叡山えいざん)” の例文
また、戦国の世にはすべて武人多くして、出家の僧侶にいたるまでも干戈かんかを事としたるは、叡山えいざん三井寺みいでら等の古史に徴して知るべし。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
結飯の支度をたのんだからには大津へ出るのではない、坂本から叡山えいざんへでもゆくつもりに違いない、幸子はそう信じてあとを追った。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから急にかゆくなって、敵の大軍をみなごろしにするのだ、叡山えいざんの焼討ちだなどと、肌着の大掃除をやっていたところでございます
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
観ずるは見るがためではない。太上たいじょうは形を離れて普遍の念に入る。——甲野さんが叡山えいざんに登って叡山を知らぬはこの故である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若い夫人の突然の死に左大臣邸は混乱するばかりで、夜中のことであったから叡山えいざん座主ざすも他の僧たちも招く間がなかった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
叡山えいざんと三井寺の不和は多年の宿題で、戒壇建立の争いのためには三井寺の頼豪阿闍梨らいごうあじゃりが憤死して、その悪霊が鼠になったとさえ伝えられている。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あれ叡山えいざんです。彼が比良です。彼処あすこう少し湖水に出っぱった所に青黒あおぐろいものが見えましょう——彼が唐崎からさきの松です」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
茶の葉はたぶん遣唐使によって輸入せられ、当時流行のたて方でたてられたものであろう。八〇一年には僧最澄さいちょう茶の種を携え帰って叡山えいざんにこれを植えた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
それも知りたい。叡山えいざんの徒にしいたげられて田舎いなか廻りをしている一向の蓮如れんにょ、あの人の消息も知りたい。新しい世の救いは案外その辺から来るのかも知れん。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
院々といふのは叡山えいざん三井寺みいでらかのやうな感じがするけれど、それでは京の月といふのに当てはまらぬ。あるいは知恩院ちおんいんあたりの景色でもいふのであらうか。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その後上皇は勅して彼を叡山えいざんに上らせて登壇受戒せしめ給い、玄昭律師に附して密教を学ばしめ給うたが、生来多才多藝の人で、顕密けんみつの両宗は勿論もちろんのこと
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここから程遠からぬ叡山えいざんの山法師の初期に於て流行した、あの「裹頭かとう」という姿が最もよくこれに似ている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
承暦しょうりゃく二年十月下旬、山徒これを叡山えいざんへ持ち行き撞けども鳴らねば、怒りて谷へ抛げ落す、鐘破れきずつけり、ある人当寺へ送るに、瑕自然愈合、その痕今にあり
源信の方が寂心よりは少し年が劣って居たかも知らぬが、何にせよ幼きより叡山えいざんの慈慧に就いて励精刻苦して学び、顕密双修そうじゅ行解ぎょうげ並列の恐ろしい傑物であった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
叡山えいざんにながくいたことのあるN君は、そういう方面にも明るかった。のみならず君自身にも出家めいた単純生活に落ちついてすましていられる一種の悟りが開けていた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あれは長州の大兵が京都を包囲する前で、叡山えいざん御輿みこしを奉ずる計画なぞのあった時だと思います。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
叡山えいざん西塔さいとうに実因僧都そうずという人がいたが、この人が無類の大力であった。ある日、宮中の御加持ごかじに行って、夜更よふけて退出すると、何かの手違いで、供の者が一人もいない。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
是れ朝廷の威信をつな所以ゆゑんの道に非ず。皇祖天神照鑒在上。吾説の是非、あに論ずるをもちゐんや。吾に左袒さたんする者は、げきの至るを待ち、叡山えいざんに来会せよ。共に回天の大策を可議者也ぎすべきものなり
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
○法性坊尊意そんい叡山えいざんに在し時 菅神の幽灵いうれい来り我冤謫むしつのながされ夙懟ふるきうらみむくはんとす、願くは師の道力をもつてこばむことなかれ。尊意曰、卒土そつとは皆王民なり、我もし みかどみことのりをうけ玉はらばさくるに所なし。
武林無想庵と叡山えいざんで暮らしている頃、無想庵は私をパリへ連れて行ってくれるようなことをいっていたから楽しみにしていたのだが中平文子にひッかかったので私の洋行もフイになった。
え゛りと・え゛りたす (新字新仮名) / 辻潤(著)
昔ならば叡山えいざん高野こうやへでも送るか、しからざれば永年武者修業でもした挙句あげくに、どこかで槍先の功名を現わすというところであるが、新領主の方から、在所におりたくば純然たる農になれ
家の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そもそも、始祖は江州ごうしゅうの産、叡山えいざんに登って剃髪ていはつし、石堂寺竹林房如成じょせいと云う。佐々木入道承禎しょうていく、久しく客となっておりますうち、百家の流派を研精し、一派を編み出し竹林派と申す。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まさにこれ大飢饉さえも、尊王倒幕の別働隊たらんとす。「イザ叡山えいざんに紙旗押し立てん、千人の義兵あらば、竪子じゅしを倒すは眼前にり」と高山彦九を踴躍ようやくせしめたりしは、実にこの時にありとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
京都叡山えいざん延暦寺えんりゃくじを以て海内第一の霊場と独り決めに決めている程、狂的に近い信仰を捧げていたために、大阪城代に就任するや間もなく比叡山から、内密の献金四万両の調達方を頼みこまれて
叡山えいざんはもけんずというから京都人は昔から鱧を利用したもんだね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
叡山えいざんの秋深かりし思ひ出で
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「いつであったか、そうそう、叡山えいざんでお目にかかった折、江戸へと聞いていたので、会いそうなものと思うていたが、こんな所でとは」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弟の虎之助が叡山えいざんへ修行にゆくというので、三月の出来事も詳しく知りたいと思い、弟の送別を兼ねて出て来たのであった。
それも知りたい。叡山えいざんの徒にしいたげられて田舎いなか廻りをしてゐる一向の蓮如れんにょ、あの人の消息も知りたい。新しい世の救ひは案外その辺から来るのかも知れん。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
練兵場れんぺいばで新兵が叱られている。身を投げている。人を殺している。藤尾のあにさんと宗近君は叡山えいざんに登っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日きのう叡山えいざんへ帰りましたのでございます。まあ何ということでございましょう、奇怪なことでございます。前から少しはおからだが悪かったのでございますか」
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
なお残された新撰組の隊士は、いったん山王下に留っていたが、徐々に叡山えいざんへ向ってのぼりはじめました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
烈風に乗じて火を内裏だいりに放ち、中川宮および松平容保の参内を途中に要撃し、その擾乱じょうらんにまぎれて鸞輿らんよ叡山えいざんに奉ずる計画のあったことも知らねばならないと言ってある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ついこの間までは、頂上の処だけは、まだらに消え残っていた叡山えいざんの雪が、春の柔い光の下に解けてしまって、跡には薄紫を帯びた黄色の山肌やまはだが、くっきりと大空に浮んでいる。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼はいう、——先師全和尚入宋にっそうを企てた時に、その師叡山えいざんの明融阿闍梨あじゃりが重病で死にひんした。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
○法性坊尊意そんい叡山えいざんに在し時 菅神の幽灵いうれい来り我冤謫むしつのながされ夙懟ふるきうらみむくはんとす、願くは師の道力をもつてこばむことなかれ。尊意曰、卒土そつとは皆王民なり、我もし みかどみことのりをうけ玉はらばさくるに所なし。
現に将門を滅ぼす祈祷きたうをした叡山えいざん明達めいたつ阿闍梨あじやりの如きも、松尾明神の託宣に、明達は阿倍仲丸の生れがはりであるとあつたといふことが扶桑略記ふさうりやくきに見えてゐるが、これなぞは随分変挺へんてこな御託宣だ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
三種の神器じんぎぬすみ出して叡山えいざんに立てこもった事実がある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(武蔵というのは、売名家で、派手にはやったが、いざとなった場合は、いちはやく、叡山えいざんへ逃げこんだというのが真相らしいて)
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ、いいんです」とおみやが云った、「なんだか叡山えいざんに用があるとかってでかけて、今月いっぱい帰らないんです」
薬師仏の供養をその時にすることもあるので叡山えいざんへも時々行く大将であったから、そこの帰りに横川よかわへ寄ろうと思い、浮舟の異父弟をも供の中へ入れて行った。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「弁慶は法科にいたんだね。君なんかは横川の文科組なんだ。——阿爺おとっさん叡山えいざんの総長は誰ですか」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人のうわさによると、戦ぎらいの公達きんだちは、よく、三井みいや、叡山えいざんや、根来ねごろなどの、学僧のあいだに、姿をかえてかくれこむよしです。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私はもう下がってまいろうと思います。いつもの物怪もののけは久しくわざわいをいたしませんでしたのに恐ろしいことでございます。叡山えいざん座主ざすをすぐ呼びにやりましょう」
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
これはたくましい毬栗坊主いがぐりぼうずで、叡山えいざん悪僧あくそうと云うべき面構つらがまえである。人が叮寧ていねいに辞令を見せたら見向きもせず、やあ君が新任の人か、ちと遊びに来給きたまえアハハハと云った。何がアハハハだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「一乗寺村といえば、白河からまだずんとはずれで、もう叡山えいざんに近い淋しい山里。あんな所へ、夜明け前におでなされても……」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源氏は夕顔の四十九日の法要をそっと叡山えいざん法華堂ほっけどうで行なわせることにした。それはかなり大層なもので、上流の家の法会ほうえとしてあるべきものは皆用意させたのである。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
……いや怖かろう、あいつは、日野の学舎まなびやにいても、叡山えいざんにいても、師に取り入るのが巧く、長上にへつらっては、出世したやつだ。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御息所は物怪もののけで重くわずらって小野という叡山えいざんふもとへ近い村にある別荘へ病床を移すようになった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そこへ、一足ひとあしおくれてきた龍太郎と小文治はもう人の散ってゆくのに失望して、そのまま、叡山えいざんの道をグングン登っていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)