まき)” の例文
新字:
檜木ひのきさはら明檜あすひまき𣜌ねず——それを木曾きそはうでは五木ごぼくといひまして、さういふえたもりはやしがあのふか谷間たにあひしげつてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
広巳は離屋の前を通って広場へ出た。そこに梅の木がありまきの木などがあって、その枝には物干竿ものほしざおをわたして洗濯物をかけてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喜六君はズックぐつをぬいで、畠の垣根かきねになっているまきの根方にかくし、いたちのようにすばやく、池の方へのぼってゆきました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
まきの立木をそのままくねらせた風変りな門をくぐると、生垣がつづいている。次郎は、その生垣のすき間から茶の間の方をのぞいて見た。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
松は松として生き、桜は桜として、まきは槇として生きた。出来るだけ多く太陽の光を浴びて、己を大きくするために、彼等は枝を突き延した。
母親のおまきは言ふのです。口邊に漂ふ苦笑を、あわてて掻き消して、精一杯の眞劍な顏になるのは、かなりの見物でした。
日の光を一ぱいに浴びた庭先には、葉の裂けた芭蕉ばせうや、坊主になりかかつた梧桐あをぎりが、まきや竹の緑と一しよになつて、暖かく何坪かの秋を領してゐる。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
仕切りべいをまわした坪庭つぼにわには、高さ一丈ばかりのまきの木が五本あって、庭の白く乾いたぎらぎらする裸の土の上へ、染めたように黒く影をおとしていた。
殿下に随伴する一行は、お附武官の藤岡少佐、宮家附の浅野宮内省属、山田写真師、まきおよび私の外に、軍用鳩調査委員の伊東中尉が八羽の鳩を携えて参加した。
掘りだしたまま、まだまきの樹の下にころがされている空樽に目をとめたりした。西日のさす側の枝から見事に紅葉しかけているかえでが秋の朝風にすがすがしかった。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこでわたしは木立へ登り、そこから土塀のいただきへ登り、お屋敷の構内へ飛び下りました。構内の土塀近くに茂っているのは、松やかえでまきや桜の、植え込みでございました。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
びつくりするほど冷たい井戸水を、ザブ/\と二つのバケツに一ぱいむと、元気なまき君はそれを両手にさげて、廊下から階段を登つて、トツトと自分の教室へ帰つて来ました。
掃除当番 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
まき氏は近頃上海シャンハイから復員して帰って来たのですが、帰ってみると、家も妻子も無くなっていました。で、廿日市町の妹のところへ身を寄せ、時々、広島へ出掛けて行くのでした。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
抜いてみると、矢羽はぜいたくなたか石打いしうち、やじりはまきの葉形のドキドキするものであった。それにさびがみえないところから察するに、つい、昨日かきょうの流れ矢であろうと思われる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清々すが/\しいのは、かけくちをちら/\と、こぼれて、やまぷんかをる、ひのきまきなど新緑しんりよくである。松葉まつばもすら/\とまじつて、浴槽よくさういて、くゞつて、るゝがまゝにふ。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何にかけてやつなぐらんと思ひきや、四五日て瀧口が顏に憂の色漸く去りて、今までの如く物につけ事に觸れ、思ひ煩ふさまも見えず、胸の嵐はしらねども、表面うはべまきの梢のさらとも鳴らさず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
まきもやや光る葉がひをちて青鷺の群のなにかけうとさ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
まきの葉れたる樹下こした隠沼こもりぬにて
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みるが内にまきのしづえも沈みけり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一度は跡目相続の宗太のために飯田いいだから娵女よめじょのおまきを迎えた時。任期四年あまりにもなるが、半蔵が帰国のほどもまだ判然しない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
出迎えたのは五十五、六の老母、それは殺されたお園の養い親で、おまきという因業な女と——八五郎は心得て居ります。
日の光をいっぱいに浴びた庭先には、葉の裂けた芭蕉ばしょうや、坊主になりかかった梧桐あおぎりが、まきや竹の緑といっしょになって、暖かく何坪かの秋を領している。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伊藤喜兵衛いとうきへえは孫娘のおうめれて、浅草あさくさ観音の額堂がくどうそばを歩いていた。其の一行にはお梅の乳母のおまき医師坊主いしゃぼうず尾扇びせんが加わっていた。喜兵衛はお梅を見た。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼らはまき檜葉ひば類を少しずつ買った。それらを、西日のさす崖ぶちや、むき出しな格子の左右に植えた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
松本駅前の旅館に泊っていたまき君と私とは、駅に向って馳せ集る夥しい人の群に、それは秩父宮殿下が今朝此処ここへ御着きになって、やがて信濃鉄道へ御乗換になるその折の
まきの生垣のある路地をゆくと、梅林のある庭へ出たが、その庭に面して、やはり藁葺きの、隠居所ふうの建物が三棟あり、老婆はその端にある一と棟へかれらを案内した。
野茨やまきの葉や枝の隙から、崖下の谷川が眼の先に見え、そこに無邪気に水を浴びている、三人の女のこうの鳥のような、皓々こうこうと白い全裸体を、金粉のように降り注いでいる
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、十時近くには、三人はもう、そのふう変りなまきの立木の門をくぐっていた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
大木の白木蓮しろもくれん玉椿たまつばきまき海棠かいだう、黒竹、枝垂しだれ桜、大きな花柘榴はなざくろ、梅、夾竹桃けふちくたう、いろいろな種類の蘭の鉢。さうしてそれ等の不幸な木はかくも忙しくその居所を変へなければならなかつた。
もっと痛ましいのはあによめの身内であった。まき氏の家は大手町の川に臨んだ閑静なすまいで、私もこの春広島へ戻って来ると一度挨拶あいさつに行ったことがある。大手町は原子爆弾の中心といってもよかった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
この門よまき通草あけびも目立たずてすがしかりしか雨つづりつつ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
玄関前のおおきな杉。まき喬木きょうぼく
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
継母おまんをはじめ、よめのおまき、下男佐吉、下女お徳らはいずれも着物を改めて、すでに裏の土蔵の前あたりに集まっていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
出迎へたのは五十五六の老母、それは殺されたお園の養ひ親で、おまきといふ因業いんごふな女——と八五郎は心得てをります。
「彼女は今、太い毛糸針のように光るまきの葉を見ながら、或ることを考えている……」
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
小半時あまりも時刻ときを経た時、まき生垣いけがきに取り巻かれ、広い庭に厚く植え込みが繁り、その中に萱葺きの屋根などを持った、三棟ほどの風雅の家が、ひっそりと立っているという
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伊勢屋の娘は名をおいせといい、日本橋まき町の吉野屋という、糸綿問屋へ嫁にいっている。もちろん現在も吉野屋にいるし、懐妊ちゅうで、来月が産み月だ、ということであった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大正十年に在瑞西スイスまき有恒君が嶮難をもって聞えた前人未踏のアイガー東山稜の登攀に成功し、之が我国に報ぜられて若き登山家の心を躍らせ、岩山登攀の傾向を助長させたことは疑いない。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
馬籠にある彼女の生家さとも変わった。彼女はふるい屋敷の内の裏二階まで行って、久しぶりで祖母のおまんやあによめのおまきと一緒になることができた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母親のおまきは思ひの外記憶もよく、時間と事件の關係など、極めて要領よく話してくれます。
袖垣のようになっているまきの生垣の向うへ導いた——家族の住居とは離れて、隠居所でもあろう、松をとり廻した閑素な一棟がある、その横手で、かけひの水を汲んでいたのは佐和だった。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
茶屋の土間をぬけ、まきの生垣のある路地をゆくうちに、男はふと表情を変えた。
やくざの又五郎は、まき町の裏長屋に住んで居りました。
「榊でないといえば檜かなどと、葉を見ろ葉を、それはまきだ、高野槇だ、一般に槇などという木は盆栽には作りにくいものだ、それをわしが苦心してそれまでに仕立てたんだ、よく覚えておけ」
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お園の母親のおまきが説明するのです。
母屋おもやとその隠居所のあいだにまきの生垣があり、槇の枝には白っぽい黄色な若葉が、そろって活々と伸びている。また夏が来るな、ぼんやりそう思いながら、私は心をきめ、元の席へ戻って坐りました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)