眉宇びう)” の例文
ただいずこともなく誇れるたかおもかげ眉宇びうの間に動き、一搏いっぱくして南の空遠く飛ばんとするかれが離別の詞を人々は耳そばだててけど
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
実際、生絹はもはや難波なにわの里べで見た女とは変って、おもだち清く品は眉宇びうにあふれて青菜をあらうむかしの生絹の姿ではなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
怒る時は鼻柱から眉宇びうにかけて暗澹あんたんたる色をみなぎらし、落胆する時は鼻の表現があせ落ちて行くのが手に取るように見えるまで悄気しょげ返る。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
決意が眉宇びうにあらわれて、目がギラギラと光った。富士男のことばはしごく道理である、だがだれも口を開こうとするものがない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
氏は大方の場合には、田園の長者ぶりの持主であるが、遇々たまたま相手を瞶められる時、博士の威厳が眉宇びうに現われ、寄っ付けない程に鋭くなると。
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その代り、他の患者達に見られない、何か切迫した生気が眉宇びうに漂っていた。彼女はその未知の青年に一種の好意に近いものを感じた。……
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
同じ国内から選び出された騎手は武者振いして、馬の平首を撫でながら、我こそという意気を眉宇びうの間にかがやかしています。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はせいの短いがっしりした体格の男で、強固な意志が眉宇びうの間に窺われ、ニューヨークの暗黒界に於ける一大勢力であった。
変な恋 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
青年の白皙はくせきな、女にしたいほど目鼻だちの整った顔が現れたが、その眉宇びうの間には、隠しきれない大きな心配ごとのあるのが物語られていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
眉宇びうくちもとには不屈な性格があらわれている、……しずかに座った通胤は、そのするどい眼をあげてきっと父を見あげた。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いや、伊予守たちには、何かは分らなかったが、ただならぬ決意とだけは分る——越前守の今日の眉宇びうを、なだめ、さとしていう風でもあった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身装みなりは構わず、しぼりのなえたので見すぼらしいが、鼻筋の通った、めじりの上った、意気のさかんなることその眉宇びうの間にあふれて、ちっともめげぬ立振舞。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天城屋敷の池田出羽のもとへ早馬で駈着けたのは野末源之丞。奥書院にて人払いの上、密談の最中。池田出羽は当惑の色をその眉宇びうの間に示しながら。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
瑠璃子は、しとやかに椅子いすから、身を起したとき、彼女の眉宇びうの間には、すさまじい決心の色が、アリアリと浮んでいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
金銀の気が直に眉宇びうに迫って来るような気がするのは、必ずしもわれわれが蔵を持たぬためばかりではあるまい。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
彼の眉宇びうはひきしまった。見とおしもついて来た。どこか地の底をふるわせて、本流の重い水音も聞えるようであった。見知った川筋も間近かであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
栄三郎は強い決意を眉宇びうに示して、ひそかに武蔵太郎をしつつ夜盗やとうのごとく鈴川の邸内へ忍びこんだのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この素晴らしい競爭者には、どうせ太刀打が出來ないと思つたのでせう、眉宇びうの間に焦燥せうさうの稻妻は走りますが、でも、唇には愛想の良い微笑さへ浮びます。
多年病魔と戦つてこの大業を成したるの勇気は凛乎りんことして眉宇びうの間に現はれ居れどもその枯燥こそうの態は余をして無遠慮にいはしむれば全くきたる羅漢らかんなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この青年の眉宇びうの間にあふれているいじらしいほどの熱情から、その決心があることは疑うべくもないのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と再び振り向く梅子を、力まかせに松島は引きゑつ、憤怒の色、眉宇びうに閃めきしがたちまちにしてしひおもてやはらげ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ほぼ同年頃の吾等われらの子供等と比べると眉宇びうの間にどことなしに浮世の波の反映らしいものがある。膝の上にはどうも西洋菓子の折らしい大きな紙包みを載せている。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこが物足らぬのである。ある咄嗟とっさの衝動で、この情があの女の眉宇びうにひらめいた瞬時に、わが成就じょうじゅするであろう。しかし——いつそれが見られるか解らない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
哲学者風の重厚沈毅ちんきに加えて革命党風の精悍剛愎が眉宇びうあふれている状貌じょうぼうらしく考えていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さすがに円熟の風格のうちにふはりと包まれながら、眉宇びうにも一挙一動にもみち溢れてゐた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
東屋氏の眉宇びうに、ふと不安の影が掠めた。——もしも、このままで釧路丸が来なかったとしたら、夜が来る。夜が来れば、大事な目標の鯨群は、いやでも見失わねばならない。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
いずれも必勝の気をその眉宇びうにみなぎらして、ずらりそこに馬首を打ち揃えましたものでしたから、犬公方初め場内一統のものが、等しくどよめき立ったのは当然なことでした。
そういう性質はずっと後になっても、眉宇びうの間に現われていて、或る人々から誤解されたり、余り好かれなかったりしたというのは、そんな点の現われた所であったろうと思う。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
座に着きし初めより始終黙然もくねんとして不快の色はおおう所なきまで眉宇びうにあらわれし武男、いよいよよろこばざる色を動かして、千々岩と山木を等分に憤りを含みたる目じりにかけつつ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
妙子が去ってからも、明智は以前の様に、子供達をボートにのせて、湖水を漕ぎ廻るのを日課にしていたが、さも快活に装いながら、眉宇びう一抹いちまつの曇りを隠すことは出来なかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この日、先生すこぶこころげに喜色きしょく眉宇びうあふれ、言語もいたっ明晰めいせきにして爽快そうかいなりき。
加之しかのみならず先生の識見、直ちに本来の性情より出で、つとに泰西輓近ばんきんの思想を道破せるものすくなからず。其の邪を罵り、俗をわらふや、一片氷雪の気天外より来り、我等の眉宇びうたんとするの概あり。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
へえ、どうぞ、と彦太郎も半信半疑ながら、頭を下げた。三十四五の浅黒い顔に広い額が秀で、いかにも精悍な気が眉宇びうに溢れていた。何処かで見たような顔だと思ったが、思い出せなかった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
写真の像は若々しく、とりすまして、希望の色を眉宇びうに滲ませている。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
しかし、法水が心中何事を企図しているのか知る由はないといっても、その眉宇びうの間にうかんでいる毅然きぜんたる決意を見ただけで、まさに彼が、乾坤一擲けんこんいってき大賭博おおばくちを打たんとしていることは明らかだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
天晴なる骨柄寛永武士気質を眉宇びうに漲らせている。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼の眉宇びうに決意がながれた。
今年の真夏追分宿で、仲よく(?)つきあった頃から見ると、多少やつれてはいたけれど、尚精悍の風貌は、眉宇びうのあいだに現われていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
半兵衛の眉宇びうを見つめたまま、樋口三郎兵衛はややしばし黙然としていたが、静かに、その眼を閉じると、はふり落つる涙と共に手をつかえて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流石さすがに彼は狼狽ろうばいもみせず、大きい声も立てず、だが眉宇びうの間に深いみぞをうかべて、なにごとか、五分間ほど、考えをまとめているらしい様子だった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかもあきらかに一片の懸念のおもかげは、美しい眉宇びうの間にあらわれたのである。お夏は神に誓って、たわむれにもかかる挙動ふるまいをすべき身ではないのであった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一行のうちの、最も無口で、背が低くて、眉宇びう精悍せいかんなのが、掘崩しの前のところまで進んで出ました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次はこまぬいた腕をほぐしました。眉宇びうの間に、何やら決断たるものがひらめくのでした。
「ホホウ、このおは、伊賀の者か。ハッハッハッ、そう言えば、道理で、眉宇びうかんに、年少ながらも、人を人とも思わぬ伊賀魂いがだましいが、現われておるわい。イヤ、あらそわれんものじゃ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
江戸っ子魂の意地の強さを眉宇びうにみなぎらしながら、厳として緘黙かんもくしたきりでしたから、当然の帰結としてなんびとにもただちに想起される問題は、拷問火責めの道具ばかりとなりました。
かよわい瑠璃子の顔は、真蒼まっさおだった。身体はかすかにふるえていたけれども、わるびれた所は少しもなかった。その美しい眉宇びうは、きっと、きしまって、許すまじき色が、アリ/\と動いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
決心の色を眉宇びうみなぎらしている。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女中たちは命じられたまま、燭台の幾つかを廊下へ出して花のごとく居流れたものの、一脈の殺気、殿の眉宇びうから流れて、なんとなく恐ろしい。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これで七難を隠すというのに、嬰児あかごなつくべき目附と眉の形の物やわらかさ。人は皆鴨川かもがわ(一に加茂川に造る、)君の詞藻は、その眉宇びうの間にあふれるとうのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か一心に思い詰めたような決心の色が明らかに眉宇びうの間に現われている。思うところあって来たらしい。しかしそれはとにかくとして、南蛮屋の店へはいった以上、安穏あんのんではいられまい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)