むす)” の例文
姫は悲しさに、もろ手を以てすくはうとする。むすんでも/\水のやうに、手股たなまたから流れ去る白玉——。玉が再び砂の上に並んで見える。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
汝まづ我をパルナーゾのかたにみちびきてそのいはやに水をむすぶをえしめ、後また我を照して神のみもとに向はしめたり 六四—六六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ひたひたと木の葉から滴る音して、くみかえし、むすびかえた、柄杓ひしゃくの柄を漏るしずくが聞える。その暗くなった手水鉢の背後うしろに、古井戸が一つある。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菓子も果物も、自由に買えぬ時代であるから、子供の間食といえば、味噌をなすったお握りを、一日に二、三回はむすぶ。
食べもの (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
手でむすんで一と口、た口、三口目は少し苦いように思いましたが、構わずに五口、六口と呑んで、ホッと息をつくと
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その語は極めて解きやすし、もし人ありて慈悲心をもて父母ちちはは乃至ないし世の病人なんどに水を施さば、仮令たといそのかさ少くしてわずかてのひらむすびたるほどなりとも
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
柵と桜樹の間には一条の浅い溝があつて、むすばばつて掌上てのひらたまともなるべき程澄みに澄んだ秋の水が、白い柵と紅い桜の葉の影とを浮べて流れて居る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
流れの清きにでて手にむすびつらんとよませ給ふにやあらんを、後の人の毒ありといふ一一〇狂言まがことより、此の端詞はしことばはつくりなせしものかとも思はるるなり。
「見ろやアイ」「民主々義万歳」など思ひ/\の叫喚けうくわん沸騰ふつとうして、悲憤の涙をむすびたる青年弁士の降壇を送れり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今日やうやく一月のなかばを過ぎぬるに、梅林ばいりんの花は二千本のこずゑに咲乱れて、日にうつろへる光は玲瓏れいろうとして人のおもてを照し、みちうづむる幾斗いくと清香せいこうりてむすぶにへたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と言って竜之助は、それを手にむすんで口へ持って来ようとすると、煙のようになくなってしまいます。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
弓弭ゆはづ清水しみづむすんで、弓かけ松の下に立つて眺める。西は重疊ちようでふたる磐城いはきの山に雲霧白く渦まいて流れて居る。東は太平洋、雲間漏る夕日の鈍い光を浮べて唯とろりとして居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
弓弭ゆはず清水しみずむすんで、弓かけ松の下に立って眺める。西にし重畳ちょうじょうたる磐城の山に雲霧くもきり白くうずまいて流れて居る。東は太平洋、雲間くもまる夕日のにぶひかりを浮べて唯とろりとして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
越ゆ峠らしくなく眺望ながめよき阪なりいばら阪といふとか道々清き流を手にむすびては咽喉のど
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
それも亦思ひ出された夢の遠さに聴き取れてしまふ、うつらうつらと一握の砂をむすんで、指を洩る一条ひとすじの煙を測る、ひもすがら同じ砂砂を幾度掬んで幾度零すか、何時のに夜が落ちたか
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
縫止ぬひとめのはせ返りし菅笠すげがさと錢はわづか百廿四文ばかりの身上にて不※ふと立出たちいで江戸へ行んとせしが又甲斐國へ赴かんと籠坂峠かごさかたうげまで到りしが頃は六月の大暑ゆゑえのきかげ立寄たちより清水しみづむすびて顏のあせを流し足を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ポヽロの廣こうぢに出でゝ、記念塔のめぐりなる石獅の口より吐ける水をむすびて、我涸れたるのんどうるほしゝが、その味は人となりて後フアレルナ、チプリイの酒なんどを飮みたるにも増して旨かりき。
おほみごゝろむすびえて、よみがへる
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かひなは渇く唇に淨水じやうすゐむすぶ力なくば。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
……手にもむすばず、茶碗にもおくれて、浸して吸ったかと思うばかり、白地の手拭の端を、つぼむようにちょっとくわえてしおれた。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姫は悲しさに、もろ手を以てすくおうとする。むすんでも掬んでも、水のように、手股たなまたから流れ去る白玉——。玉が再、砂の上につぶつぶ並んで見える。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
弦を離れしの如く嵯峨さがの奥へと走りつき、ありしに代へて心安き一鉢三衣いつぱつさんえの身となりし以来このかた、花を採り水をむすむでは聊か大恩教主の御前に一念の至誠をくう
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
むすびて口にそゝぎなどしてあつ介抱かいはうなしけるに半四郎は未だ口はきかざれども眼を開き追々にいきも入たる樣子を見て先々まづ/\強き怪我けがもなかりしやして其許そのもとは何國の者ぞ又如何成る用事有て夜中只一人此原中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふかげのかな、ありむす
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
「ドウダ一杯やらうか」といふ此の一杯やらうが一丁ごとぐらゐになると餘程つかれたるなり蘆田あしだ宿しゆくより先に未だ峠あり石荒阪いしあれざかといふ名の如く石荒の急阪にて今までのうち第一等の難所なり阪の上へ到れば平なる所半丁ほどありて草がくれの水手にむすぶほども流れずくだりて一丁ほど行けば此の水山のしたゝりを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
手にむすばむとしてうつむく時、思いかけず見たるわが顔はそもそもいかなるものぞ。覚えず叫びしが心をめて、気を鎮めて、両のまなこぬぐい拭い、水に臨む。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むすぶ手の 雫に濁る山の井の あかでも 人にわかれぬるかな(貫之——古今巻八)
一樹のかげに宿り逢い、同じ流れをむすぶも、皆これ先世の契りなり
手にむすばむとしてうつむく時、思ひかけず見たるわが顔はそもそもいかなるものぞ。覚えず叫びしが心をめて、気をしずめて、両のまなこぬぐひ拭ひ、水にのぞむ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
悪熱のあらむ時三ツの水のいずれをかむすばんに、わが心地いかならむ。忘るるばかりのみはてたり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むすばむとして猶予ためらいぬ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)