駈上かけあが)” の例文
鳥のようにびらりとねたわ、海の中へ、飛込むでねえ——真白まっしろな波のかさなりかさなり崩れて来る、大きな山へ——駈上かけあがるだ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梯子段はしごだんの二三段を一躍ひととびに駈上かけあがつて人込ひとごみの中に割込わりこむと、床板ゆかいたなゝめになつた低い屋根裏やねうら大向おほむかうは大きな船の底へでもりたやうな心持こゝろもち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と云われ心細いから惣吉は帰って観音堂へ駈上かけあがって見ると情ないかな母親は、咽喉のど二巻ふたまき程丸ぐけでくゝられて、虚空を掴んで死んで居る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何か起ったと思うより早く、船長は脱兎の如く上甲板へ駈上かけあがっていた。——更に梯子タラップを下りると、短艇の中に残された一人が
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女はすすりなきながら二階へ上っていったが、たちまちたまぎる泣声がきこえたので、みんな駈上かけあがった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
見物席からイキナリ駈上かけあがって来たらしく頬を真赤にしてセイセイ息を切らしていたが、吾輩が振翳ふりかざしている死骸なんかには眼もくれずに、ハンドバッグの中から分厚い札束を掴み出すと
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
梯子段の二、三段を一躍ひととびに駈上かけあがって人込みの中に割込むと、床板ゆかいたななめになった低い屋根裏の大向おおむこうは大きな船の底へでも下りたような心持。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たちまち蘇生よみがえりて悲鳴を揚げ、いたく物に恐れしさまにて、狆は式台に駈上かけあがれば、やれ嬉しやと奥様は戸を引開けいだき上げて、そのまま奥へ、ふいと御入。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わっしあ夢中で逃出した。——突然いきなり見附へ駈着かけつけて、火の見へ駈上かけあがろうと思ったがね、まだ田町から火事も出ずさ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
途中で乗った円タクを硝子屋の店先へつけさせ、裏口から二階へ駈上かけあがって、貸間のふすまを明けかけると、中にはいつのにか夜具が敷いてあって、後向うしろむきにているお千代の髪が見えた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いきほひつて、わたし夢中むちう駈上かけあがつて、懷中電燈くわいちうでんとうあかりりて、戸袋とぶくろたなから、觀世音くわんぜおん塑像そざう一體いつたい懷中くわいちうし、つくゑしたを、壁土かべつちなかさぐつて、なきちゝつてくれた
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまにもはるか石壇いしだんへ、面長おもながな、しろかほつまほそいのが駈上かけあがらうかとあやぶみ、いらち、れて、まどから半身はんしんしてわたしたちに、慇懃いんぎんつてくれた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、堤尻どてじり駈上かけあがつて、掛茶屋かけぢゃやを、やゝ念入りな、間近まぢかいちぜんめし屋へ飛込とびこんだ時は、此の十七日の月の気勢けはいめぬ、さながらの闇夜あんやと成つて、しのつく雨に風がすさんだ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「なに、目を落したとえ、それはまあ。」と三吉が見て奥様ととなえし美人。汚き畳へ駈上かけあがれば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのしたにありける露地ろぢいへ飛込とびこんで……打倒うちたふれけるかはりに、二階にかい駈上かけあがつたものである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すぐに石段を駈上かけあがり縁を廻ったと思えば、十歳とおばかりの兄の方が、早く薄べりを縁に敷いた。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多勢に一人、あら切抜けた、図書様がお天守に遁込にげこみました。追掛けますよ。やりまで持出した。(欄干をするすると)図書様が、二重へ駈上かけあがっておいでなさいます。大勢が追詰めて。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
坂を駈上かけあがって、ほっと呼吸いきいた。が、しばらく茫然としてたたずんだ。——電車の音はあとさきに聞えながら、方角が分らなかった。直下の炎天に目さえくらむばかりだったのである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駈上かけあがった若い者も、ふるえるばかりで、とりおさえ手もなかったといって、梓に顫着ふるいついて口惜くやしがった時には、たまらずその場から車に乗せて、これをわがそのへ移し植えようと思ったのである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行燈部屋あんどんべやそつしのんで、裏階子うらばしごから、三階見霽さんがいみはらし欄干てすり駈上かけあがつたやうである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とお百合を抱くようにして三人鐘楼しょうろう駈上かけあがる。学円は奥に、上り口に晃、お百合、と互にたてにならんと争う。やがて押退おしのけて、晃、すっくと立ち、鎌をかざす。博徒、衆ともに下より取巻く。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階へばたばたと駈上かけあがり、御注進と云う処を、よろいしま半纏はんてんで、草摺くさずりみじかな格子の前掛、ものが無常だけに、ト手はひるがえさず、すなわち尋常に黒繻子くろじゅすの襟を合わせて、火鉢の向うへ中腰で細くなる……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はしに小さな芋虫いもむしを一つくわえ、あっち向いて、こっち向いて、ひょいひょいと見せびらかすと、籠の中のは、恋人から来た玉章たまずさほどに欲しがって駈上かけあが飛上とびあがって取ろうとすると、ひょいとかおを横にして
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)