以前まへ)” の例文
以前まへの室から、また二人廊下に現れた。洋服を着た男は悠然ゆつたりと彼方へ歩いて行つたが、モ一人は白い兎の跳る様に駆けて来ながら
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
帽子屋ばうしやッた一人ひとり場所ばしよへたために一ばんいことをしました、あいちやんは以前まへよりもぽどわりわるくなりました、だつて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
以前まへから僕は寺の生活といふものに興味を持つて居た。』と丑松は言出した。丁度下女の袈裟治けさぢ(北信に多くある女の名)が湯沸ゆわかしを持つて入つて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ルーズヴエルトの以前まへに米国にマツキンレイといふ大統領があつたのは、まだ記憶おぼえてゐる人が多からう。この人は政治のほかに一つの道楽を持つてゐた。
其の流れの一部がこの廣場を借りて淨瑠璃音頭じやうるりおんどで、「お染は覺悟の以前まへ剃刀かみそり、おゝ」なゞと始めると、歸りかゝつたちかまはりの村々の男女までが引き返して來て
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
姫君はその話を聞きながら、六年以前まへの事を思ひ出した。六年以前には、いくら泣いても、泣き足りない程悲しかつた。が、今は体も心も余りにそれには疲れてゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
めてもえゝのんや」と繰返していふ。たしか、以前まへにも二三囘、彼は斯うした事から「める」と騷ぎ出し、職員全部にそれをふれて𢌞つたが、結局辭めなかつた。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
おつたは幾年いくねん以前まへ仕立したてえる滅多めつたにない大形おほがた鳴海絞なるみしぼりの浴衣ゆかた片肌脱かたはだぬぎにしてひだり袖口そでぐちがだらりとひざしたまでれてる。すそ片隅かたすみ端折はしよつてそとからおびはさんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
目鼻めはなだちよりかみのかゝり、ならびのところまでたとはおろ毋樣はゝさまそのまゝのうまれつき、奧樣おくさま父御てゝごといひしは赤鬼あかおにらうとて、十ねん以前まへまではものすごいひからせておはしたるものなれど
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宿といつても此家ここ普通なみの下宿ではない、ただ二階の二間ふたまを友人と共に借切つてまかなひをつけて貰つてるといふ所謂いはゆる素人下宿の一つである。自分等の引越して來たのはつい三ヶ月ほど以前まへであつた。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
あいちやんは其處そこ彼等かれらまはるのをて、偶々たま/\自分じぶん以前まへしうに、數多あまた金魚鉢きんぎよばちくりかへしたときざまおもおこしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
以前まへにも一度来た。返事を出さなかつたのでまた来た。梅といふ子が生れた翌年よくとし不図ふと行方知れずなつてからモウ九年になる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『其が無ければ、第一読んで見たつて解りやしない。其だあね、僕が以前まへから瀬川君に言つてるのは。尤も瀬川君が其を言へないのは、僕は百も承知だがね。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ずつと以前まへ、丁度この頃のやうな秋日和に東京の近郊、雑司ざふし附近あたり徜徉ぶらついてゐると、一人の洋画家が古ぼけた繻子張しゆすばり蝙蝠傘かうもりがさの下で、其辺そこらの野道をせつせと写生してゐた。
と云ふのは、父は五十九歳を一期として、二週間以前まへにあの世の人と成つたのである。この通知の俊吉に達したのは、實に一週間前の雨の夕であつた。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『ナニへびだ、へびだ!』と繰返くりかへしましたがはとは、以前まへよりも餘程よほどやさしく、其上そのうへ可哀相かあいさう歔欷すゝりなきまでして、『わたし種々いろ/\經驗ためしたが、へび似寄によつたものはほかなにもない!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
古い穢多の宗族いへがらといふことは、丁度長野の師範校に心理学の講師として来て居た頃——丑松がまだ入学しない以前まへ——同じ南信の地方から出て来た二三の生徒の口かられた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それは静子の学校仲間であつた平沢清子が、医師いしやの加藤と結婚する前日であつた。清子と信吾が、余程以前まへから思ひ合つてゐた事は、静子だけがよく知つてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
誰が甚麽どんな人やらも知らぬのに、随分乱暴な話で、主筆氏の事も、野口君は以前まへから知つて居られたが、予に至つては初めて逢つて会議の際に多少議論しただけの事。
高田家の三代許り以前まへの人が、藩でも有名な目附役で、何とかの際に非常な功績てがらをしたと言ふ事と、私の祖父おぢいさんが鉄砲の名人であつたと言ふ事だけは記憶おぼえてゐる。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『あ、陸奥ですか。あれには僕も一度乗ツた事がある。余程ようぽど以前まへこつたが………………………』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『僕は以前まへから稽古したいと思つてるんだが、餘り上手な人に頼むのは氣の毒でね。——』
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
覚束おぼつかなく考へると、自分は何日いつからとも知れず、長い/\間うして苦んでゐた様な気がする。程経てから前夜の事が思出された。それも然し、ズツト/\以前まへの事の様だ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
学問があり演説は巧し、おまけに金があると来てるから、宛然まるで火の玉の様に転げ歩いて、熱心な遊説をやつたもんだが、七八万の財産が国会開会以前まへに一文も無くなつたとか云ふ事だつた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分が餘程以前まへから此村にゐる樣な氣持で、先刻逢つて酒を強ひられた許りの村の有志——その中には清子の父なる老村長もゐた——の顏も、可也古くからの親しみがある樣に覺えた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『僕は君よりズツト以前まへからさう思つて居た。』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)