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
老公が和助の年齢を尋ねるから、半蔵は十三歳と答えながら、和助の鉛筆で写生した築地つきじ辺の図なぞを老公の笑い草にそなえた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その連中の主催する音楽会が近々築地つきじ精養軒せいようけんで開かれると云う事は、法文科の掲示場けいじばに貼ってある広告で、俊助も兼ね兼ね承知していた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
魚河岸うおがし築地つきじへうつってからは、いっそう名前もすたれて、げんざいは、たいていの東京名所絵葉書から取除かれている。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
万事傷心のたねならざるはなし。その翌年よくねん草の芽再び萌出もえいづる頃なるを、われも一夜いちや大久保を去りて築地つきじ独棲どくせいしければかの矢筈草もそののちはいかがなりけん。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
隣席の奥様がその隣席の御主人に「あれはもと築地つきじに居た女優ですよ。うまいわねえ」と賞讃している。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
春の生理をみなぎらした川筋の満潮みちしおが、石垣のかきの一つ一つへ、ひたひたと接吻くちづけに似た音をひそめている。鉄砲洲てっぽうず築地つきじ浅野家あさのけの上屋敷は、ぐるりと川に添っていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
築地つきじの海軍工場がひけたのであろう。暗い方から明るい方へと、黒い服のかたまりが押して来た。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日こんにちの処は、長谷川町の番人喜助の続きとお話が二途ふたみちに分れますが、のちに一つ道に成る其の前文でありますからお聴きにくい事でございましょう、さて築地つきじ本郷町ほんごうちょう小田原町おだわらちょう
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
神経過敏になっている様子を見ると、今は躊躇ちゅうちょしている場合でないので、午前中に大阪の夫の事務所を急報で呼び出し、築地つきじの浜屋へ部屋を申し込んでくれるように頼んだ。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日取りはしかと覚えませんが、その前後のこと、京橋築地つきじにアーレンス商会というドイツ人経営の有名な商館があって、その番頭のベンケイという妙な名の男とうことになった。
それから、銀座の美術商から逃げだした豹は、築地つきじの西洋館の塀の中へ、とびこんでいった。そして消えてしまったが、その西洋館には、白ひげのネコじいさんが、すんでいた。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丁度ちょうどそのころ、築地つきじ本願寺裏から明石町あかしちょうにかけて、厳重な非常警戒網がかれた。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
村で同姓の知合いを、神田の鍛冶町かじちょうたずねるか、石川島の会社の方へ出ている妻の弟を築地つきじの家に訪ねるかした。時とすると横浜で商館の方へ勤めている自分の弟を訪ねることもあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
相州箱根の口の風祭かざまつりという村は、後に築地つきじへ持って来たせきの姥の石像のあったところですが、その近くにも大登山秋葉寺だいとうざんあきばじという寺があって、いつの頃からか三尺坊を迎えて祀っています。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さてこそ遂に狂したれと、妾は急ぎ書生を呼び、きほどに待遇あしらわしめつつ、座を退しりぞきてその後の成行きをうかがうち、書生は客をすかなだめて屋外にいざない、みずか築地つきじなる某教会に送り届けたりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
築地つきじ海軍操練所で算数の学を修め、次で塾の教員の列に加わった。弘前に徙って間もなく、山澄は熕隊こうたい司令官にせられた。兵士中を立てんと欲するものは、多くこの山澄を師として洋算ようざんを学んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「御父さんは御留守よ。今日は築地つきじで何かあるんですって」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうです、この銅版画は。築地つきじ居留地の図——ですか。図どりが中々巧妙じゃありませんか。その上明暗も相当に面白く出来ているようです。」
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)