いだ)” の例文
新字:
將軍家のお聲懸りの利章を、忠之はどうすることも出來ぬが、かねいだいてゐた惡感情は消えぬのみか、かへつて募るばかりである。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかそのもつとおそれをいだくべき金錢きんせん問題もんだいそのこゝろ抑制よくせいするには勘次かんじあまりにあわてゝかつおどろいてた。醫者いしや鬼怒川きぬがはえてひがしる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかし私の手は私の思想をたすける力がなかつたと見えて、いつも私のいだいてゐたものゝ蒼ざめた姿を寫し出したにすぎない。
しかしてわが今述べんとするところは、聲これを傳へ、墨これをしるしゝことなく、想像もこれをいだきしことなし 七—九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
べつにもならずすべてを義母おつかさんにおまかせしてちやばかりんで内心ないしん一のくいいだきながら老人夫婦としよりふうふをそれとなく觀察くわんさつしてた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
我が爲めには此詞の嘲謔てうぎやくの意あるが如く聞えて、我は此の内にあるに堪へず、一つの憂をもて來し身の、今は二つの憂をいだきて、逃るが如く馳せ去りぬ。
その昔平將門が此處に登つて京都を下瞰しながら例の大野望をいだいたと稱せらるる處で、まことに四空蒼茫
比叡山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
實際頭巾にて覆はれるべき耳の形がそとに作り設けて有ればとて格別かくべつに不審をいだくにも及ばざるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
〔譯〕刀槊たうさくきよ心をいだく者はくじけ、勇氣ゆうきたのむ者はやぶる。必や勇怯ゆうきよを一せいほろぼし、勝負しようぶを一どうわすれ、之をうごかすに天を以てして、廓然かくぜん太公たいこうに、之をしづむるに地を以てして、もの來つて順應じゆんおうせん。
その頃料らずも外山正一氏の畫論を讀みて、わがいだけるところに衝突せるを覺え、つひ技癢ぎやうにえへずして反駁はんばくの文を草しつ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あかるいひかり滿ちた田圃たんぼ惑亂わくらん溷濁こんだくしたこゝろいだいてさびしく歩數あゆみんでかれは、玻璃器はりきみづかざして發見はつけんした一てん塵芥ごみであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
若し思ふ存分さう出來たとしても、セント・ジョンは基督教徒らしくない復讐心をいだいてもゐなかつた——また私の髮の毛一本も傷けようとしたのではなかつた。
中にも女友二人の如きは、相見るごとに我が悲哀の記憶を喚びさますことを免れず。われは悲哀をいだいてヱネチアに來ぬ。而してヱネチアは更に我に悲哀を與へしなり。
であるから自分じぶんうまきながらも志村しむらなにいてるかといふとひつねいだいてたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かれ反目はんもくしてるだけならばひさしくれてた。しかかれ從來じゆうらいかつてなかつた卯平うへい行爲かうゐはじめて恐怖心きようふしんいだいたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
異心をいだかぬのに、何事をかとらへて口實にして、異心あるやうに、認められはすまいかと云ふのが、當時の大名の斷えず心配してゐる所である。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
されどわが嘗て受けし教と、げんいだけるけんとは、俘囚とりこたるにあらずして、君等が間に伍すべきやうなし。これを聞きて、我を伴ひ來し男の顏は、忽ちおごそかなる色を見せたり。
私は、住居が森や丘にいだかれ、流れに沿つてゐると云つたが、そこは住むのにたのしい場所ではないだらうか。確かに、十分愉しい、併し健康によいか否かは別問題として。
なつはじめたびぼくなによりもこれすきで、今日こんにちまで數々しば/\この季節きせつ旅行りよかうした、しかしあゝ何等なんら幸福かうふくぞ、むねたのしい、れしい空想くうさういだきながら、今夜こんやむすめはれるとおもひながら
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
動植をきはむる學者の心は、世の常の用をばげに問はざるべけれど、進化説を唱ふる人は、微蟲を解剖するときも、おのれがいだける説の旨にかなはむことを願はざるにあらず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)