白拍子しらびょうし)” の例文
その後白拍子しらびょうし猿楽さるがくなどあり。不全の楽にはあれど、邦人の作るところなるをもって人心に適するは、はるかに唐楽にまされりとす。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
西施せいし小観音こかんのん小槌こづち、おだまき、獅子丸、於呂知おろち、箱根、沖波などという白拍子しらびょうし名をそれぞれに持っており、わけて於呂知というのは
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからお嬢さん、曽我兄弟の芝居を御存知でしょう? あれに出て来る亀鶴という綺麗な白拍子しらびょうしの墓が今通ったところにありますよ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
女は年頃十八あまり、頭には黄金の烏帽子えぼしを冠ぶり腰に細身の太刀たちき、萌黄色もえぎいろ直垂ひたたれを着流した白拍子しらびょうしろうたけた姿である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
乞食どもと滓湯酒かすゆざけを飲みわけたり、八条猪熊で辻君を漁ったり、あげくのはて、鉢叩や歩き白拍子しらびょうしを邸へ連れこんで乱痴気騒ぎをやらかす。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当時、京都には、妓王、妓女ぎじょと呼ばれる、白拍子しらびょうしの、ひときわ衆に抜きん出た姉妹があった。その母も刀自とじと呼ばれ、昔、白拍子であった。
「今夜は白拍子しらびょうしの首を持ってきておくれ。とびきり美しい白拍子の首だよ。舞いを舞わせるのだから。私が今様いまようを唄ってきかせてあげるよ」
桜の森の満開の下 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ここの大池の中洲の島に、かりの法壇を設けて、雨を祈ると触れてな。……はかま練衣ねりぎぬ烏帽子えぼし狩衣かりぎぬ白拍子しらびょうしの姿がかろう。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世人はそれを「道成寺どうじょうじ」に見たて、彼女を白拍子しらびょうし一葉とし、他のものを同宿坊と言伝えたほどであった。それは二十九年一月のことである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのうちにさとさなくとも早百合姫は、道に志ある身となって、しかし、これは逆に塵中じんちゅうへ引返し、いの天才を発揮して京町の名だたる白拍子しらびょうしとなりました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いかがわしき白拍子しらびょうしの手踊りとなり、一座の無礼講となりて、いまいましきこと限りもなければ、くにも辞し去らんと思いたれど、山木がしきりに引き留むるが上に
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「都へ出て、浮川竹うきかわたけ白拍子しらびょうしのはかないつとめをいたしておりますうちに、妹の祇女ぎじょとともに、あの入道殿のお見出しにあずかって、寵愛を一身にうけるようになりました」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然ども遊女などの艶色を御覧の為にはあらざれ共、遊女はもと白拍子しらびょうしなり、されば御評定所の御会日の節、白拍子などを御給仕に御召あり、公事御裁許以後、一曲ひとかなでをも被仰付
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
つづく大切おおぎりが「京鹿子娘道成寺」で、役割は、白拍子しらびょうしに岩井半四郎、ワキ僧が尾上梅三郎おのえうめさぶろうに、瀬川吉次、長唄は松島三郎治まつしまさぶろうじ坂田兵一郎さかだへいいちろう、三味線は、お師匠の杵屋新次きねやしんじさまに、お弟子の新三郎しんさぶろう
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
それがわしには相応しとるて。ヘッヘッヘ。やつらにゃまたわしのような乞食絵師が相当しとるんだ。だからわしのような者もなけりゃならんのさ。雲上人うんじょうびと相手の白拍子しらびょうしばかりじゃ世の中は足らん。
花に舞はで帰るさ憎し白拍子しらびょうし
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こゝの大池おおいけ中洲なかすの島に、かりの法壇を設けて、雨を祈ると触れてな。……はかま練衣ねりぎぬ烏帽子えぼし狩衣かりぎぬ白拍子しらびょうしの姿がからう。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浜御所の廻廊すべての燈籠どうろうに灯を入れること。そして、仮粧坂けわいざかや名越の傾城けいせい白拍子しらびょうしなどを、たくさんに呼びあつめろ。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部屋部屋の境いのふすまを外し、こうこうとした広間とし、燈火ともしびのあかるくともしつらねた、その部屋の正面に毛皮を敷き、京都五条から連れて来たところの、白拍子しらびょうし鞍馬くらまを膝へ引きよせ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
短夜みじかよいとま賜はる白拍子しらびょうし
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
白拍子しらびょうしの住まっているなまめいた舟は、昼は留守のようであったが夜となればとまの外へ紅い灯を垂れて、星のように出て来る気まぐれ男を招いていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……遊女、白拍子しらびょうしはまだしも、畏多おそれおおいが歌の住吉明神のお声だって写すんです。謡本うたいぼん首引くびッぴきで、朱筆で点を打ったって、真似方も出来るもんか。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すずし一枚着たばかりの、だから体がまると見えている、そういう白拍子しらびょうしと戯むれているのは、右少弁藤原俊基としもとであり、縁先に立って庭を見ながら、これも素肌にすずし一枚の、遊君ゆうくんに何かささやいているのは
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六条坊門の白拍子しらびょうし翠蛾すいがの家は、吉次の定宿じょうやども同じようになっていた。翠蛾の妹は潮音という。彼は潮音の檀那だんなであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大島守のやしきに、今年二十になる(白妙しろたえ。)と言つて、白拍子しらびょうしまいだれの腰元が一人あるわ——一年ひととせ……資治卿を饗応の時、酒宴うたげの興に、此の女がひとさし舞つた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「これは都に名も高き、白拍子しらびょうし喜瀬河きせがわに候なり……」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白拍子しらびょうしらしい女たちや、もっと低い種類のあそたちが、幾組も連れ立って、後からあとから榎の下へまいってゆく。
内侍所ないしどころに召されて、ろくおもきものにてそうろうにと申したりければ、とても人数ひとかずなれば、ただ舞はせよとおおせ下されければ、静が舞ひたりけるに、しんむしやうの曲と言ふ白拍子しらびょうしを、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かねて頼朝にも、弟の内縁の静が、神泉殿の雨乞あまごいの舞楽に、九十九人の舞姫のうちでも優れた白拍子しらびょうしであったということは聞き及んでいるところから
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
媛神 花の都の花の舞台、咲いて乱れた花の中に、花の白拍子しらびょうしを舞っている……
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが、あとでは、まったく何の記憶おぼえもないのでございまする。白龍の家の者や白拍子しらびょうしどもから、後日、しさいを聞かせられ、ただ慚愧ざんきのみで、どう無礼を
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道化の面の男。般若はんにゃの面の男。後見一人。お沢。(或男のめかけ、二十五、六)天狗てんぐ。(丁々坊ちょうちょうぼう巫女みこ。(五十ばかり)道成寺どうじょうじ白拍子しらびょうしふんしたる俳優やくしゃ。一ツ目小僧の童男童女。村の五、六人。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あちらの女どものおくへ渡らせて、双六すごろく扇投おうぎなげでもなされては如何。盛姫もりひめ催馬楽さいばらを見しょうとて、町より白拍子しらびょうしを呼び集め、にぎやかに遊んでおるらしいが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや長き。——と避けて、立離るる時、その石垣に立掛けたる人形つかいの傀儡にんぎょう目にとまる。あやつりの竹の先に、白拍子しらびょうしの舞の姿、美しくろうたけたり。夫人じっ立停たちどまる。無言。雨の音。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白拍子しらびょうしや遊女など二十余人も来て興をそえ、加茂川の瀬に朝月のかたむく頃まで、なおまだ、乱痴気な灯影や人影が、水亭の簾にさんざめいていることすらあった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またある人申しけるは、容顔美麗なる白拍子しらびょうしを、百人めして、——
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白拍子しらびょうしという名称は、ごく近年、聞こえだしたものであるが、かの女は、その白拍子のひとりだった。
或人あるひと申しけるは、容顔ようがん美麗びれいなる白拍子しらびょうしを、百人めして、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
紗綾形編さやがたあみの篠垣しのがきに、柳を抱いた女性的な門づくり。どうしてもしかるべき白拍子しらびょうしの家でもあるか、さもなくば仮粧坂けわいざかや小磯大磯あたりには多い茶屋といった屋構やがまえだった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白拍子しらびょうしの頃から麗名は高い。舞の上手、またなき容色の持主と、誰も聞いている。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしが、世の常の白拍子しらびょうしのように、判官様へ無情つれなくあれば、年老いたあなたに、こんな艱苦かんくはおかけしないでもよいのに……私の婦道みさおのために……お母様までを、憂目うきめに追いやって
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
トしきりは満座歓宴の乱れだったが、ほどなくまた新しい拍手の波に、高氏もふと舞台の方を見ると、そこには、金モミ烏帽子えぼし水干衣すいかん姿の白拍子しらびょうしが、両の手に振鈴ふりすずを持って、忽然こつねん
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『さりとは迷惑な。この貧しきおくへ、白拍子しらびょうしでも、呼べとやいわるる』
お菊ちゃんの身構えはまた冷々として氷柱つららか石のように、そして、すさぶ横笛は、平家の栄華を見、平家の末路を眼でみた、あのころの白拍子しらびょうしのなげきのように、恋も、ちまたのことも、永い人生も
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白拍子しらびょうしといえば、浮いた社会の出だが、義経以外の男性は知らない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「六条の、なんとやらいう白拍子しらびょうしの家と、四、五軒が焼けたそうで」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしは元、京都の六条で、白拍子しらびょうしをしておりました。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白拍子しらびょうしの、祇王ぎおうですらも歌うたではないか——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)