)” の例文
からだを掴まれることを厭がりあれ程れていても、嘴でしっかりと咬み付く、咬みつくとブルドッグのようにどうしても放さない
人真似鳥 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その度に譲吉は、夫人から受くる恩恵にれて、純な感謝の念が、一回毎に、薄れて行かぬよう、絶えず自分の心を戒しめて居た。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「ちッ、また優しさにれやがると、駿河台の穴蔵部屋で、ヒイヒイ叫んだような痛い目に会わしてくれるぞ。こういうふうにッ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お銀は仔羊こひつじのように柔順おとなしくなって来た。笹村の顔色を見ると、じきにその懐へ飛び込んで来るようなれしさを見せて来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
文壇ずれごうも無い、謙遜温雅な態度のうちに、一脈鬱々たる覇気があって、人をして容易にれしめないのは、長袖者ちょうしゅうしゃ流でないからである。
日本探偵小説界寸評 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれども男の人たちも登美子さんと同じように私の親切を浮気のせいだと心得て、たちまちれて口説いたり這いこんだりする。
青鬼の褌を洗う女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
なんによらず克己ということが、私にはひどく苦が手であった。先生の寛容にれては無智な傲慢で迷惑をかけることも度重なっていた。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
ひどくれ狎れしい、人好きのするようすである。彼はしゃがんで、まだ暴れている雀を拾いあげ、羽根を縫っていた吹矢を抜いた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もう一ぺんれて近づいて来るかの手ごたえがなければならないのに、この動物は更に動じないから、米友が、ちょっと面喰った形です。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
唯濹東の裏町、蚊のわめく溝際どぶぎわの家でしたしんだばかり。一たび別れてしまえば生涯相逢うべき機会も手段もない間柄である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御好意にれて、言いたい放題の事を言いました。きっと、あなたは烈火のようにお怒りでしょう。けれども私は、平気です。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
どこかの一流のひととれあって、ワニだのハトだのと、愉快にやっているところを想像するのは、そんなに不愉快でもない。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「なあに……あれあ広告よ。毛唐はよくあんな事をして人気を呼ぶそうだから……事によると両方れ合いでやっているのかも知れねえぜ」
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
晏平仲あんぺいちゅうは交際の道をよく心得ている人である。どんなに久しく交際している人に対してもれて敬意を失うことがない。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
世話をされる人々は、親切にされてもそれにれぬらしく、皆その位置をよく承知していて、尊敬を以てそれを守っている。
母にれ抜いた自分は、常から父をはばかっていた。けれども、本当の底を割って見ると、柔和やさしい母の方が、苛酷きびしい父よりはかえってこわかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汝は一見以て彼らを凡人視することもあらん。彼らは尊大ならず。汝は容易に彼らに近づくを得べく、彼らのしたしやすきが故に、れ易しとなさん。
武士道の山 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一時の太平にれて衣紋裝束えもんしやうぞく外見みえを飾れども、まこと武士の魂あるもの幾何かあるべき。華奢風流にすさめる重景が如き、物の用に立つべくもあらず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
我等が立てる甲斐の山の峻峭しゆんせうを以てするも、近づいてこれるゝ能はず、つゝしんでその神威を敬す、我が生国の大儒
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
それほど、一同は異常にれていた。それを今、電線の発見から、再び一同の頭には関係づけられて考えられて来た。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
警戒を要するのはここだ。これはあるいは、余り夫子に親しみ過ぎれ過ぎたためのよくの云わせることかも知れぬ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
国防服の前ボタンをすっかりあけはだけて、シャツの胸を見せている巻ゲートルは、れしい大声を出した。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
暖國ではどうしても人は自然にれがちである。ともすると甘えがちで、どこか自然を馬鹿にする所がある。
お雪は父が自分から進んで菩提寺へ出て行ったように話していたが、あるいは女房と番頭とがれ合いでうまく勧めて追い出したのではあるまいかとも疑われた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『類聚名物考』二八五に土御門つちみかど大臣「君が代は諫めの鼓鳥れて、風さへ枝を鳴らさゞりけり」
彼のへだて無く身近にるるを可忌うとましと思へば、貫一はわざと寐返ねがへりて、椅子を置きたるかたに向直り
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よはひおとろへぬれば白細布しろたへそでれにしきみをしぞおもふ 〔巻十二・二九五二〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
平日ふだんならば南蛮和尚といへる諢名を呼びて戯談口きゝ合ふべき間なれど、本堂建立中朝夕顔を見しより自然おのづれし馴染みも今は薄くなりたる上、使僧らしう威儀をつくろひて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
日本に居ることによってあまりにその境遇にれしたしみ、恵まれた運命に感謝することさえ忘れている大それた諸君みなさんには、とうてい察しが届くまいと私は逸早くあきらめている。
子、斉衰者もにあるひとを見るときは、れたりといえども必ず(容を)変ず。……凶服者はこれしょくす。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
昇にれ親んでから、お勢はもとの吾をくした、が、それには自分も心附くまい※お勢は昇を愛しているようで、実は愛してはいず、只昇に限らず、総て男子に、取分けて、若い
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
我も我もと身のまわりを飾ってれなずもうとしたが、懵学無識ぼうがくむしきの徒は、とても自分達の相手になってくれる女でないと思って、今更ながら己れの愚しさを悟るという有様であった。
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
湖水のみどりなるを見るより、四一うつつなき心にびて遊びなんとて、そこに衣をてて、身ををどらして深きに四二飛び入りつも、彼此をちこちおよぎめぐるに、わかきより水にれたるにもあらぬが
子供の無邪氣むじやきに對する惡例の危險、つた方から云へばつとめをゆるがせにする結果と紛亂——互の親和と信頼、それから出て來る自信——それに伴ふ横着わうちやく——反抗——そしておきまりの爆發。
酔客の座辺にれて歌舞周旋しゅうせんする其中に、漫語放言、憚る所なきは、活溌なるが如く無邪気なるが如く、又事実に於て無邪気無辜むこなる者もあらんなれども、之を目して座中の婬婦と言わざるを得ず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ呉々くれぐれも妻は己の職業に慢心まんしんして大切にしてもらう夫にれ、かりにも威張いばったり増長ぞうちょうせぬこと。月並のいましめのようなれど、余程よほどの心がけなくてはいわゆる女性のあさはかより、このへいおちいやすかるべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そう言うれた気持ちでいるようになったものである。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そしてしだいにれ狎れしくしだした。彼女は言った。
温和な春の日の箱車はこぐるまのなかにれ親しんで
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
れてむつみぬ、「にるばな」に。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
人のれて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
天皇を利用することにはれており、その自らの狡猾さ、大義名分というずるい看板をさとらずに、天皇の尊厳の御利益を謳歌している。
続堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
上も下も男も女も、れあって、みじかい命のあるかぎり、この世を畜生道にたたき込みおる。悪政家には、わが世の春じゃろう
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いにしえより忠は宦成におこたり病いは小に加わり、わざわいは懈惰けだに生じ孝は妻子に衰うという、また礼記らいきにも、れてしかしてこれを愛すといえり
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女を助け出したとき、あのかよが人々の面前で、万三郎にひどくれ狎れしくした。思いきり当てつけがましく、なまめいたことを云った。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
常子とれそめてからもう三つきあまりになるが、誰をも憚らず二人一しよに一夜をかたり明したのは昨夜ゆうべが初めてゞあつた。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
人にれることの少ないムク犬が、招かれた慢心和尚のかおをじっと見つめながら、尾を振ってそこへキチンとかしこまったのは、物の不思議です。
また、路上や電車の中などで、中学生などの親密なれあいを眼にするとき、僕の胸は消しがたき淋しさに襲われます。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
女はわざと男のかおを覗き込むように、猫のようなれた一瞬間の微笑をうかべると、すぐに座敷からでて行った。あし音が長い廊下から消えた。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼等はいつでもお客様達を、機智と諧謔とでもてなす心ぐみでいるが、而も一刻たりともお客様にれることをなさぬ。