いわ)” の例文
ちょいとのぞいてみると、いわく「世界お伽噺とぎばなし法螺ほら博士物語」、曰く「カミ先生奇譚集きたんしゅう」、曰く「特許局編纂へんさん——永久運動発明記録全」
の時に疾翔大力、爾迦夷るかいに告げていわく、あきらかに聴け諦に聴け。くこれを思念せよ。我今なんじに梟鵄諸の悪禽あくきん離苦りく解脱げだつの道を述べんと。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
狐狸の大多数が諸国を旅行する際に、武士にも商人にもあまり化けたがらず、たいてい和尚や御使僧になってきたのもいわくがあろう。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
又問うていわく、「持戒の者の念仏の数遍少いのと、破戒の者の念仏の数遍多いのと、往生してからその位に深い浅いがございますか」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
這般しゃはんの理をあきらかにして、いわば飜訳の骨法ともいうべきものを一挙にして裁断した文句が、『玉洲画趣』の中に見出される。いわ
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
天保十一年、竹琴を発明し、のち京に上りて、その製造を琴屋に命じたところが、琴屋のあるじのいわく、奇しき事もあるものかな。
盲人独笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
古語にいわく、遠不とおくおもんぱからざればすなわちかならず近憂ちかきうれいありと、故に間に遠近の差別なく其間をまもらず
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
やれ「土耳古トルコの伯爵に招待された」ことの「セルビヤの王子が来た」ことのと、その他いわく何、曰くなにと、それぞれ大奮闘の末
かねて草津一井旅館から電報で通知しておいたという金具屋かなぐやへ着き、まず安心と思ったところが、番頭殿ノコノコと出て来ていわ
そのうちで最新式請合うけあい付きのものが、いわく「内外ビル」、曰く「東京会館」、曰く「有楽館」、曰く「丸ビル」、曰く「郵船ビル」……。
己れに克つことあたわずして世界に勝つことは、一時的に出来ぬこともなかろうが、恒久の勝利を得ることは望み難い。古人の書にいわ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それで監獄に入るときにいわくさ、俺とあいつはどうも永久にこうやって入りくりになって会えないらしい、だが結構なことだって……!
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
建てたら、十軒ぐらいは建つだろう。それはとにかくこの木の前で、足跡が消えたのはどうしたんだろう? いわくがなければならないぞ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
10 これにわが法度のりを定めかん及び門を設けて、11 いわくここまでは来るべし、ここを越ゆべからず、なんじ高浪たかなみここにとどまるべしと。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ニュートンの運動律第一にいわくもし他の力を加うるにあらざれば、一度ひとたび動き出したる物体は均一の速度をもって直線に動くものとす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「浅黄の手拭にいわくがあるだろうと思って、一本持って来ましたよ。そうでもなきゃ、親分はいつまで番頭とやり合っているか解らねえ」
いわく一つの同じ寝室に、太郎と次郎が一所に寝ている。朝、太郎が目をました時、いかにして自分の記憶を、次郎のそれと区別するか。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ただここに聞逃ききのがすことの出来ないのは、宮内省の法令に精通せる某大官いわくということである。その人ははばかりもなくこう言っている。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
故にいわく、太祖の遺詔に、諸王の入臨をとどむる者は、太祖の為すところにあらず、疑うらくは斉泰黄子澄こうしちょうの輩の仮託するところならんと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
記者は彼を指して不幸なる男よというのみ、その他を言うに忍びず、彼もまた自己をあわれみて、ややもすればいわく、ああ不幸なる男よと。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「自然に反する——浮ぶはずがない」という以前のいわくの代りに「自然に反する——コンパスを狂わせる」という信条だった。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
彼はいわく、蒙古の欧州侵略は成吉思汗の後継者太宗の事蹟にかかり、成吉思汗の死後十年の後に当る、と。実に何たる愚論浅識であろうか。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一、ある人問ふていわく、時間を人為的に限りてこれに命名し以て題目となす事は既に説を聞けり。空間は何故なにゆえに制限してこれに命名せざるか。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いわく身分相応、曰く身分不相応、この二つである。ポルジイがドリスを囲って世話をして置く。これは身分相応の行為である。
不祥な言を放つものは、いわかわやから月に浮かれて、浪に誘われたのであろうも知れず、とすなわち船をいだしたのも有るほどで。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
テイザンいわく北斎の特徴と欠点とは要するに日本人通有の特徴と欠点なり。すなわち事物に対して常にその善良なる方面のみを見んとする事なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この端麗たんれいな、しかも、もと安土城あづちじょうにもいたといういわくつきの美少女を、不問ふもんに捨て去るのは、何やら惜しい気がしてならない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そこまではそうさ。ところが野田に会うと、彼は青い顔をしていわくだね、北川さんはどうしています、死にゃしませんか、とこう言うのだ」
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「質問に答えていわく、神秘なり」で、ちょっとこの意味を簡単に説明しがたいのですが、いったい茶道には無駄はないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
天下の存在であるかのような口吻こうふんらして私にたまらなく気障きざな思いをさせ、また相当いわくつきらしい女客達が麻川氏を囲んで大柄にすわりこみ
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
赤茶けた畳、くすんだ襖、すすけた障子、陰気な茶色の砂壁、古めかしい掛軸、見るからにいわくのありそうな六畳の部屋だ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その恰好がどうも私にはいわくがありそうでなかなか思い出せなかった。ちぢかんだ丸背にしろ、顔にしろ、口の恰好にしろ、箸の使いわけまでも。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
「あなたはあのダイヤモンドをねらっているのね。けれどもあのダイヤモンドだって、いわくつきの代物よ。ちょうさんのものをあなたのお父さんが……」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
もっとも、こういういわくのある刀なのですぐに鉄斎の手へ返すのだけれど、たとえ一時にもせよ、乾坤の刀をさせば低い鼻も高くなるというもの。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひとつは僕の服装の貧しさがなにかいわくありげに見えるのかも知れないが、これはただ僕に稼ぎがないだけの話である。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
なぜならそれらは、そこに何かいわくがありそうに思えたからです。——元来私の妻は不断から隠しごとの出来ない明けっ放しな性質の女なんです。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
いわく、ダヴィッドももはや才能を有せず、アルノーももはや機才を有せず、カルノーももはや誠実を有せず、スールトももはや戦勝をもたらさず
いわく本私刑史、曰く支那刑法史、曰く経子けいし一家言、曰く周易一家言、曰く読書五十年、この五部の書が即ちこれである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「君子のいわく、いやしくも信継がずんば盟も益無きなり。詩にいう、君子屡々しばしば盟う、乱これを用て長ずと。信無ければなり」
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
女房にようぼいわく、御大層ごたいそうな事をお言ひでないうちのお米が井戸端ゐどばたへ持つて出られるかえ其儘そのまゝりのしづまつたのは、辛辣しんらつな後者のかちに帰したのだらう(十八日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「米国のロックフェラアいわく『人生は死に向って不断に進軍喇叭らっぱを吹いて居る』と、さすがは米国の大学者丈あって、真理を道破して居るようです……」
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「私のは少しむずかしいかもしれませんよ。いわく、王者にして、その声天地にあまねく、その姿すがた捕捉ほそくすべからず」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
然し、これまで、考えて見ると、私はちっともいわつきの心臓について、具体的なことを申上げて居ませんでしたね。
頭より尾に至る長さ千余丈、ひづめより背上に至る高さ八百丈。大音に呼ばわっていわく、なんじ悪猴わるざる今我をいかんとするや。
北海道人、特に小樽人の特色は何であるかと問われたなら、予は躊躇ちゅうちょもなく答える。いわく、執着心のないことだと。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
……いま伺っていると、喰ったか喰わないかが妙にひっからんでいるようですが、娘たちがもし鮨を喰ったとすると、それがなにかいわくになるンですか
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
円山いわく『どこで修業するつもりだ』、『W専門学校に行って矢部さんの講義を聞こうとおもう』、『札幌から紹介状でも貰ってきたか』、『来ん』
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その説にいわく、一家はなお一国のごとし、その子女を教育する、天道人理においてもとより父母の任たるあきらかなり。
教育談 (新字新仮名) / 箕作秋坪(著)
... 葉の上に題したる詩に、只知君報国満腔気ただしるきみがほうこくまんこうのき泣対神州一片秋ないてしんしゅうにたいすいっぺんのあきの句ありき」としてあり、十八年九月十三日の条にも、「朝家書又至る。応渠翁の書にいわく。 ...
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
いわく、この犯人は喰屍鬼ゴウルか吸血鳥か、とにかく、人間の眼を触れずに自在に往来する、他界の変怪へんげであろうと。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)