)” の例文
その人ならず、善く財を理し、事を計るに由りて、かかる疎放の殿をいただける田鶴見家も、さいはひ破綻はたんを生ずる無きを得てけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と凹凸なく瞰下みおろさるる、かかる一枚の絵の中に、もすその端さえ、片袖かたそでさえ、美しき夫人の姿を、何処いずこに隠すべくも見えなかった。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
力車りきしや、一輪車、電車、あらゆる種類の車と、あらゆる人種を交へた通行人とが絡繹らくえきとしながらの衝突も生じないのを見ると
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
吾々の此の日常生活というものに対してうたがいをもさしはさまず、あらゆる感覚、有ゆる思想を働かして自我の充実を求めて行く生活、そして何を見
絶望より生ずる文芸 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その代りすべての物を古雅化しての俗気を帯びざる処に一種の面白みあり、故に万葉調を以て凡百の物事を詠まんとならば大体において賛成致候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
けれどもが、さし向かえば、の尊敬をするわけでもない、自他平等、海藻のりのつくだ煮の品評に余念もありません。
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
勘次かんじ什麽どんな八釜敷やかましくおつぎをおさへてもおつぎがそれでせいせられても、勘次かんじむら若者わかものがおつぎにおもひけることに掣肘せいちうくはへるちからをもいうしてらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その四、五人の人達は、どれもこれも、薄い削いだような脣をしていて、話の中には、極まって眉根を寄せ、苦い後口を覚えたような顔になるのが常であった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何にも停滞ていたいしておらん。随処ずいしょに動き去り、任意にんいし去って、塵滓じんしの腹部に沈澱ちんでんする景色けしきがない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
而かも相互の愛情にはの不純も無かつた。相愛してゐた。誰一人憎むべき人間は見当らなかつた。
神童の死 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
主人の証言によって、それはの疑いもなく由蔵の屍体であると判明した。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
痩せこけた頬にの血色もない、塵埃ごみだらけの短い袷を著て、よごれた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帶を締めて、赤い木綿の截片きれを頸に捲いて……、俯向いて足の爪尖つまさきを瞠め乍ら
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
人もしその倨傲きょごうなるを憎みて、の米銭を与えざらむか、乞食僧はあえて意となさず、決してまたえむともせず。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそれすら極端に推論せられては過誤を生ずべし。例へば一分の理窟ある製作は、の理窟なき製作に比して、一分だけ劣れりなどと推論せらるるが如し。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それと同時どうじ若者わかものためにはかれ蝮蛇まむし毒牙どくがごときものでなければらぬ。れでありながら威嚴ゐげん勢力せいりよくもないかれすべての若者わかものからかれ苛立いらだたしめる惡戯いたづらもつむくいられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それでなければ卒然と春のなかに消え失せて、これまでの四大しだいが、今頃は目に見えぬ霊氛れいふんとなって、広い天地の間に、顕微鏡けんびきょうの力をるとも、名残なごりとどめぬようになったのであろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
痩せこけた頬にの血色もない、塵埃ごみだらけの短かい袷を着て、よごれた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帯を締めて、赤い木綿の截片きれを頸に捲いて、……俯向いて足の爪尖をみつめ乍ら
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
憶起おもひおこふしもありや、と貫一は打案じつつもなかばは怪むに過ぎざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いまふさがず、れいみはつて、ひそむべきなやみもげに、ひたひばかりのすぢきざまず、うつくしうやさしまゆびたまゝ、またゝきもしないで、のまゝ見据みすえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼の心性高潔にしての俗気なきこともって見るべし。しかれども余は磊落高潔なる蕪村を尊敬すると同時に、小心ならざりし、あまり名誉心を抑え過ぎたる蕪村を惜しまずんばあらず。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
も動ずる色無き直行はかへつて微笑を帯びて、ことばをさへやはらげつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
床も、承塵なげしも、柱はもとより、たたずめるものの踏むところは、黒漆こくしつの落ちた黄金きんである。黄金きんげた黒漆とは思われないで、しかものけばけばしい感じが起らぬ。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その歌、『古今』『新古今』の陳套ちんとうちず真淵まぶち景樹かげき窠臼かきゅうに陥らず、『万葉』を学んで『万葉』を脱し、鎖事さじ俗事を捕えきたりて縦横に馳駆ちくするところ、かえって高雅蒼老そうろうの俗気を帯びず。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
謹慎なる聴衆をれたる法廷は、室内の空気も熱せずして、渠らは幽谷の木立ちのごとく群がりたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実景をそのままに写し、の巧をもてあそばぬところかえって興多く候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
外套を押遣おしやって、ちと慌てたように広袖どてらを脱ぎながら、上衣の衣兜へまた手を入れて、顔色をかえてしおれてじっと考えた時、お若は鷹揚おうようも意に介する処のないような、しかも情のこもった調子で
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実景をそのままに写したくみもてあそばぬ所かへつて興多く候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)