木葉このは)” の例文
種彦は何というわけもなく立止って梢を振仰ふりあおいだ。枯枝の折れたのが乾いた木の皮と共に木葉このはの間を滑って軽く地上に落ちて来る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
木葉このはも草花も猶地上にあり。されど當時織り成したる華紋は、吾少時のさいはひと倶に、きのふの祭の樂と倶に、今や跡なくなりぬ。
云う人は極めて真面目であるが、云われる方は余り馬鹿馬鹿しくて御挨拶ができぬ。お葉はある岩角に腰をおろして、紅い木葉このはいじっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこから小川を一つ隔てた田圃たんぼなかにある遊廓ゆうかくの白いペンキ塗の二階や三階の建物を取捲いていた林の木葉このはも、すっかり落尽くしてしまった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かしこにそのかみ水と木葉このはさちありし山あり、イーダと呼ばる、今は荒廢あれすたれていとりたるものゝごとし 九七—九九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
暗い楼梯はしごだんを下りて、北向の廊下のところへ出ると、朝の光がうつくしく射して来た。溶けかゝる霜と一緒に、日にあたる裏庭の木葉このはは多く枝を離れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
……其時、おや、小さな木兎みみずく、雑司ヶ谷から飛んで来たやうな、木葉このは木兎ずく青葉あおば木兎ずくとか称ふるのを提げて来た。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勿論木葉このはうずたかく積って、雑草も生えていたが、花立の竹筒は何処へ行った事やら、影さえ見えなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
午後一時ここを立って植木に向ったが、木葉このは駅に至る頃賊軍既に植木に入って居ると云う報を受けたので、十数騎を前駆させ斥候せしむるに、敵は既に大窪に退いたと云う。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
時雨しぐれは和歌にては晩秋初冬共にこれを用う。ことに時雨を以て木葉このはむるの意に用う。俳句にては時雨は初冬に限れり。従ひて木葉を染むるの意に用うる者ほとんどこれなし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
但し欲楽の満足を与へ栄華の十分を享けしむるは、木葉このはを与へて児の啼きをかす其にも増して愚のことなり、世を捨つる人がまことに捨つるかは捨てぬ人こそ捨つるなりけれ
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
またも木葉このはうちに隠れしが、われに木伝こづたふ術あらねば、追駆おっかけて捕ふることもならず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
石田は花壇の前に棒のように立って、しゃべる女の方へ真向まむきに向いて、黙って聞いている。顔にはおりおり微笑の影が、風の無い日に木葉このはが揺らぐように動く外には、何の表情もない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
夕方になって少し風が出て来たので、波が岸を打っている。その風の余りが森の木をゆすって、れた木葉このはからしずくを垂らし始めた。湖水の上には暮れてく日の疲れた影が横っている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
数学的乗数を以て追々に広がり行くとも消ゆることはあらず、木葉このはは年々歳々新まり行くべきも、我が悲恋は新たまりたることはなくしていや茂るのみ、江水は時々刻々に流れ去れども
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
若葉のこずえに明るく夕日がさして、さわやかな風が吹渡る度に、きらきらと光りながらひるがえる。『武蔵野』にある「林影一時にひらめく」とか、「木葉このは火の如くかがやく」とかいうような盛な感じではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そう致しますと生茂おいしげった木葉このはに溜った雨水が固まってダラ/\とおちて参って、一角の持っていた火縄に当って火が消えたから、一角は驚いて逃げにかゝる処を、花車は火が消えればもう百人力と
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四月の天気は温和でかすんでいた。銀色の霧の生暖かいとばり越しに、緑の小さな木葉このはがその新芽のつぼみを破っており、小鳥がどこかで隠れた太陽にさえずっていた。オリヴィエは思い出の紡錘つむを繰っていた。
それを見た女房は木葉このはのやうに真青になつてふるへ出した。
風に散る花も木葉このはも嗔らずとながめ悟ればわがのりぞかし
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
草叢くさむらにいる蛼に、木葉このはに止まった雨蛙。
さかだてたるは木葉このはに風のふくごとし
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
道行く人は木葉このはなす
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
佃島つくだじまでは例年の通り狼烟のろし稽古けいこの始まる頃とて、夕涼かたがたそれをば見物に出掛ける屋根船猪牙舟ちょきぶねは秋の木葉このはの散る如く河面かわもせに漂っていると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ミネルヴァの木葉このはに卷かれし面帕かほおほひそのかうべより垂るゝがゆゑに、我さだかに彼を見るをえざりしかど 六七—六九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
参禅して教を聴く積りで、来て見ると、掻集めた木葉このはを背負ひ乍らとぼ/\と谷間たにあひを帰つて来る人がある。散切頭ざんぎりあたまに、ひげ茫々ばう/\。それと見た白隠は切込んで行つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
森の木葉このはのしげみは、闇を吐き出だす如くなれど、夕照ゆふばえは湖水に映じてわづかにゆくてに迷はざらしむ。この時聞ゆる單調なる物音は粉碾車こひきぐるまきしるなり。すべてのさま物凄く恐ろしげなり。
彼は枝を離れた木葉このはのように、風のまにまに飛んで行くより他は無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
月が木葉このはがくれにちらちらして居る所、即ち作者は森の影を踏んでちらちらする葉隠れの月を右に見ながら、いくら往ても往ても月は葉隠れになったままであって自分の顔をかっと照す事はない
句合の月 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
うろこさかだてたるは木葉このは
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
道行く人は木葉このはなす
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
薄曇りの空の光に日頃は黒い緑の木葉このはが一帯に秋の如く薄く黄ばんで了つて、庭のかなたこなたに池のやうに溜つた雨水の面は眩しいばかり澄渡り
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
雪、日に溶くるも、シビルラの託宣、輕き木葉このはの上にて風に散り失するも、またかくやあらむ 六四—六六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
サンタが道ならぬ戀、ベルナルドオの再び逢ひて名告なのり合はざる、恩人にめぐりあひての後の境遇、彼といひ此といひ、此身は風のまに/\弄ばるる一片の木葉このはにも譬へつべき心地ぞする。
霜に悩める木葉このはは雨のように飛んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
薄曇りの空の光に日頃は黒い緑の木葉このはが一帶に秋の如く薄く黄ばんで了つて、庭のかなたこなたに池のやうに溜つた雨水の面は眩しいばかり澄渡り
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
新しき木葉このはの下にてその根の上に坐するを見よ 八五—八七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
此頃このごろ空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろくもり、あたりの樹木じゆもくからは虫噛むしばんだ青いまゝの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにはとり啼声なきごゑはと羽音はおとさはやかに力強くきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この頃の空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろに曇り、あたりの樹木からは虫噛むしばんだ青いままの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにわとり啼声なきごえはと羽音はおとさわやかに力強く聞える。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
空気はうるほひ、木立のにおひはみなぎりて、明け放ちたる窓の外、木葉このはに滴るしずくの音は、へやのすみ、いづこと知らずきいづる、虫の調しらべにまじりたり。
図中の旅僧は風に吹上げられし経文きょうもんを取押へんとして狼狽ろうばいすれば、ひざのあたりまですそ吹巻ふきまくられたる女の懐中よりは鼻紙片々へんぺんとして木葉このはまじわり日傘諸共もろとも空中に舞飛まいとべり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すなはち長崎の夕凪ゆうなぎとかとなへて、烈しい炎暑の一日いちじつあと、入日と共に空気は死するが如くに沈静し、木葉このは一枚動かぬやうな森閑とした黄昏たそがれ、自分は海岸から堀割をつたはつて
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
家中いへぢゆうの障子を悉く明け放し空の青さと木葉このはの緑を眺めながら午後ひるすぎの暑さに草苺や桜の実を貪つた頃には、風に動く木の葉の乾いた響が殊更に晴れた夏といふ快い感じを起させたが
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
家中いへぢゆうの障子を悉く開け放し空の青さと木葉このはの緑を眺めながら午後ひるすぎの暑さに草苺や櫻の實を貪つた頃には、風に動く木の葉の乾いた響が殊更に晴れた夏と云ふ快い感じを起させたが
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
河風に吹かれるあしそよぎとも、時雨しぐれに打たれる木葉このはささやきとも違って、それは暗い夜、見えざる影に驚いて、ねぐらから飛立つ小鳥の羽音にもたとえよう、生きた耳が聞分けるというよりも
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日当の悪い木立の奥に青白い紫陽花あぢさゐが気味わるく咲きかけるばかりで、最早や庭中何処を見ても花と云ふものは一つもない。青かつた木葉このはの今は恐しく黒ずんで来たのが不快に見えてならぬ。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
日當の惡い木立の奧に青白い紫陽花あぢさゐが氣味わるく咲きかけるばかりで、最早や庭中何處を見ても花と云ふものは一つもない。青かつた木葉このはの今は恐しく黒ずんで來たのが不快に見えてならぬ。
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)