卓子テーブル)” の例文
なぜならその小さい卓子テーブルは大西洋の無限な空虚を走ってる、巨船モラヴィアの食堂に散らばってる多くの小さい卓子テーブルの一つであった。
その卓子テーブルの近くの椅子の上へ腰をかけてよいのだか、また絨氈の上へ坐らねば失礼であるのだか、それさえお君にはわかりませんで
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
チタ子はひどく憂鬱そうな顔をして狭苦しい椅子にうずもれていましたが、私が、自分の席へ誘うと、黙々として私の卓子テーブルにやってきて
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
取り付きの角の室を硝子窓ガラスまどから覗くと、薄暗い中に卓子テーブルのまわりへ椅子いすが逆にして引掛けてあり、ちりもかなりたまっている様子である。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私と東六は室の隅の丸い卓子テーブルを前にして、所の名物柘榴ざくろ酒を飲みながら、四辺の様子を見て居りましたが、不意に其時、私達の横で
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……すると全く不意に、ガタンと激しい音がして、歩廊プラット・ホームへ出るドアが開き、どっと吹込ふきこんで来た風にあおられて卓子テーブルの上の洋灯ランプが消えた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
棕梠しゅろ、芭蕉、椰子樹やしじゅ檳榔樹びんろうじゅ菩提樹ぼだいじゅが重なり合った中に白い卓子テーブル籐椅子とういすが散在している。東京の中央とは思えない静けさである。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが次第にハッキリとしてきてやがていつの間にか卓子テーブルの前には、これも全く一同と同じ服装をした怪人がチャンと起立していた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
坂・植物・狭い大通りメイン・ストリイト・不可思議な活動常設館・両側の土産物店・貝細工・卓子テーブル掛け・西班牙肩絹スパニッシュ・ショウル・大櫛・美人画・闘牛士装束など。
糸子の代りになった智恵子は、卓子テーブルの前に掛けて、美人像に背を見せたまま、身動きも出来ないほどの恐怖にさいなまれて居ります。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
床に入った後で、吹きつける雨が、戸がしまっているにも拘らず、私の部屋に入って来たので卓子テーブルその他を部屋の反対側へ動かした。
豺の方は、そのもう一方の側にある、書類の散乱している自分自身の卓子テーブルに向って、酒罎と杯とがすぐに手の届くところに腰掛けた。
そしてきよろきよろした眼つきで、先客せんかく二人の顔を見比べてゐたが、急に気がついたやうにすつと立ち上つて、向ふの卓子テーブルに往つた。
三鞭酒は、気分に於て、我々の卓子テーブルにまで配られた。少し晴々し、頻りに談笑するうちに、私は謂わば活動写真的な一場面を見とめた。
三鞭酒 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そして両腕をつきだし、卓子テーブルの上に拳骨を構えて、大きな小麦袋でも抜き取ろうとする時のように、ふうっと深い溜息を一ついたが
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
田代君はあらゆる蒐集家に共通な矜誇ほこりの微笑を浮べながら、卓子テーブルの上の麻利耶観音と私の顔とを見比べて、もう一度こう繰返した。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
桟橋さんばしると、がらんとした大桟橋だいさんばし上屋うはやしたに、三つ四つ卓子テーブルならべて、税関ぜいくわん役人やくにん蝋燭らふそくひかり手荷物てにもつ検査けんさをしてる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
送信所に到る通路が、いわば居住区の形で、寝台や卓子テーブルが並んでいた。その一つの卓にびんを置いて、準士官が一人酒を飲んでいた。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
異教徒席の中からせいの高いふとったフロックの人が出て卓子テーブルの前に立ち一寸会釈えしゃくしてそれからきぱきぱした口調でう述べました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いほりのなかはさつぱりと片附かたづいてゐました。まんなかに木の卓子テーブルがあつて、椅子いすが四つ並んでゐました。片隅かたすみにベッドがありました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
語り來つて石本は、痩せた手の甲に涙をぬぐつて悲氣かなしげに自分を見た。自分もホッと息をいて涙を拭つた。女教師は卓子テーブルに打伏して居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
緑布をかけた長方形の卓子テーブルや数個の古めかしい椅子などで室が一杯になっている。そこの壁に古画をかけて見せてもらうのである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
私達は教壇の卓子テーブルを中央へ持って来て、それを取巻いた。通学生は来なかったから、たった七名の会合だった。立花君が開会の辞を述べて
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かたわら卓子テーブルにウイスキーのびんのっていてこっぷの飲み干したるもあり、いだままのもあり、人々はい加減に酒がわっていたのである。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
敲音なども、平生へいせい使い慣れた卓子テーブルには早く起り、又諸種の心霊現象も、霊媒自身の居室でやるのが、最も容易に起り易いものである……。
かれらは気むずかしく哀しげな容子ようすを、ドアのそとから忍び込む光が間もなく卓子テーブルの脚にまでとどくまでつづけていたのである。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これでもう隙を見て卓子テーブルを私の方へ蹴倒すこともできなければ、卓子テーブルの下から兇器を取りだすことも不可能になったのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこには、椅子卓子テーブルなどの外に、若干の小道具——乳母車、バケツ、洋刀、パラソル、三脚、毛布などが纏めて置いてある。右手に柱時計。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
老博士の卓子テーブル(そのあしには、本物の獅子ししの足が、つめさえそのままに使われている)の上には、毎日、累々るいるいたる瓦の山がうずたかく積まれた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
荷物と云っても、ビールばこで造った茶碗ちゃわん入れとこしの高いガタガタの卓子テーブルと、蒲団ふとんに風呂敷包みに、与一の絵の道具とこのようなたぐいであった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
左右の壁際には衝立ついたての裏表に腰掛と卓子テーブルとをつけたようなボックスとかいうものが据え並べてあって、天井からは挑灯ちょうちんに造花
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼女が手にした洋灯ランプを、卓子テーブルの上に置くのにも、その痩せた節高い指が、痛々しく努力するのを見て、法水は憐憫の情で胸が一杯になった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それから二、三日経った或る夜、庄司氏の応接室で卓子テーブルを取り巻いて主客三人の男が坐っていた。髪の毛の薄い肥った男は探偵小説家だった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一脚の卓子テーブルと椅子とが、燈臺の形なりの狹い圓型のその室内にあり、圓いなりの石の壁には小さな六角時計がかけてあつた。
樹木とその葉:03 島三題 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「おや、とうとう来て下さったのね」と、二組ばかりの酒のみ客を相手にしていた私は、朴を部屋の隅っこの卓子テーブルに導きながら小声で言った。
一人の青年はビールの酔いを肩先にあらわしながら、コップの尻でよごれた卓子テーブルにかまわずひじを立てて、先ほどからほとんど一人でしゃべっていた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
Bは、盃を音をたてゝ卓子テーブルに置くと、わざとらしくがつくりした。「嫌ひだよ、ムツツリは! 何云つてやがるんだい。」
昔の歌留多 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その前の卓子テーブルの上には、免状式のときのように小さな封筒入りの月給が、いくつもいくつもうず高く積み重ねられていた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「美和子の女給ウェイトレスぶりを、ちょっと見せるわよ。」と耳語すると、たちまち自分の座席から立ち上って、前川の卓子テーブルに行き
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女子供は門口の空地に水を撒いて、小さな卓子テーブルと低い腰掛をそこに置いた。誰にもわかる。もう晩飯の時刻が来たのだ。
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ふと書斎の卓子テーブルの下の屑籠の傍へ投げ出されあった皺苦茶の手紙の片端を見ましたので、何心なく拾い上げて読みますと、自筆の覚束ない英語で
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
彼は今日、ママ欝なのだ。卓子テーブルに肘を突いたまゝ、ゆつくり煙を揚げてゐる。もつとも喫つてゐるものだけはうまさうだが。
夭折した富永太郎 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
南に面した方には二つの窓があり、その西側の窓の下に大きな卓子テーブルがあって、その上にドッシリした本立ほんたてが置かれ、それに数冊の洋書が立ててある。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたかも方頷ほうがん無髯むぜんの巨漢が高い卓子テーブルの上から薄暗いランプを移して、今まで腰を掛けていたらしい黒塗の箱の上の蒲団ふとん跳退はねのけて代りに置く処だった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
毎日寄って来る人たちは、店にならべた椅子卓子テーブルによって、趣意書や規則書のような刷り物の原稿を書いたり、基金や会員募集の方法を講じたりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『併し、これは君、もっと尖った固いものだよ。見たまえ、皮膚が切れて血が渗んでいる。おそらく倒れるはずみに卓子テーブルの角にでもぶつけたのだろう——』
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
またアボットの後日の話によれば、ファラデーが自分の家の台所へ来て、実験をしたこともあり、台所の卓子テーブルで友人を集めて講義をしたこともあるそうだ。
級長は卓子テーブルの前に進んだ。校長も、文平も、きつと鋭い眸をこの生徒の顔面おもてに注いだ。省吾なぞから見ると、ずつと夙慧ませた少年で、言ふことは了然はつきり好く解る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
椅子と食卓が適当にばらまかれ、一つの卓子テーブルは一人が占領することに定っていて、それには銘々キュピットの形をした可愛らしい木の立札が立ててあります。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
ちんちくりんの女だから、卓子テーブルの上に面皰だらけの顏を載せたやうで、足は床につくかつかない形だつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)