爽快そうかい)” の例文
翠色すいしょくしたたる草木の葉のみを望んでも、だれもその美と爽快そうかいとに打たれないものはあるまい。これが一年中われらの周囲の景致けいちである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しかも同一展望でも、仁田峠より更に約一千尺をのぼったこの絶頂からそれを眺める時、爽快そうかいの感情が加わること、いうまでもない。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
こう一気に書いて来て、宋江はその溌墨はつぼくの匂いとともに、心気すこぶる爽快そうかいになった。無性に、何かうれしくなり、つづいてその後に。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らには無為怠慢の長い期間が必要だった。そしてそれから出て来ると、あたかも熟睡のあとのように爽快そうかいに元気になっていた。
鼻汁をかんだ爽快そうかい等だ、それからノミや南京ナンキン虫にかまれた処をかいて快味をあじわって、しばらくこの世の苦労を忘れようとしたのであった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
己は根岸の家の鉄の扉を走って出たときは血がき立っていた。そして何か分からない爽快そうかいを感じていた。一種の力の感じを持っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
よく切れる鎌でいで行くのは爽快そうかいなものである。また草の根をぶりぶりかき切るのも痛快なものである。かゆい所をかくような気がする。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
また、われわれの精神の内を顧みるも、やはり爽快そうかい絶妙の理想を蓄うることが分かります。これまた、宇宙そのものの真相たるに相違ない。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
振りかえって、ぼくは自分の強さの確認と、専心していたスポーツに一段落のついた爽快そうかいで無心な気分から、ほがらかに山口を見て笑った。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
久しぶりで充分に腕だめしをして、彼の全身は爽快そうかいな疲れと満足にあふれていた。そのうえ仕官の望みは九分どおり確実である。
雨あがる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白雲の豪壮な体躯と、爽快そうかいなる咽喉のどから、この詩がほとばしり出でる時、茂太郎は笛をやめて、白雲の咽喉の動くのを見つめていたことがあります。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
榊はそれを語ろうともしなかった。唯、前途を語った。やがて、若々しい、爽快そうかいな笑声を残して、正太と一緒に席を立った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし彼女はこの言を耳にも入れない、空想の金髪の娘よ! 要するに彼女のうちにあるものは、新鮮、爽快そうかい、青春、朝の穏やかな光である。
男一ぴきなる句は一種爽快そうかいなる感想を人に与える。わが輩はその出所を知らぬが、おそらくは徳川時代の産物であろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
上より見下みおろす花笠日傘の行列と左右なる家屋との対照及びその遠近法はいふまでもなく爽快そうかいきわまりなき感を与ふ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
胸中に何のこだわるところもなくなった。これでもう僕も、完成せられたという爽快そうかいな満足感だけが残った。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことに朝はやく起きて海岸を散歩したり、しめっぽい朝霧あさぎりのこめた田や畑の間を散歩したりなんかするときの爽快そうかいさは、何とも言いようのない喜びであった。
うまければ栄養は申し分なく発揮され、身心爽快そうかい、健康成就と落ちつくのである。こうなれば料理の考え方も芸術的になり、おもしろくもなるというのである。
美食七十年の体験 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
氷塊こおりの打ち合う音 その氷塊こおりと氷塊が打ち合って非常に凄じい響の聞えた時は実に爽快そうかいに感じた。またその氷に日光が反射する塩梅あんばいがいかにも美しく見られたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
軽い朝風のはだざわりは爽快そうかいだったが、太陽の光熱は強く、高原の夏らしい感じだった。そうしているうちに加世子も女中と一緒に、タオルや石鹸シャボンをもって降りて来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして爽快そうかいなシャワア、いかにも気持ちが好さそうで、法華寺の浴室とは大変な違いである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
未明の冷気の熱汗をほとばせる爽快そうかい味はえもいわれず、誘いあわせて、霜ばしらを踏んでくる城下の若侍たちひきもきらず、およそ五十畳も敷けるかと思われる大板の間が
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
茶は風流な遊びではなくなって、自性了解じしょうりょうげの一つの方法となって来た。王元之おうげんしは茶を称揚して、直言のごとく霊をあふらせ、その爽快そうかいな苦味は善言の余馨よけいを思わせると言った。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
単に自分の好奇心を満足させるばかりではない。目下研究の学問に対してもっとも興味ある材料を給与する貢献こうけん的事業になる。こう態度が変化すると、精神が急に爽快そうかいになる。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はこの記事を新聞で読んだとき、そぞろに爽快そうかい戦慄せんりつを禁じることができなかった。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
鳥の歌、小川のささやき、息吹いぶいている春の香り、やわらかい夏の官能、黄金色の秋の盛観、さわやかな緑の衣をつけた大地、爽快そうかい紺碧こんぺきの大空、そしてまた豪華な雲が群がる空。
その上の麓の彩雲閣さいうんかく(名鉄経営)の楼上ろうじょうで、隆太郎のいわゆる「においのするうお」を冷たいビールの乾杯で、初めて爽快そうかいに風味して、ややしばらく飽満ほうまんした、そののことであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
夕方帰路につき、三人が百万遍で電車を下りるとバラバラにめいめいの家に帰る。今日はあまりに爽快そうかいな時を過したので、夜もブランデーの卓を囲む気分にはなれなかった。………
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こんな風に一切の絶対主義の敵として躍りだす際の彼のつらだましいには、われわれが習慣的に抱いているチェーホフの概念とはひどく懸けはなれた、爽快そうかいなまでに不敵なものがある。
はき出したあとで口をあけて空気をすいこむと、これはまた、なんという爽快そうかいなことだろう! 久助君の小さな口の中に、すずしい秋の朝が、ごっそりひとつはいりこんだみたいだ。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
また早起きの味がこんなにも爽快そうかいなものとは知らなかった。焜炉こんろに火をおこし、メリーと自分のために野菜を煮るのだが、私の心はまるで幼妻のそれのようにいそいそしているのだ。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
前の庭の若楓わかかえでかしわの木がはなやかに繁り合っていて、何とはなしに爽快そうかいな気のされるのをながめながら、源氏は「和しまた清し」と詩の句を口ずさんでいたが、玉鬘の豊麗な容貌ようぼう
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
山葵さびのきいたのを口にふくむと鼻の裏側をキュッとくすぐられる、あの一種の快さ、あれにちょっと似た不思議な爽快そうかい感を与える声で、少なくとも私には少なからず魅力的であった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
適度に感ずる時は爽快そうかいであり、かつ又健康を保つ上には何びとにも絶対に必要である。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先刻さっき、横浜駅前の(現今の桜木町さくらぎちょう駅)かねの橋を横に見て、いつもの通り、尾上町おのえちょうの方へ出ようとする河岸かしっぷちを通ると、薄荷はっかを製造している薄荷のにおいが、爽快そうかいに鼻をひっこすった
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この日、先生すこぶこころげに喜色きしょく眉宇びうあふれ、言語もいたっ明晰めいせきにして爽快そうかいなりき。
みなさんの責任は無上に重くはなるが、この想像はかなり爽快そうかいなものだと思う。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
爽快そうかいな句である。湯上りの若葉月夜などは、考えただけでもいい気持がする。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
パデレフスキーでは「第一番の円舞曲」の壮麗さは、吹込みは古いがさすがに超大家のおもかげがある(ビクターVD八)。ギーゼキングの「小犬のワルツ」(コロムビアJ五六〇四)の爽快そうかいさ。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
こういう時は、医師いしゃの友達は頼母たのもしかろう。ちと処方外の療治だがね、同じ葡萄酒ぶどうしゅでも薬局で喇叭らっぱめると、何となく難有味ありがたみが違って、おのずから精神が爽快そうかいになります。しかしおびえたっけ、ははは。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青春はむかしも今も変りません。二人は今の青年男女が野天のプールで泳ぐように、満身にを浴びながら水沫しぶきを跳ね飛ばして他愛もなく遊んでいます。あまりの爽快そうかいさに時の経つのも忘れていました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と、朗らかな声でそう叫んで、とても爽快そうかいに大笑いした。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
久しぶりに爽快そうかいな気を味わったが、時刻はいたって都合が悪い、もう夜半よわもすぎてやがて五こうになる頃おい、宿をとる間はなし
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おしまいにはかえって一種の適度な爽快そうかいな刺激として、からだを引きしめ、歩調を整えさせる拍節の音のようにも感ぜられるようになって来た。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
爽快そうかいな嘘を吐くものかなと僕は内心おかしかった。けれどこれしきの嘘には僕も負けてはいないのである。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
保馬はその風のなかを爽快そうかいにとばしていった。望湖庵へ登る山道では、落葉が雨のように舞っていた。
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
未来の夫としてお俊がえらんだ人は、丁度彼女と同じような旧家に生れた壮年わかものであった。ふとしたことから、彼女はその爽快そうかいで沈着な人となりを知るように成ったのである。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酒のさかなに不向きなまぐろで辛抱しんぼうしてきたであろう江戸人……、肉のいたみやすいめじまぐろに飽きはてた江戸人が、目に生新せいしん青葉あおばを見て爽快そうかいとなり、なにがなと望むところへ
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
エロチックの方面の生活のまるでねむっている秀麿が、平和ではあっても陰気なこの家で、心から爽快そうかいを覚えるのは、この小さい小間使を見る時ばかりだと云っても好い位である。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
見下ろしている下界とは距離のある不思議なほど爽快そうかいな気分が、いまにも落ちるのではないかという本能的な恐怖心といっしょに、ぼくにつづいていたし——いや、ことによると
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)