喞筒ポンプ)” の例文
天罰の下るやうに、曲馬場の中から喞筒ポンプの水が迸り出た。滔々乎たう/\ことして漲つてまない。あらゆる物をよごし、やはらげ、どこまでも届く。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
けれど消防組はまだ一向見えぬ様子で、昼間盛んに稽古して居たその新調の喞筒ポンプも、まだ其現場に駆け付けては居らなかつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
いや、井戸の水を吸上喞筒ポンプみだしている若い女を見つめている。それでよいのだ。はじめから僕は、あの女を君に見せたかったのである。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
熔接が終ると、次は、水槽内の水を、艇内の喞筒ポンプでもって、吸い出しにかかった。これは、大して面倒なことではなかった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長蛇ちょうだの如き巨象の鼻は、西の方にさしたる枝なりに二蜿ふたうねり蜿りて喞筒ポンプを見るやう、空高き梢より樹下を流るる小川に臨みて、いま水を吸ふ処に候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
全身をめぐって来た大静脈の血液を喞筒ポンプの中へ受取り、これを活栓かっせんによって大動脈に送り出すという極めて簡単な原理で人工心臓が出来上ります。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
井戸の喞筒ポンプなどもその一つであつた。完全に直すとすると十八円ばかり出さねばならなかつた。その時その余裕が私に無く、差配一人でも出し渋つた。
村住居の秋 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
河野さんは軍人だから、そんな事に気のつくはずがない。ああ云う喞筒ポンプで空気を送るのは旧式でね、時々潜水夫を殺してしまいますよと講釈をしている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まじる声、波ならぬ喞筒ポンプとも覚ゆる水の音、また桶より流す水の音、また例の火事の際の予習の初まりつれ、最上層の甲板かんぱんにてはボオトを降ろすならんなど
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
喞筒ポンプは屋根の下にぶら下っていて、乾燥してひびが入っているので、火事に際して使用すると、木に水がしみ込む迄は吃驚する位、水が各方面へほとばしり出る。
おそらくは消防夫が喞筒ポンプで硫酸を撒いても、すでにアドルフ・マンジュウを瞥見するためには死を賭して来ている彼女らは、びくともしないで立ちつくすことであろう。
それでも喬木けうぼくこずゑうへ壓迫あつぱくくるしんでるやうにまれのぼつてはまたおしつけられた。徒勞むだである喞筒ポンプ群集ぐんしふみづむのに近所きんじよあらゆる井戸ゐどみな釣瓶つるべとゞかなくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天保十年の夏はかんして六十日余も雨がなかったので、酒巻立兆の庭の芭蕉ばしょうが枯れかかった。家の者が日々喞筒ポンプで水をそそぐのを、星巌は珍しく思ったと見えて、「竜吐水歌」を賦した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「手動喞筒ポンプを廻せ! 手動喞筒を廻せ! おうい、喞筒を第一防禦ぼうぎょ甲板へはこべ!」
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
眼の下の長屋の一軒の戸が開いて、ねまき姿の若い女が喞筒ポンプへ水を汲みに来た。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
あらゆる防水ぼうすい方便てだてつくされたが、微塵みぢん打碎うちくだかれたる屹水下きつすいかからは海潮かいてうたきごとほとばしりつて、その近傍きんぼうにはこと出來できない。十だい喞筒ポンプは、全力ぜんりよくみづ吐出はきだしてるがなん效能こうのうもない。
喞筒ポンプ押し一年、空気管持ち一年、綱持ち一年で、相もぐりとなるまでには凡そ四年掛るのだが、それを天分があったのか、それとも熱心の賜でか、弟子入りして二年目にはもう相潜りになった。
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
ほとばしる喞筒ポンプの水の
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あの音は、この箱の中に仕掛けてある喞筒ポンプが、正しく一分間に六十回の割合で、この青年の血液を、心臓に代って、全身へ送り出しているんです
さてこれから喞筒ポンプの構造について御話しなければなりませんが、その前に人工肺臓の原理について申し上げます。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
火はさいはひにも根本の母屋には移らずに下の小い家屋いへ一軒で、兎に角首尾よく鎮火したので、手伝ひに来て呉れた村の人々、喞筒ポンプの水にずぶれになつた村の若者
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
喞筒ポンプは円筒形でなく四角であり、何週間か日のあたる所にかけてあったので、乾き切っている。
どさくさ紛れに葛籠つづら箪笥たんす脊負しょい出そうッて働きのあるんじゃありませんがね、下がったあわせのじんじん端折ばしょりで、喞筒ポンプの手につかまって、空腹すきはらあえぎながら、油揚あぶらげのお煮染で
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
消防せうばう群集ぐんしふほとんど皮膚ひふかれるやうなあつさをおそれて段々だん/\とほざかつた。ちひさな喞筒ポンプそのさかんほのほまへただでうほそみじか彎曲わんきよくしたしろせんゑがくのみでなん功果こうくわえなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この油が喞筒ポンプの力で一丈四方もあろうという大きな鉄のおけに吸上げられて、しずかに深そうによどんでいるところを、二階へ上がって三つも四つものぞき込んだときには、恐ろしくなった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うちも一しょに行くわ。潜水船の喞筒ポンプ押しに」
わが町 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
なんだかモーターがブルンブルンと廻っているような音も聞え、ポスポスという喞筒ポンプらしい音もします。イヤに騒々そうぞうしいので、私はまゆひそめました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かえって、肺動脈と肺静脈とに喞筒ポンプの管を結合するだけの手数が多いですから、むしろ人工肺臓附きの人工心臓を工夫した方が便利であるということに気がつきました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「はア」と自分はぬるい茶を一杯すゝつてから、「それでですナア、今喞筒ポンプを稽古して居るのは?」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
黒烟りを吐き出して、吐き尽したる後は、太き火燄かえんが棒となって、熱を追うて突き上る風諸共、夜の世界に流矢のきを射る。あめを煮て四斗だる大の喞筒ポンプの口から大空に注ぐとも形容される。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清葉は、向うから突戻されてよろよろと、退しさると、喞筒ポンプ護謨管ごむかんもすそを取られてばったり膝を、その消えそうな雪のうなじへ、火の粉がばらばらとかかるので、一人が水びたしの半纏はんてんを脱いで掛けた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
学校用品は実験所で使用する道具をすべて含んでいるように見えた。即ち時計、電信機、望遠鏡、顕微鏡、哲学的器械装置、電気機械、空気喞筒ポンプ等、いずれもこの驚くべき国民がつくったものである。
三角暗礁には、こんなときの用意にもと、鋼板こうはんもあれば修理機械や喞筒ポンプをもった工作潜水艇も、ちゃんと収めてある。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手押喞筒ポンプの車が、いまにもみちの真中に引くりかえりそうに激しく動揺しながら、勢いよく通ってゆく。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
水色のアルパカの上衣にも、喞筒ポンプそそぎかけたような血の跡が……。全くむごたらしい光景だった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
給油管は全開となり、喞筒ポンプはウウーンと重苦おもくるしいうなりをあげ激しい勢いで重油がエンジンにきこまれて行った。ビューンとタービンは、甲高い響をあげて速力を増した。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ラジオ送受信機そうじゅしんきとしても組立てられるし、又或る場合には兵器——いやナニムニャムニャムニャ——で、つまりその又或る場合には、喞筒ポンプみたいなものにも組立てられるのだ。
喞筒ポンプを動かしたりの重要な仕事を持っていて、今日は総出でやることになっている。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから、シカゴの下水会社で喞筒ポンプの番人をやっているのもあるという。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうか、油に火が入ったのだと思った。蒸気喞筒ポンプはどうした」
(新字新仮名) / 海野十三(著)