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犇
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ひしめ
ふりがな文庫
“
犇
(
ひしめ
)” の例文
そして人々が
犇
(
ひしめ
)
き合っているうちに、大決心をもって落ちている緋房をそっと拾って掌に丸めこむと素知らぬ様子で、其場を立去った。
日蔭の街
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
戸を
犇
(
ひしめ
)
かして、男は打ち
僵
(
たお
)
れぬ。
朱
(
あけ
)
に染みたるわが手を見つつ、
重傷
(
いたで
)
に
唸
(
うめ
)
く声を聞ける白糸は、戸口に立ち
竦
(
すく
)
みて、わなわなと
顫
(
ふる
)
いぬ。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
闇が彼の身のまはりに
犇
(
ひしめ
)
いて居た。それは赤や緑や、紫やそれらの隙間のない集合で積重ねてあつた、
無上
(
むしやう
)
に重苦しい闇であつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
折から
初秋
(
はつあき
)
の日は暮るるになんなんとして流しの上は天井まで一面の湯気が立て
籠
(
こ
)
める。かの化物の
犇
(
ひしめ
)
く
様
(
さま
)
がその間から
朦朧
(
もうろう
)
と見える。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
役所の前は水が浅く、足のくるぶしまであるかなしかで、そこには人が
犇
(
ひしめ
)
いてい、縁側には役人たちと、寄場奉行の姿も見えた。
さぶ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
垢
(
あか
)
で黒光りした綿入れの上衣を着た苦力たちが、うようよと
犇
(
ひしめ
)
いて、それがみんな、寒さしのぎみたいに、わあわあ言っていて
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
地震前から持ち越しの永久的大鉄筋の間に、半永久的の上等なバラックが
犇
(
ひしめ
)
き並んで、
見様
(
みよう
)
によっては昔の銀座よりも美しくて変化がある。
街頭から見た新東京の裏面
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
博士だけは、直立して、柱の蔭に硝子の雨を避けていた。警官連中は入口の扉を開きはしたが近寄れないので、どうしたものかと
犇
(
ひしめ
)
き
合
(
あ
)
っていた。
国際殺人団の崩壊
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
蒲田が一切を引受けて見事に
埒
(
らち
)
開けんといふに励されて、さては一生の
怨敵
(
おんてき
)
退散の
賀
(
いはひ
)
と、
各
(
おのおの
)
漫
(
そぞろ
)
に
前
(
すす
)
む膝を
聚
(
あつ
)
めて、
長夜
(
ちようや
)
の宴を催さんとぞ
犇
(
ひしめ
)
いたる。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
死者狂いの四五十人が異口同音に、「それ
畳
(
たゝ
)
め、殺せ」と
犇
(
ひしめ
)
く
勢
(
いきおい
)
凄
(
すさ
)
まじく、前後左右より文治に打ってかゝりました。
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
ともすれば
懶
(
ものう
)
い
駘蕩
(
たいとう
)
たる春霞の中にあって、十万七千の包囲軍はひしひしと
犇
(
ひしめ
)
き合って小田原城に迫って居る。
小田原陣
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
夕暮れの通りを、
賑
(
にぎ
)
やかな天文館通りへ出て、富岡は、映画館の一つ一つを眺めてまはつた。狭い往来には、混血児的人種が、河水のやうに
犇
(
ひしめ
)
き流れてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
みんなどんなに期待に燃えてこの
酒場
(
タベルナ
)
の郵便棚のまえに
犇
(
ひしめ
)
くことであろう! すると、来てる来てる! 恋人から妻から娘から老母から!
眼白押
(
めじろお
)
しに立って
踊る地平線:08 しっぷ・あほうい!
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
参詣の群集が牛を取囲みこれを押しつぶそうと
犇
(
ひしめ
)
きあい、牛がつぶれると豊年なりとて歓声をあげる。
穀神としての牛に関する民俗
(新字新仮名)
/
中山太郎
(著)
警部の
温顔
(
おんがん
)
俄
(
にわか
)
に
厳
(
いか
)
めしうなりて、この者をも
拘引
(
こういん
)
せよと
犇
(
ひしめ
)
くに、巡査は承りてともかくも警察に来るべし、寒くなきよう
支度
(
したく
)
せよなどなお情けらしう注意するなりき。
妾の半生涯
(新字新仮名)
/
福田英子
(著)
夢中で橋を渡ると、
饒津
(
にぎつ
)
公園裏の土手を廻り、いつの間にか彼は
牛田
(
うした
)
方面へ向う堤まで来ていた。この頃、漸く正三は彼のすぐ周囲をぞろぞろと
犇
(
ひしめ
)
いている人の群に気づいていた。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
生活の
犇
(
ひしめ
)
きのあるのを感じ、伸子は、今直ぐにでも俥を呼ばせたいようになった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
これだけの異変が地表に起るには、地下によほど恐ろしい力の
犇
(
ひしめ
)
きがあるにちがいない。しかしそれが噴火となって爆発するか、この程度で落着くかという見透しはなかなか困難である。
天地創造の話
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
駒井は、今の日本の時世が、行詰まって息苦しい時世であり、狭いところに大多数の人間が
犇
(
ひしめ
)
き合って、おのおの
栗鼠
(
りす
)
のような眼をかがやかしている時世であることを、強く感じている。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
越
(
こえ
)
て
迯行
(
にげゆき
)
しと見え
足跡
(
あしあと
)
の付てあれば
追駈
(
おつかけ
)
よと
犇
(
ひしめ
)
き合ふに
以前
(
いぜん
)
の旅僧未だ車の
蔭
(
かげ
)
に居たりしが
此騷
(
このさわ
)
ぎを聞我此所に居るならば
盜賊
(
たうぞく
)
の
疑
(
うたが
)
ひ
掛
(
かゝ
)
りて
捕
(
とら
)
へられんも
量
(
はか
)
り
難
(
がた
)
し早く
此處
(
このところ
)
を立去べしと立上りしを
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
川沿いにあった草原や荒地には、すっかり家が建ち並び、川の中央にある小さな妙見島にも工場の建物が
犇
(
ひしめ
)
いている。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
さしも息苦き
温気
(
うんき
)
も、
咽
(
むせ
)
ばさるる
煙
(
けふり
)
の渦も、皆狂して知らざる如く、
寧
(
むし
)
ろ喜びて
罵
(
ののし
)
り
喚
(
わめ
)
く声、
笑頽
(
わらひくづ
)
るる声、
捩合
(
ねぢあ
)
ひ、
踏破
(
ふみしだ
)
く
犇
(
ひしめ
)
き、一斉に揚ぐる
響動
(
どよみ
)
など
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
今にも飛びかかりそうな
眼付
(
めつき
)
をしながら
扉
(
ドア
)
の蔭に
犇
(
ひしめ
)
いていたものであるが、兼が「兄貴達も容赦してくれ」と云って頭をグッと下げた会釈ぶりが気に入ったらしく
難船小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
何が何だか悟りのないまゝに、人間は社会と云ふ
枠
(
わく
)
のなかで、
犇
(
ひしめ
)
きあつては、生死をくり返してゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
今にも
戦争
(
いくさ
)
が起りそうに見える。焼け出された
裸馬
(
はだかうま
)
が、夜昼となく、屋敷の
周囲
(
まわり
)
を
暴
(
あ
)
れ
廻
(
まわ
)
ると、それを夜昼となく
足軽共
(
あしがるども
)
が
犇
(
ひしめ
)
きながら
追
(
おっ
)
かけているような心持がする。
夢十夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
と
渠
(
かれ
)
は
獨
(
ひと
)
り
頷
(
うなづ
)
きつゝ、
從容
(
しようよう
)
として
立上
(
たちあが
)
り、
甲板
(
デツキ
)
の
欄干
(
てすり
)
に
凭
(
よ
)
りて、
犇
(
ひしめ
)
き
合
(
あ
)
へる
乘客等
(
じようかくら
)
を
顧
(
かへり
)
みて
旅僧
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
こう叫ぶと彼は身体を
飜
(
ひるがえ
)
して駆け出しました。一同は呀ッと声を合せて叫びましたが、勝見の後を追って戸外の闇の中に
犇
(
ひしめ
)
きながら、実験室のある方向へ走って行きました。
赤耀館事件の真相
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
互に
各
(
おのおの
)
の意志を遂げて居る間に、各の枝は重り合ひ、ぶつつかり合ひ、
絡
(
から
)
み合ひ、
犇
(
ひしめ
)
き合つた。自分達ばかりが、太陽の
寵遇
(
ちようぐう
)
を得るためには、他の何物をも顧慮しては居られなかつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
川沿いにあった草原や荒地には、すっかり家が建ち並び、川の中央にある小さな妙見島にも工場の建物が
犇
(
ひしめ
)
いている。
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
長い間の戦争に
扱使
(
こきつか
)
はれてゐた、栄養のない顔が、
犇
(
ひしめ
)
きあつて、ゆき子の周囲を流れてゐる。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
その数は十五、六体もあろうか。互いに
犇
(
ひしめ
)
きあいながら、そのたびにあの異様なシュウシュウシュウシュウという怪音を立てるのであった。下宿で見た白い怪物と同じものだ。
地球盗難
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
暗い路は
自
(
おの
)
ずと神経的に
活
(
い
)
きて来た。坂の下まで歩いて、いよいよ
上
(
のぼ
)
ろうとすると、胸を突くほど急である。その急な傾斜を、人の頭がいっぱいに
埋
(
うず
)
めて、上から下まで
犇
(
ひしめ
)
いている。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
さりながら八蔵がなお念のため鉄棒にて
撲
(
なぐ
)
り
潰
(
つぶ
)
さむと
犇
(
ひしめ
)
くにぞ、その時敵は二人なれば、蹴散らして
一度
(
ひとたび
)
退かむか、さしては再び忍び入るにはなはだ便り悪ければ、
太
(
いた
)
く心を痛めしが
活人形
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
吹来
(
ふききた
)
り、吹去る風は
大浪
(
おほなみ
)
の寄せては返す如く絶間無く
轟
(
とどろ
)
きて、その
劇
(
はげし
)
きは柱などをひちひちと
鳴揺
(
なりゆる
)
がし、物打倒す
犇
(
ひしめ
)
き、
引断
(
ひきちぎ
)
る音、
圧折
(
へしお
)
る響は
此処彼処
(
ここかしこ
)
に聞えて、唯居るさへに
胆
(
きも
)
は
冷
(
ひや
)
されぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
或はこの空間に
犇
(
ひしめ
)
き合つて居るといふ不可見世界のスピリット達の意志が、自分自身のもの以上に、力強く働きかけるといふことはあり得べき事として、彼はそれを認めざるを得ないやうに思つた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
その飾窓の中には、大勢の怪人が顔をこっちへ向けて
犇
(
ひしめ
)
き
合
(
あ
)
っている姿が認められた。
地球発狂事件
(新字新仮名)
/
海野十三
、
丘丘十郎
(著)
他人様の家は怖い。牛と云う文字が、急に眼の中に寄って来て、
犇
(
ひしめ
)
くと云う文字に見えて来る。ああ私には絶好の機会と云うものがない。私は若い、若いから機会をつかみたいのだ。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
それから、始まって、息をつぐ間もなく、
爆裂音
(
ばくれつおん
)
が続いた。壕の天井や壁から、ばらばらと土が落ちて、
戦
(
おのの
)
き
犇
(
ひしめ
)
きあう避難民衆の頭の上に降った。あっちからもこっちからも、黄色い悲鳴があがる。
今昔ばなし抱合兵団:――金博士シリーズ・4――
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼等の顔のハッキリしないのも
道理
(
どうり
)
です。
全
(
まった
)
くは、顔というものが無いのです。頭のない生物です。頭のない生物が、まるで檻の中に
犇
(
ひしめ
)
きあう
大蜥蜴
(
おおとかげ
)
の
群
(
むれ
)
のように押し合いへし合いしているのです。
崩れる鬼影
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
犇
漢検1級
部首:⽜
12画
“犇”を含む語句
犇々
犇放