がら)” の例文
旧字:
机の上は勿論、とこにさえ原稿紙や手紙がらや雑誌や書籍がダラシなくゴタクサ積重ねられ、装飾らしい装飾は一物もなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
弁当のがらには、白い飯が、ろくに箸もつけず、残って来るし、料理屑は、どんどん捨てるし、これじゃ、野良犬がえるはずだと思った。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
灰の固まり——それは確かに見覚えのあるものだった。夫がいつも愛用した独逸製ドイツせいの半練り煙草のがらに違いなかった。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
灰色とも白とも淡褐色ともつかない・砂とほとんど見分けの付かない・ちょっと蝉のがらのような感じの・小さな蟹が無数に逃げ走るのである。
ずくしはけだし熟柹じゅくしであろう。空の火入れは煙草たばこの吸いがらを捨てるためのものではなく、どろどろにれた柹の実を、その器に受けて食うのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
抜けがらにして源氏に取られた小袿が、見苦しい着古しになっていなかったろうかなどと思いながらもその人の愛が身にんだ。空蝉のしている煩悶はんもんは複雑だった。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さも退屈さうである。となりに乗り合せた人が、新聞の読みがらそばに置くのに借りてる気も出さない。三四郎はおのづから妙になつて、ベーコンの論文集を伏せて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのくびからながしたが、きびがらにそまって、きびのいろがそのときからあかくなりしました。
瓜子姫子 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
代金には皆宝石を一粒ずつ髪毛かみのけの中からつまみ出して与えましたが、それから都の大通りを驀然まっしぐらに南に走りますと、しばらくして向うから美留藻のがらのお婆さんの着物を着て
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「いや結構です。」とキヤノンは前歯で大粒の玉蜀黍をぽつり/\かじりながら言つた。「もう七本も食べましたかな。」実際食卓の上には、玉蜀黍のがらが七本転がつてゐた。
園内を歩くと、せみのヌケがら幾個いくつも落ちて居る。昨夜は室内で、小さなものゝ臨終りんじゅう呻吟うめきの様なかすかな鳴声なきごえを聞いたが、今朝けさ見ればオルガンの上によわりはてたスイッチョが居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「試験が済んだ直ぐ後でしたから、試験勉強の出しがらが頭の中に残っていたんです」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
多分はどこかの村のすみに、まだがらのような存在を続けていることであろう。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたしもあの戦争の時には硝子ガラスを製造するほかにも石炭がらを戦地へ送りました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
入り見ればせみがら同様人を見ず、され共古びたる箱類許多あまたあり、ふたひらき見れば皆空虚くうきよなり、人夫等曰く多分猟師小屋れうしこやならんと、はからず天井をあほぎ見れば蜿蜒えん/\として数尺の大蛇よこたはり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
茶箪笥から出した煎餅せんべいも、弟たちが食い尽し、茶もがらになってしまった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
石炭がらんでゆく。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
兵糧がら、身まわりの物、些細なりと、四肢のうごきに荷となるものは、何なりと後を思わず、川のうちへ投げ捨てろ。ただ得物得物のほか持つな
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはいたずらに厳めしい塀と、もりの中の大きな檻と、門番小屋と、多分それだけであろう。辻川博士の怪邸も、いまはがらとなりはてたようなものであった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
崑崙山の麓で使い棄てた緑茶のがらから精製した白い粉末で、相当高価なものだそうですが、それでも我慢して、普通のお茶にぜてんでみると、芳香や風味は格別無い代りに
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
石炭のたきがら見たようにかさかさしてしかもいやに硬い。むかしハンニバルがアルプス山をえる時に、路の真中に当って大きな岩があって、どうしても軍隊が通行上の不便邪魔をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なるほど田舎いなかってねずみになって、木のやきびがらをかじってらすのは気楽きらくにちがいありませんが、これまでさんざんみやこでおいしいものをべて、おもしろいおもいをしたあとでは
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
彼が家のはなれの物置兼客間の天井てんじょうには、ぬけがらからはかって六尺以上の青大将が居る。其家が隣村にあった頃からの蛇で、家を引移ひきうつすと何時の間にか大将も引越して、吾家貌わがいえがおに住んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なおそれよりも前に、上総の東金とうがね附近の村では、これも二三日してから山の中のすすきくさむらの中に、しゃがんでいたのをさがしだしたが、それから久しい間、がらのような少年であったという。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし癇癪玉かんしゃくだまも、猛勇も際限があった。やがて淀町の焼跡の辻までかかると、精力の燃えがらになって彼は倒れていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ彼は、枕許まくらもとに近い土間の上に、昨夜発見しなかったものを見出した。いや、それは発見はしたのであろうがつい気がつかなかったのであろう。それは見慣れないたばこがらだった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「南無三、好事こうず魔多し」と髯ある人がかろく膝頭を打つ。「刹那せつなに千金を惜しまず」と髯なき人が葉巻のがらを庭先へたたきつける。隣りの合奏はいつしかやんで、を伝う雨点うてんの音のみが高く響く。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれど、彼の求める真理のかぎはなかった。太子がひろめられた教令のかたちはあっても、いつか、真理のたましいはどこにも失われていた。堂塔伽藍どうとうがらんはぬけがらであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ばばは弁当がらのそれをの上に付けて出した。小次郎は封をして、表に宛名、裏に
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、半刻はんときも、黙り合っている間に、彼の云いたい恨みも、お蔦の詫びたいことばも、ひとりでに声なく云い合ってしまって、顔を見た途端のいきどおりは、燃えがらのように、心のすみめてくる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医務室の職員たちもあらかた帰ってしまって、番茶がらまできれいに流してしまった小使部屋の老小使は、貸本屋の「自転車お玉」を愛読しながら、板裏草履いたうらぞうりの脚を椅子から椅子へ長々と掛けていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で——軒から軒の浅黄暖簾のれんや、がら色の出格子でごうしのうちから
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)