十露盤そろばん)” の例文
彼と我れとの相違は、いわば十露盤そろばんけたが違っているだけで、喜助のありがたがる二百もんに相当する貯蓄だに、こっちはないのである。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一文不通いちもんふつうの木具屋のせがれが、今では何うやら斯うやら手紙の一本も書け、十露盤そろばんも覚え、少しは剣術も覚えたのは、皆大旦那のお蔭
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
手習い一方でなく、十露盤そろばんも教えていたが、人物も手堅く、教授もなかなか親切であるというので、親たちのあいだには評判がよかった。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
治療代はこツちで出し、本人はそつちで占領する——そんな都合のいい計算は人間その物の十露盤そろばん上には無いぞ、と義雄は云つてやりたかつた。
「それぢや差引さしひき四十一せんりん小端こばしか、こつちのおつかさま自分じぶんでもあきねえしてつから記憶おべえがえゝやな」商人あきんど十露盤そろばんつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何か気にわぬことを言われた口惜くやしまぎれに、十露盤そろばんで番頭の頭をブンなぐったのは、宗蔵が年季奉公の最後の日であった。流浪はそれから始まった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もしもそうでなかったらいかに彼の名文をもってしても、書肆しょし十露盤そろばんに大きな狂いを生じたであろうと思われる。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
動かすがごとしという遍昭へんじょうが歌の生れ変りひじを落書きの墨のあと淋漓りんりたる十露盤そろばんに突いて湯銭を貸本にかすり春水翁しゅんすいおう
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
筆算と十露盤そろばんといずれか便利なりと尋ぬれば、両様ともに便利なりと答うべし。石盤と石筆との価、十露盤よりも高からず、その取扱もまた十露盤に異ならず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
うきよを十露盤そろばんの玉の汗に、商ひといふ事はじめばや、もとより桜かざしてあそびたる大宮人のまとゐなどは、昨日のはるの夢とわすれて、志賀の都のふりにしことを言はず
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
龍華寺の坊さまにいぢめられんは心外と、これより學校へ通ふ事おもしろからず、我まゝの本性あなどられしが口惜しさに、石筆を折り墨をすて、書物ほん十露盤そろばんも入らぬ物にして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つかすてしとは何ごとぞや十兩からは大金たいきんなるぞ夫を何ぞやつかこみらぬ顏して主人の大膽者だいたんものめと有合ありあふ十露盤そろばんおつ取て久八を散々さん/″\打擲ちやうちやくすを側に見て居る千太郎は我が骨節ほねぶし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
十露盤そろばんで当って見ない物は譃だ、4920
彼と我との相違は、謂はば十露盤そろばんの桁が違つてゐるだけで、喜助の難有がる二百文に相當する貯蓄だに、こつちはないのである。
高瀬舟 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼は細かい十露盤そろばんたまをせせっているのをもどかしく思って、堂島どうじまの米あきないに濡れ手で粟の大博奕おおばくちを試みると、その目算はがらりと狂って
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが当時は十露盤そろばんずくで引き合う山でもなく、結局尾州家の財源にもならなかったとすれば、万一の用材に応ずる森林の保護のためにあったのか。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おまえは十露盤そろばんを取ったり帳面を扱ったりさせれば一廉いっかどの人間だけれども、人を馬鹿にするも程が有るじゃないか、位牌と婚礼をしろって馬鹿/\しい
貸し方の男には常住坐臥不断に片手に十露盤そろばんを持つべしと命じて迷惑させるのも心理的である。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「はて、一つ十五もんめづゝだ、つぶちひせえはうだな」商人あきんどはゆつくり十露盤そろばんたまはじいて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
龍華寺の坊さまにいぢめられんは心外と、これより学校へ通ふ事おもしろからず、我ままの本性あなどられしが口惜しさに、石筆せきひつを折り墨をすて、書物ほん十露盤そろばんも入らぬ物にして
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つまり初めから十露盤そろばんが取れないような無理な仕組みに出来あがっているんですから、自然そこにいろいろの弊害が起って来て、岡っ引とか手先とかいうと
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
河水を利用する檜材の輸送には莫大ばくだいな人手と費用とを要し、小谷狩こたにがり、大谷狩から美濃の綱場を経て遠い市場に送り出されるまで、これが十露盤そろばんずくでできる仕事ではないという。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
龍華寺りうげじぼうさまにいぢめられんは心外しんぐわいと、これより學校がくかうかよことおもしろからず、わがまゝの本性ほんせうあなどられしが口惜くやしさに、石筆せきひつすみをすて、書物ほん十露盤そろばんらぬものにして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
皆掛みながけが四百廿三もんめだからなそれ」はかりをおしなせて十露盤そろばんたまはじいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
源「わし十露盤そろばんを取って商いをする身だから、沢山たんとの礼も出来ないが、五両上げる」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いずれも帳面をならべて十露盤そろばんをはじいている。若い者庄八と長次郎は尻を端折って店さきに出で、小僧三人に指図して、五徳や火箸のたぐいを縄でくくらせている。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と音作は俵蓋さんだはらおほひ冠せ乍ら言つた。地主は答へなかつた。目を細くして無言で考へて居るは、胸の中に十露盤そろばんを置いて見るらしい。何時いつの間にか音作の弟が大きなはかりを持つて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
上杉のおぬひと言ふ、桂次がのぼせるだけ容貌きりやうも十人なみ少しあがりて、よみ書き十露盤そろばんそれは小學校にて學びし丈のことは出來て、我が名にちなめる針仕事は袴の仕立までわけなきよし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
天下の大事が胸一杯につかへてゐるので、十露盤そろばんなんぞを彈いてゐる氣にはなれませんよ。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いづれも学問する児童こどもらしい顔付の殊勝さ。弁当箱を振廻して行くもあれば、風呂敷包を頭の上にせて行くもある。十露盤そろばん小脇にかゝへ、上草履提げ、口笛を吹くやら、唱歌を歌ふやら。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
上杉うへすぎのおぬひと桂次けいじがのぼせるだけ容貌きりようも十人なみすこしあがりて、よみ十露盤そろばんそれは小學校せうがくかうにてまなびしだけのことは出來できて、にちなめる針仕事はりしごとはかま仕立したてまでわけなきよし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今までは奉公人まかせにしておいた帳簿などを自分で丹念にあらためて、ついぞ持ったことのない十露盤そろばんなどをせせくるようにもなった。彼は純な百姓生活にかえって、土の匂いに親しんだ。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
上杉のおぬひと言ふ、桂次がのぼせるだけ容貌きりようも十人なみ少しあがりて、よみ書き十露盤そろばんそれは小学校にて学びしだけのことは出来て、我が名にちなめる針仕事ははかまの仕立までわけなきよし
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
四十以上の大番頭が帳場に坐って、その傍に二人の若い番頭が十露盤そろばんをはじいていた。ほかにもかの和吉ともう一人の中年の男が見えた。四、五人の小僧が店の先で鉄釘かなくぎの荷を解いていた。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もと富家ふかひととなりて柔弱にうじやくにのみそだちしれとおぼえしげいもなく十露盤そろばんりならへどものあたりしことなければときようにはちもせずしてくらへばむなしくなる山高帽子やまたかばうし半靴はんぐつ明日きのふかざりしまはりもひとふたりはては晦日みそか勘定かんぢやうさへむねにつかふるほどにもなりぬ。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そりゃあ私じゃあありません。十露盤そろばん絞りの手拭をかぶった若い野郎です」
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
従来の興行法ではどうしても観劇料が高くなるから、東京で一回の興行を終ると、その大道具衣裳かつら一切を持って地方幾カ所の巡回興行をつづけ、それを通算して十露盤そろばんを取ることにする。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)