トップ
>
棘
>
とげ
ふりがな文庫
“
棘
(
とげ
)” の例文
かれらが女を避けるのは、彼女の立ち居があまりに乱暴で、
棘
(
とげ
)
とげしくって、また仮借のない
凄
(
すご
)
いような毒口をきくからであった。
雨あがる
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
歌詞
(
ことば
)
に
棘
(
とげ
)
があるといえばあるものの、根が
狂気女
(
きちがいおんな
)
の口ずさむ俗曲、聞く人びとも笑いこそすれ、別に気に留める者とてはなかった。
釘抜藤吉捕物覚書:05 お茶漬音頭
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
得たりと勢込んで紀昌がその矢を放てば、飛衛はとっさに、傍なる
野茨
(
のいばら
)
の
枝
(
えだ
)
を折り取り、その
棘
(
とげ
)
の
先端
(
せんたん
)
をもってハッシと鏃を
叩
(
たた
)
き落した。
名人伝
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
さうすると、やたらに茨の
棘
(
とげ
)
がひつかかり出して、道は深い
榛
(
はしばみ
)
の叢みの中へはいるが、それでもかまはず、さきへさきへと行かつしやれ。
ディカーニカ近郷夜話 前篇:06 紛失した国書
(新字旧仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
向う側の通りでは、カーキ服が、
棘
(
とげ
)
のある針金を引っぱって作業をつゞけていた。睨みあった。こちらが睨む。向うが睨む。石が飛んだ。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
▼ もっと見る
(ミュゾオの庭には、詩人が自分の手で百株ばかりの薔薇を植えていたのである。)その時その薔薇の
棘
(
とげ
)
が彼の手を傷つけた。
雉子日記
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
ね、水の底に赤いひとでがいますよ。
銀水
(
ぎんいろ
)
のなまこがいますよ。ゆっくりゆっくり、
這
(
は
)
ってますねえ、それからあのユラユラ青びかりの
棘
(
とげ
)
を
シグナルとシグナレス
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
大いに安心してその砂原の中をだんだん進行してちょうど五時頃当り小さな草も生えて居れば
棘
(
とげ
)
のある低い樹の生えて居る所に着きました。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
と、丙の男がそろそろとお蝶の体へ近寄って、膝の上の白い手へ
触
(
さわ
)
りましたが、彼女の手は、
茨
(
いばら
)
の如く
棘
(
とげ
)
を立って男のそれを振り
退
(
の
)
けます。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それは内気な彼女には珍らしい
棘
(
とげ
)
のある言葉だった。武夫はお芳の権幕に驚き、今度は彼自身泣きながら、お鈴のいる茶の間へ逃げこもった。
玄鶴山房
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
葉の端に小さな留針のやうな
棘
(
とげ
)
。——さういつたものが、どちらの柚にもくつ着いてゐて、互の単純性を損ひ合つてゐるのが私の眼についた。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そして、その円筒に無数と植えつけられている
棘
(
とげ
)
の一つに、糸の一端を結び付けて、それをピインと張らせ、さてそうしてから検事に云った。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
「そとへ行って
棘
(
とげ
)
を立てて来ましたんや。知らんとおったのが御飯を食べるとき
醤油
(
しょうゆ
)
が染みてな」義母が峻にそう言った。
城のある町にて
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
彼方此方
(
あつちこつち
)
の隙間から、白い眼で見送つたり覗いたりするのが、
棘
(
とげ
)
でも刺されるやうに、敏感な平次に感ずるのでした。
銭形平次捕物控:290 影法師
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
というのは、そのすくすくと伸びた栗の木の枝には、なんと五寸釘のような
棘
(
とげ
)
をもったお祭り提灯のような巨大な
毬
(
いが
)
が、枝も
撓
(
たわわ
)
に成っているのである。
火星の魔術師
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
薄い毛織の初夏の着物を通す薔薇の
棘
(
とげ
)
の植物性の柔かい痛さが適度な
刺戟
(
しげき
)
となつて、をとめの白熱した
肢体
(
したい
)
を刺す。
川
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
薔薇
(
ばら
)
のような甘い香と鋭い
棘
(
とげ
)
とが、ふたつながら含まれていたのも漸くわかってくると、お君は我知らずポーッと上気してまたも
面
(
かお
)
が真赤になりました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
さう言はれると圭一郎は
棘
(
とげ
)
にでも掻き
毮
(
むし
)
られるやうな氣持がした。彼は勤め先では獨身者らしく振る舞つてゐた。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
いかに
窶
(
やつ
)
れたことであろう! 高い鼻は尖って
棘
(
とげ
)
のようになり
顳顬
(
こめかみ
)
は槌で叩かれたかのように、痩せてくぼんでへっこんで、広がった額が
狭
(
せば
)
まって見える。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そして、わたしが垣を越えようとするたびごとにとんで来て、
荊棘
(
いばら
)
や、
棘
(
とげ
)
のついた針金を掻きわけてくれる。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
その由来については、牛蒡の種に小さい
棘
(
とげ
)
があって、よく物にひっつく様に、この人々は容易に他人にひっ憑くから、それでこの名を得たのだと言われている。
憑き物系統に関する民族的研究:その一例として飛騨の牛蒡種
(新字新仮名)
/
喜田貞吉
(著)
そして若し生命そのものが愛といふものであるならば、此苦い憎悪の中から、
棘
(
とげ
)
と、渋皮の奥なる甘い栗を取り出すやうに、美味な純真な愛に到達しようと思ふ。
愛人と厭人
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
しかしこの地の雪には
棘
(
とげ
)
があり針があった。寒流に乗って北から運ばれ、何カ月も何カ月も地表は凍えていた。
濶
(
ひろ
)
い雪の
曠野
(
こうや
)
には、風をさえぎる何物もなかった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
荒々しい
棘
(
とげ
)
のある言葉づかいでは、相手の反感をそそるだけです。全く、丸い玉子も切りようで四角にも三角にもなるごとく、ものもいいようで
角
(
かど
)
がたつのです。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
うちに
棘
(
とげ
)
をもった小さな悪魔のようなものであった。知識慾が猛然として私のうちに湧き上ってきた。一切の知識をだ。世の中の人はどういう風に生きているのか。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
かりそめにも、このようなニーナたちの親切の中に、おそろしい
棘
(
とげ
)
がかくされていようなどとは、思ってもみなかった。お人形のように純情なことは、いいことである。
爆薬の花籠
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
パウロが終世癒えなかった眼病を、神の与え給いし
棘
(
とげ
)
として忍び受けたように、私も私の運命に甘え、自らに媚びる心を制するための神の賜物として甘受いたしましょう。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
高木の
棘
(
とげ
)
野郎にあ、全く油断も隙もねえなあ。駒馬を貸して置く代わりに、伯楽から、
牝馬
(
だんま
)
を
馬
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
踏躙
(
ふみにじ
)
る
気勢
(
けはい
)
がすると、袖の
縺
(
もつれ
)
、
衣紋
(
えもん
)
の乱れ、波に
揺
(
ゆら
)
るゝかと震ふにつれて、
霰
(
あられ
)
の如く火花に
肖
(
に
)
て、から/\と飛ぶは、
可傷
(
いたむべし
)
、
引敷
(
ひっし
)
かれ
居
(
い
)
る
棘
(
とげ
)
を落ちて、
血汐
(
ちしお
)
のしぶく荊の実。
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
疏水の両側の角刈にされた
枳殻
(
からたち
)
の厚い垣には、黄色な実が成ってその実をもぎ取る手に
棘
(
とげ
)
が刺さった。枳殻のまばらな
裾
(
すそ
)
から帆をあげた舟の出入する運河の河口が見えたりした。
洋灯
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
けれども一向
効能
(
きゝめ
)
がなかつた。何が入つたものか、眼球に
棘
(
とげ
)
でもさゝつたやうな痛さだつたが、何だかお信さんが却つてそれを奥深く突き刺したのではないかと思はれさへした。
乳の匂ひ
(新字旧仮名)
/
加能作次郎
(著)
幹、枝、葉、繊維、
叢
(
くさむら
)
、
蔓
(
つる
)
、芽、
棘
(
とげ
)
、すべてが互いに交り乱れからみ混合していた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そうして其処で、まどろんで居る中に、
悠々
(
うらうら
)
と長い春の日も、暮れてしまった。嬢子は、家路と思う
径
(
みち
)
を、あちこち歩いて見た。脚は
茨
(
いばら
)
の
棘
(
とげ
)
にさされ、
袖
(
そで
)
は、木の
楚
(
ずわえ
)
にひき裂かれた。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
顏付にも音聲にも
棘
(
とげ
)
がなくつて、西片町界隈の他の學者達よりも親しみ易かつた。
昔の西片町の人
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
しかし、今日の真喜には、実は、そういう類いの好もしさよりも、なにかどぎつくこちらの感情にふれてくる
棘
(
とげ
)
のようなものがあり、彼は、それをどう始末していゝかわからなかつた。
光は影を
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
鱶
(
ふか
)
だの
鮫
(
さめ
)
だのは素より、
身体
(
からだ
)
中に刃物を並べた
鯱
(
しゃち
)
だの、
棘
(
とげ
)
の
鱗
(
うろこ
)
を持った海蛇だのが
集
(
たか
)
って来て、烈しい渦を巻き立てて飛びかかりましたから、香潮は一生懸命になって、拳固で
擲
(
なぐ
)
り飛ばし
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
その甲や足に
茨
(
いばら
)
のような
棘
(
とげ
)
がたくさん生えているのでございますが、今晩のは俗にかざみといいまして、甲の形がやや菱形になっていて、その色は赤黒い上に白い
斑
(
ふ
)
のようなものがあります。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
耳を
聾
(
ろう
)
するばかりの
轟々
(
ごうごう
)
たるエンジンの地響を打たせ、威風堂々と乗り込み来たったのは、
豪猪
(
やまあらし
)
の如き鋭い
棘
(
とげ
)
を
蠢
(
うごめ
)
かす巨大なる野生
仙人掌
(
さぼてん
)
をもって、全身隙間なく
鎧
(
よろ
)
いたる一台の植物性大
戦車
(
タンク
)
。
ノンシャラン道中記:04 南風吹かば ――モンテ・カルロの巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
ほんものの悪性の焔が、ちろちろ顔を出す。かたまった血のような、色をしている。茶褐色である。
棘
(
とげ
)
のある毒物の感じである。
紅蓮
(
ぐれん
)
、というのは当っていない。もっと凝固して、濃い感じである。
春の盗賊
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
なおその上に
鼬
(
いたち
)
さえも
潜
(
くぐ
)
れぬような
茨
(
いばら
)
の垣が鋭い
棘
(
とげ
)
を広げています。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
棘
(
とげ
)
を抜いてくれたのは おまへの心の
優しき歌 Ⅰ・Ⅱ
(新字旧仮名)
/
立原道造
(著)
その干渉の裏には
棘
(
とげ
)
があった。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
はまなすの
棘
(
とげ
)
が悲しや美しき
六百五十句
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
三日ぶりで家に帰った彼は、
暴
(
あら
)
びた気持で夕餉の酒を飲んでいた、酔いはなかなか起こらず、疲れた神経は
棘
(
とげ
)
とげしくなる許りだった。
山椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
夢の中でも、私は、強情な植物共の
蔓
(
つる
)
を引張り、
蕁麻
(
いらくさ
)
の
棘
(
とげ
)
に悩まされ、シトロンの針に突かれ、蜂には火の様に
螫
(
さ
)
され続ける。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
しかし
棘
(
とげ
)
のない薔薇はあつても、受苦を伴はない享楽はない。微妙にものを考へると共に、微妙にものを感ずる蘆は即ち微妙に苦しむ蘆である。
僻見
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
もう能登のからだにあった殺意の
棘
(
とげ
)
は全部自身の防禦に変っていた。虚勢すら持ちきれない浮き腰な眼くばりなのだ。
私本太平記:06 八荒帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
また始まった!——というように、栄三郎は顔をしかめて、思わず白い眼に
棘
(
とげ
)
を含ませて部屋じゅうを
睨
(
ね
)
めまわした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
(こいつのつらはまるで黒と白の
棘
(
とげ
)
だらけだ。こんなやつに
使
(
つか
)
われるなんて、使われるなんてほんとうにこわい。)
サガレンと八月
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
棘
(
とげ
)
一つ立てないようにしよう。指一本詰めないようにしよう。ほんの
些細
(
ささい
)
なことがその日の幸福を左右する。——迷信に近いほどそんなことが思われた。
城のある町にて
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
“棘”の解説
棘(とげ、刺、朿)は、生物または人工物の表面における、固く頂点の鋭い円錐形の突起のこと。生物体または人工物を保護する役割で存在することが多い。また、比喩的に心に傷を与えるような言動に対して「棘のある」という言い方もする。前者の棘も後者の棘も、必要以上に多いと思われるときは「とげとげ」という擬態語で修飾される。
(出典:Wikipedia)
棘
漢検1級
部首:⽊
12画
“棘”を含む語句
荊棘
棘々
棘立
荊与棘塞路
棘然
枳棘
荊棘何無情
棘皮
空棘魚
棘蛇
空棘魚科
苛棘
茅棘
草棘
荊棘中
荊棘何妬情
荊棘路
鉤棘
頑石叢棘
𦮯棘
...