因果いんが)” の例文
頭からこの両人ふたりは過去の因果いんがで、坑夫になって、銅山のうちに天命を終るべきものと認定しているような気色けしきがありありと見えた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれあこうやってる時だけ生きているという気がするのだ。因果いんが性得しょうとくよなあ! 貴様が壺を伏せたりあけたりする手つきと、女を
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それが何の因果いんがか、行儀見習に上がっているお腰元、お袖という娘に執心してどうしても嫁に欲しいと言い出したのです。
「北町の親分、お察し下さいまし。半年振りで帰って来たものを一晩も、ゆっくりやすますことが出来なかったなんて、何という因果いんがでございましょう」
その後カションはいかなる病気びょうきかかりけん、盲目もうもくとなりたりしを見てこれ等の内情を知れる人々は、因果いんが覿面てきめん気味きみなりとひそかかたり合いしという。
何と因果いんがなことか……と、わざとらしく私の生みの母親のことを持ちだしたりなどして、浜子の気持を悪くした。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
近ごろ右京の僧尼が戒律を練らずただ浅薄な知識をもって因果いんがを説き民衆を誘惑する。人の妻子にして、仏教と称して親や夫を捨て家を出るものがある。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼女は得たりとばかりに、不可解しごくな因果いんが論を説き出して、なおそれに附け加え、霊神より離れぬ限りは永劫えいごう発病のおそれなし——と宣言するのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「そこまで、因果いんがのおよぶ果ての果てまで、いちいちお胸にいたんでいたら、国事にお尽くしもできますまいに」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前もわしのようなものと縁を結んだのが因果いんがじゃとあきらめてくれい。こうしてお前の顔を見たのをせめてもの慰めに、わしはただわしの行く所へ行くつもりだ!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
冗談はしてくれ。そうは手が廻らねえや。それでなくても、こんなお役目、ごめん蒙りてえところだ。因果いんがな役を引きうけたよ。お京さんと、親父とから頭を
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ただしこの後意想外いそうがいの発明の豪傑が出て、仏教上積極的に活発々裡に働くところの因果いんがの理法を応用して
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
橋詰はしづめ小店こみせ、荒物をあきなう家の亭主で、身体からだせて引緊ひっしまったには似ない、ふんどしゆるい男で、因果いんがとのべつ釣をして、はだけていましょう、まことにあぶなッかしい形でな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万事がおもう壺にはまったのだが、やはり因果いんが応報とでもいうか、彼は崔の父によってその運命をひらいたと共に、崔のために身をほろぼすことになってしまったのだ。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
因果いんがはめぐる小車おぐるまのそれで、自ら仕掛けた長期性時限爆弾の炸裂のために、ついに一命をうしなったのではないかと思うのであるが、果してそうであろうか、どうじゃろうか。
しかし、そのあくる朝わたしは、カピにいやでも因果いんがを言いふくめなければならなかった。
わが身の手にて取出す力なくなり候事なれば、誰を怨むにも及ばざる事に候間、月日をるに従ひ、これぞまさしく因果いんが応報のいましめなるべくやと、自然に観念致すように相なり申候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
他の二三の師範学校の附属へ願書を出して努力したが、どこも拒否きょひされた。止むを得んとあきらめて、親の因果いんがが子にむくうの結果になったことを心の中で陳謝ちんしゃするのみであった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
なん因果いんがで」とか、「前世ぜんせの約束」とかいう句のうちには、すでに自分の好むものは悪であり、おのれのきらうものこそぜんである、またその順序を顛倒てんとうして善なるものを自分は嫌い
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さもなくば、一緒に地獄へ引き落してやらなければ、辛抱が出来ないのが、あたしの生れつきなのだから、あの人にも、まあ、何もかも因果いんがだと、あきらめて貰う外はありませんよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
申すも御恥かしき事ながら、お前様といふものある清さんに年上なる身をも恥ぢず思を掛け、出来ぬこと済まぬこととこらへれば堪へるほど夢現ゆめうつつの境もわきまへずこがれ候ふはいかなる因果いんが
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
何の呪詛じゆそか、何の因果いんがか、どうしても一生地の底から上には出る事が出来ないやうに運命づけられた小坊主が、たつた一人、静かに、……鉦を叩いて居る、一年のうちで只此の秋の季節だけを
入庵雑記 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
「こんな子供をもつなんて、いったい、何の因果いんがだろう……」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
結局重吉と二人で実枝に因果いんがをふくめたのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
やれ、いたわしや。因果いんがな病にかかったものじゃ。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
親の因果いんがが子にむくい、というやつだ。ばちだ。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「よく/\の因果いんがだよ、これは」
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
運命のなわはこの青年を遠き、暗き、物凄ものすごき北の国まで引くがゆえに、ある日、ある月、ある年の因果いんがに、この青年とからみつけられたるわれらは
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何を言やがる。人一人洒落しゃれや道楽で殺せるわけはねえ。手前のような馬鹿に見込まれたのが、お京さんの因果いんがだ」
因果いんがめぐる)……と、おかしくもなってくるし、(これは、苦手)と、時々、信雄の人の好さから来る無恥むちと無反応に、処置しょちのないおそれも感じさせられた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほんとうに、んて因果いんがひとなんだろうね。かおりゃ、十にんなみの男前おとこまえだし上手じょうずだってはなしだけど、してることは、まるッきりなみ人間にんげんかわってるんだからね
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この秋晴れにゴルフはなつかしいスポーツであったが、なんの因果いんがか、今日は懐しいどころか、わざわざお苦しみのためにゴルフ場をのぞきに行かねばならないことを悲しんだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて父親てておやむかえにござった、因果いんが断念あきらめて、別に不足はいわなんだが、何分小児こどもが娘の手を放れようといわぬので、医者もさいわい言訳いいわけかたがた、親兄おやあにの心をなだめるため
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
間もなくなおるだろう、ただ何にも食べないので、痩せて行く一方で、それを見るのが可哀そうだ、と次第に卯平は声を落したが、急に気をとりなおすように、かかあ因果いんがな奴さ
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「最初に嘘を言ったのがわしの因果いんが」と、小平太も顔を背向けながらつづけた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「その後は——お前は煩悩小僧、おいらは因果いんがと岡っ引だ。察してくんねえ。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
因果いんが応報という仏氏の教えを今という今、あきらかに覚りました。わたくしの若いときは放蕩無頼ほうとうぶらいの上に貧乏でもありましたので、近所の人びとの財物を奪い取った事もしばしばあります。
「もちろん悪いとは知っていますが、どういう因果いんがでありますか、これが私のたしなみです」ということは、常に聞くことなるも、かくのごとき申し訳は人に対し遠慮えんりょ斟酌しんしゃくする言葉に過ぎぬのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「そうよなあ。やっぱり、ああ云う事があると、ながくまであとへ響くものだからな」と答えて、因果いんがは恐ろしいと云う風をする。叔母は重ねて
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次と浅吉は、土地の下っ引に死骸と焼跡の監視を頼み、掛り合いの十幾人には因果いんがを含めて、そこからあまり遠くない東海坊の堂まで引揚げさせました。
おれという者の因果いんがを、もッと大きく、永い生涯へ、美しい女の身にうけて生れた、ころびばてれんの娘!
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしもその中に交って及ばずながら働いているうちに、天神の茶店でそなたに出逢ったのがわしの因果いんが、大事を抱えた身と知りながら、それを隠して、ついそなたと悪縁を結んでしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
親の因果いんがが子に報い……なアんてネ、どこイ行ってもうしろ指をさされるとおり、身体は、どなた様がごらんになってもこんな不具だが、お前さまのまえだけれどこれで人間よくしたもので
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「市之助はおれに隠れろと言う。しかし半九郎にそんなうしろ暗いことは出来ぬ。正直に今ここで切腹する。若松屋のお染の客は人殺しとあすは世上せじょううたわれて、お身も肩身が狭かろうが、これも因果いんがだ。堪忍してくれ」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
猫と生れた因果いんがで寒月、迷亭、苦沙弥諸先生と三寸の舌頭ぜっとうに相互の思想を交換する技倆ぎりょうはないが、猫だけに忍びの術は諸先生より達者である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天王寺でった紙入れ一つが、あんなにまで、多くの人へ迷惑をかけた因果いんがを聞かないうちは、まだそんなにまでは思いませんでしたが、江戸へ帰った後にお前さんから
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「手代の千代松でございます。——お関と一緒にして、暖簾のれんを分けてやるはずでしたが、こうなると、因果いんがを含めるより外に仕様もございません。分けてやる暖簾がこんなでは」
お艶のためにも自分のためにも……とっさに思案する老婆さよの表情かおに、いっそのこと、ここでお艶に因果いんがをふくめて思いきって馬を鹿に乗りかえさせようかと、早くも真剣の気のみなぎるのを
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
演説を御頼みになった因果いんがでやむをえず申し上げるので、もしこれを申し上げないと、いつまでたっても文学談に移る事はできないのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その因果いんがで、代々片輪が生れ、山中猿山中猿と呼ばれておりますが、あの衆自身は、先祖の罪業ざいごうを、生涯につぐなうのじゃと、みな生れながらわきまえておりますので、土地も去らず
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)