しら)” の例文
旧字:
知りたかったのだ。あとは発送簿はっそうぼの数量を逆にしらべてゆくと、あの箱を積んだ日、したがってあれを製造した日がわかるという順序なんだ
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
部屋の中には荷物がそのまま置かれてありましたが、俊夫君が電灯の光でそれをしらべると、大部分は本物の川上糸子の所有品でした。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「京子さん、これはやっぱりあたり前の米粒だよ。だが、なぜこんなに薄黒いのだろう。君はこれをよくもしらべて見なかったのだね」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
心の不安に堪えずして目地をしらべ、床を叩き、よろめきながら地下室に踏み込む。彼女は寒さに身を凍らし敷石の上にうずくまる。
執着の強い大陸人の眼だ。あまり気味のいゝ眼差まなざしとは云はれない。もう拡大鏡なぞを使はず、所蔵の印を細かくしらべたりもしない。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
病中の日記をしらべて見ると九月二十三日の部に、「午前ジェームスをおわる。好い本を読んだと思う」と覚束おぼつかない文字もんじしたためてある。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴下あなたにおはなし申すことも、おしらべになって将校方にいったことも、全くこれにちがいはないのでこのほかにいうことは知らないです。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これもしらべて見ようと思ひながら、いまだにその儘打遣うつちやつてある。バイロンはサアダナペエラスをゲエテに、ケエンをスコツトに献じてゐる。
本の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
耳許へ口を押付けて叫んだが、老人は奇怪な言葉を最後に、絶命してしまった。——祐吉は老人の脈をたり、瞳孔をしらべたりしていたが
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それからは、港に着きますたんびに、船員たちの出入口に立つて、一人一人、顔をしらべてもみました。皆目、見当がつきません。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼はふと金がどうかなっていはしないかと思ったが、そこでしらべることも出来ないので、それを上衣の内兜うちかくしに入れ、時計を手首に着けた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼らの阿諛あゆはハスレルに有害であって、彼をあまりに自惚うぬぼれさしていた。彼は頭に浮かぶ楽想を、少しもしらべないでことごとく取り上げた。
そこで彼は悠々と、順序よくその紙幣さつ束を取りあげて、一々数をよんで、それから懐中電燈で仔細にしらべたり、手の甲で撫でてみたりした。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
しかるに、今宿へ戻ってしらべてみると、庄左衛門は他人の金品まで持ち逃げしている! これは下司げす下郎げろう仕業しわざで、士にあるまじきことだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
で、よくよく座敷の中をしらべてみると、その座敷の隅々すみずみ四隅よすみところに、素麪そうめんとお茶が少しずつ、こぼしたように置いてあった。
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
平次はそう言いながら、一と通り死体をしらべましたが、四十五六の岩乗がんじょうな男で、女や子供に縛られそうな柄ではありません。
「すぐ見当がつきますから。」それなり彼は、書物の背の標題をしらべるように装いながら、壁に添うてゆっくり歩き始めた。
父はこゝで池上から頼まれた仕事で目算書や届書をしらべるのに畳の上にごろりと転がりウヰスキーをちび/\飲みながら目を通していました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
百合圃ゆりばたけに、一ぽんいています。それで、今日きょうあそこへ植物学者しょくぶつがくしゃがきてしらべています。のちほどここへもあのひとたちは、やってくるでしょう。」
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しらべ」のために残された後、モニカは白無垢しろむくの装束を着け、したたるごとき黒髪を一ところ元結もとゆいで結び、下げ髪にしてしずしずと現われた。
暗い横町で、ばたばたと後を追っ駈けて来て体をしらべる二人の角袖に出逢いなどしたが、足は自然ひとりでに家の方へ向いて行った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それにもこりずに、彼は手匣てばことか行李とかを、もう一度一々性急に、しかも丹念にひっくり返してしらべてみるのであった。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
私の考へはじめは、「かたる」といふ語の用語例から出発して、万葉集その他のかたるの意義をしらべた辺から出て居る。
語部と叙事詩と (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
次に右手の雑木林へ入込んで、注意深く地上の足跡をしらべたが、晴天続きのために、地面はすっかり乾き固っていた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
時に室の戸を内からしらべて見た、何も戸を開いてどうしようと云う目的が有るでは無い、いたずらに、水の圧力がどう変化したかを見届けようとするのだ。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
そして自分の寝ているベンチと並んでいる、外のベンチをしらべて見た。頭を掻くような恰好をした。と、彼はもう帽子を被っていた。麦藁帽であった。
乳色の靄 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
梶の耳に這入って来た確かなしらべによると、ほとんど商人の九割までが破産状態にひんしているということであった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は、店員達が自ら進んで血液型の検査を受けることを申し出た時、僕も見て下さいと云って、しらべて貰っていた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
七郎は蓄えてある革をしらべてみると、それは虫がって敗れ、毛もことごとけていた。七郎はがっかりすると共に武から金をもらったことをひどく後悔した。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ホームズはしばらくの間、それをしらべていたが、やがて、叮嚀ていねいに折りたたんで、自分の手帳の間にはさんだ。
そして伸び上つて幹をしらべてみると、それは明らかに或る一種の恐ろしい病気に襲はれてゐることがわかつた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そうして、四隅に不思議な記号しるしをつけ、七と九に関する数字をつけて、その輪のどの部分にも少しの相違もないように、注意ぶかくしらべてからちあがった。
傍人蛇を殺して鳥を救いしも、全く怖れたばかりで死にいた証拠には、その身をしらべしに少しもきずなかった。
潰し鳥を買う時には第一に胸の骨が満足なるやいなやをしらべなければなりません。モー一つは首の処から口で空気を吹込みます。これはとりばかりでありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それは、最近行われた「小林多喜二的身構え」という言句をめぐる論争の性格をしらべて見てもよくわかる。
それは『なまぐさ』があるか否かをしらべるので、あると境内を汚したというので事面倒に及んだ。藩邸に懸合って、遂に藩主までが首尾を損することになった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
そうして(九)および(21)でも申した通り、俳句の文法をしらべたければまず普通に話す我等の言葉の文法からしてお検べなさいと申し上げたいのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
はっとしたメリコフが、急いでバス・ルウムへ行って、手早く持ち物をしらべてみると、腹巻のポケットにもちゃんと鍵がかかっているし、そっくり元の場所にある。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
守衛室で外套を脱ぐと、それを丹念にしらべてから、よくよく注意をしてくれるようにと守衛に頼んだ。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
そして半ヶ年の後にその筒をしらべてみると、随分な高にのぼつてゐるので、男も女も声をあげて喜んだ。
ふだんから何かもう少し賢明な方法で学力をしらべるようにするのが近代的な教育であると私は思う。
雨粒 (新字新仮名) / 石原純(著)
その未知の世界をしらべること、そのやみの中におもりを投ずること、その深淵しんえんの中に探査に行くこと、だれがそれをあえてなし得たろうか。それこそ戦慄せんりつすべきことだった。
手紙葉書の来そうな時刻には門口に見張っていて、受け取ったらまずしらべてからでないと渡されぬ。訪問してゆきそうな先々へはあらかじめ出向いて注意をしてもらう。
ロザリオの鎖 (新字新仮名) / 永井隆(著)
二つ折れに屈んで地面をしらべると、井戸の縁に片足かけて刀に滴る血潮を振りさばいたものとみえて、どす黒い点が土の上を一列に走ってもよりの油障子の腰板へ跳ねて
赤つぽい髪の毛や、垢ずんだ首の皺や襦袢じゆばんの襟が近づき——しかし、その時、彼は何か発見したやうな眼つきになり、ぢつと彼女の身体つきをしらべ、眺め廻したのである。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「紀久ちゃん! 警察がしらべにおいでくださったから、なんでも本当のことを申し上げて……」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼はそれらの植物のうちにひそんでいる性質をしらべ、その創造的原素の観察をおこない、何ゆえにこの葉はこういう形をしているか、かの葉はああいう形をしているか、また
ヴァランタンは四つんばいになって、おそろしく細密な職業的な注意を払って、死体の附近二十ヤード四方のくさむらや地面をしらべた。博士も下手ながら英大使もうろうろしながら手伝った。
それが終わると、ケンペルのそばに近づいて来て健康の診断を求め、試みに彼の意見を聞きたいという一人ひとり剃髪ていはつの人があった。脈を取ってしらべて見ると、疑いもない健康者だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、あなたの室を探したけれど見つからないので、絶望的な気持になって、半ば自暴自棄にもなって、先生の書斎をしらべたのです。すると、吉川さんの日記が出て来ました。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)