いた)” の例文
たゞ篇中の思想の頑癖に至りては、或は今日の余の思想とは異るところなり、友人諸君の幸にして余が為にいたく憂ひ玉はざらんことを。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
次の年の夏、韓国にあるわが子寛の重き病わづらふよし聞きていたく打歎きしが、十一月二日夜ふけて門叩くを誰かと問へば、寛の声なりけり。
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
ここにペテロ、主の「今日にわとり鳴く前に、なんじ三度みたびわれをいなまん」と言い給いし御言みことばおもいだし、外に出でていたく泣けり。
雪の上の足跡 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
梅子は大和に導かれて篠田の室に入り来りぬ、肉やゝ落ちて色さへいたく衰へて見ゆ、彼女かれは言葉は無くて慇懃いんぎんかしらを下げぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かく象がいたく鼠を嫌う故、大黒が鼠を制伏した体を表わして神威を掲げた事、今日インドで象頭神ガネサが鼠にのる処を画き
(是等の戰ひにトルクァート、己が蓬髮おどろのかみちなみて名を呼ばれたるクインツィオ、及びデーチとファービとはわが悦びていたたふとほまれを得たり)
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
飼馴かひならした籠の鳥でも逃げるかの様に村中から惜まれて、自分でもいたく残惜しさうにして、二三日の中にフイと立つて了つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうした事かと仙果は二、三度続けざまにはげしく手を鳴らしたが、すると、以前の女中が銚子だけを持って来ながら息使いもせわしくいたくも狼狽うろたえた様子で
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
踏分々々ふみわけ/\たどりゆきて見れば人家にはあらで一簇ひとむらしげりなればいたく望みを失ひはや神佛しんぶつにも見放みはなされ此處にて一命のはてる事かと只管ひたすらなげかなしみながら猶も向を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
雷の鳴る時はいたく電気を感じ全く発狂の体と為るとも申しますゆえ、定めし散々に荒れ廻り彼の前、彼の背後などから飛び附いたり躍り掛かったりしたのでしょう
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
けれども此言葉はいたく春三郎の心を掻亂した。文太郎は何と思つて舟乘々々と連呼したのであらう。
恐れ尊めるよりのとなえなれば、おもうに我邦のむかし山里の民どものいたく狼を怖れ尊める習慣ならわしの、漸くその故を失ないながら山深きここらにのみ今にのこれるにはあらずや。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
巻十五(三七八五)に宅守やかもりの、「ほととぎすあひだしまし置け汝が鳴けばふこころいたすべなし」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
競技者プレーヤーみん自分じぶんばんるのをたずして同時どうじあそたはむれ、えずあらそつて、針鼠はりねずみらうとしてたゝかつてゐますと、やが女王樣ぢよわうさまいたくお腹立はらだちになり、地鞴踏ぢだんだふみながら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
子供ごころにいたくその身の上に同情したのだろう、ひとつ違いの二人は、ふり分けがみ筒井筒つついづつといった仲で、ちいさな夫婦めおとよと、長屋じゅうの冗談の的だったのだが……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御痛みの方は以前ほどにはないようであったが、過大の一物いちもついたく御憎しみになり、あおのけに寝たまま、「こやつめが、こやつめが」ともなく罵られるようになった。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
単身越年をさんと決するや、さいこれをうれひとひそかに急行、小児を郷里の父母に托して登山し来るに就きては、幾分心を労することもあるなるべし、その結果妻は十一月上旬に至り、いたく逆上し
わが横にいたくずほれ歎く者ありと蟋蟀とりなして鳴く
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
盗人を捕えて見れば我子なりと知らぬ身の羅摩、すなわちハヌマンを遣わし大軍を率いて征伐せしめたが、二児に手いたく破られて逃れ還る。
世間もし涙を神聖に守るのわざけたる人を挙げて主宰とすることあらば、いたく悲しきことは跡を絶つにちかからんか。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
も拜見させらるれば元より肥前は篤實とくじつの者故いたおそうやまひぬ彌次六右門の兩人は爰ぞといづれにも天一坊樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
宝心丹は西大寺から出た除毒催吐の効あるものとして、其頃用いられたものと見える。さて此の毒飼の事が実に存したこととすれば、氏郷は宜いが政宗はいたく器量が下がる。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
春雨はるさめころもいたとほらめや七日なぬからば七夜ななよじとや 〔巻十・一九一七〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「先生——」驚愕きやうがく怪訝けげんとに心騒げる大和の声はいたくも調子狂ひたり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
東西洋ともに鬼の指を鳥の足のごとく画くは、過去地質期に人間の先祖が巨大異態の爬虫類と同時に生存して、いたく怪しみ、怖れた遺風であろう。
立てもいたむ事なき故友次郎は云に及ばずお花忠八もいたよろこかくては日ならず江戸へ下らるべしと猶おこたりなく看病かんびやうせしかば五日目には起居たちゐの成樣になり十日目ごろは座敷の中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いたく我が娘は叔母の娘に勝りたれば、叔母も日頃は養ひ娘の賢き可愛いとしさと、うみむすめ自然おのづからなる可愛いとしさとに孰れ優り劣り無く育てけるが、今年は二人ともに十六になりぬ、髪の艶、肌の光り
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
邦、因って血をいて死に、同日富人も稗を夢み病死した(『還冤記』)。桃はもと鬼がいたおそるるところだが、この張稗の鬼は桃を怖れず、桃枝もて人を殺す。
かかる話は蒙古等の民がいた鮓答さとうを尊ぶから生じたであろう。鮓答は胡語ジャダーの音訳で、今日もアルタイ地方に鮓答師ヤダチてふ術士あり。能くこの石を用いて天気を制す。
その『閹人顕正論』の四二頁已下いかにいわく、十一世紀にギリシア人、イタリアのベネヴェント公と戦い、いたくこれを苦しめた後、スポレト侯チッバルドこれをたすけてギリシア軍を破り
インド土人いわく虎子を生まばきっとその一疋は父虎に食わると、ロメーンスの説に猫いたく子を愛するの余り、人がむやみにその子にさわるを見ると自分で自分の子を食ってしまうとあった。