風呂敷包ふろしきづつ)” の例文
大急ぎで車屋に賃金を払い、車のけこみへ乗せて来た濡れた洋服の風呂敷包ふろしきづつみを片手にぶら下げて、梯子段を走るようにして上った。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
まだ昼前のことで、大きな風呂敷包ふろしきづつみを背負しょった男、帳面をぶらさげて行く小僧なぞが、その辺の町中をったり来たりしていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし渡船は時間の消費をいとわず重い風呂敷包ふろしきづつみなぞ背負せおってテクテクと市中しちゅうを歩いている者どもにはだいなる休息を与え
錆茶さびちゃ塗下駄ぬりげた。十六、七の少女だった。少女はその小脇に風呂敷包ふろしきづつみを抱えていた。そして、少女は何かに追い立てられているように、急いでいた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
三四郎はしばらくたたずんでいた。手にかなり大きな風呂敷包ふろしきづつみをさげている。中には樽柿たるがきがいっぱいはいっている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
袴羽織はかまはおりに紫の風呂敷包ふろしきづつみを小脇こわきにしているところでは、これはおおかた借りていた書物でも返しに来たのであろう。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして二人の中央のコンクリートにじかに置いた風呂敷包ふろしきづつみの弁当から、無言でそれぞれの分だけをたべる。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
食糧しょくりょう風呂敷包ふろしきづつみにして、千円の金を持って千穂子は産院に戻って来たが、赤ん坊はひどい下痢げりをしていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
で、風呂敷包ふろしきづつみとかさつてちながら、煙管きせるのまゝ片手かたてつて、づいと縁臺えんだいはなれてつてた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女中おんなは戸を立て、火鉢ひばちの炭をついで去れば、老女は風呂敷包ふろしきづつみを戸棚とだなにしまい、立ってこなたに来たり
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そして、風呂敷包ふろしきづつみからお米を一つかみ取り出して、片方の手でそれを指さしながら、しきりに頭を下げています。「お米を下さい」と言ってるようなようすです。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
家を出て二三町歩いてから持って出た脚絆きゃはんめ、団飯むすび風呂敷包ふろしきづつみをおのが手作りの穿替はきかえの草鞋わらじと共にくびにかけて背負い、腰の周囲まわりを軽くして、一ト筋の手拭てぬぐいほおかぶり
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この時たちまち大原家の裏口より大きな風呂敷包ふろしきづつみを背に負いて一散に駆け出す怪しき曲者くせもの
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
小手の方からは省作の母が孫二人をつれ、おはまも風呂敷包ふろしきづつみを持って送ってきた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
実はこれを貴君あなたに始末して頂こうと思って持って参じましたといって風呂敷包ふろしきづつみを解かれると、中に絹の服紗ふくさに包んだものが米ならば一升五合もあろうかと思うほどのかさになっている。
日本人の特徴は、眼鏡めがね風呂敷包ふろしきづつみだと、よく外人らがもとは言ったものである。もちろんそんな特徴ばかりを見ていたからいけないのだが、なるほど考えて見るとこの二つはよく目につく。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただあのあたりの風景にして気にかかる構成上の欠点は、図書館の近くにある豊国とよくに神社の屋根と鳥居とりいである。あれは、誰れかが置き忘れて行った風呂敷包ふろしきづつみであるかも知れないという感じである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
まるで夢の中のしぐさのように、中々網棚あみだな風呂敷包ふろしきづつみが下せない。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
しかし間もなく錦紗きんしゃの絞りの風呂敷包ふろしきづつみが届いて、葉子がそのつもりで羽織を着て、独りではしゃぎ気味になったところで、今夜ここで一泊したいからと女中を呼んで言い入れると、しばらくしてから
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
預かった染め物の風呂敷包ふろしきづつみをも小脇こわきにかかえながら、やがて彼は紺地に白く伊勢屋と染めぬいてある暖簾のれんをくぐって出た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父は、白い風呂敷包ふろしきづつみの中の風琴を、時々しりしながら、粉ばかりになった刻み煙草たばこを吸っていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ある片田舎かたいなかの村に、ひょっこり一匹のさるがやって来ました。非常に大きな年とった猿で、背中に赤い布をつけ、首に鈴をつけて、手に小さな風呂敷包ふろしきづつみを下げていました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
小娘こむすめ何時いつかもうわたくしまへせきかへつて、不相變あひかはらずひびだらけのほほ萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきうづめながら、おおきな風呂敷包ふろしきづつみをかかへたに、しつかりと三とう切符ぎつぷにぎつてゐる。……
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二三枚にさんまいものを始末しまつして、風呂敷包ふろしきづつみをこしらへると、ぐに我家わがや駈出かけださうとして、ゆきがけの駄賃だちんに、なんと、姿すがたこゝろ消々きえ/″\つていてるおつやおび一度いちどぐい、といた。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黙ったまま、ぼくが弁当の風呂敷包ふろしきづつみを解き終ったとき、異様なほどの大きさでぼくの腹が、ク、ルル、ル、と鳴った。はりつめた気がふいにゆるみ、ぼくは大声をあげて笑った。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
彼女はそんな風に言いながら、持ってきた菓子などを風呂敷包ふろしきづつみの中から取り出した。
街頭の偽映鏡 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
小川おがわさんですか」と向こうから尋ねてくれた。顔は野々宮君に似ている。娘にも似ている。しかしただ似ているというだけである。頼まれた風呂敷包ふろしきづつみを出すと、受け取って、礼を述べて
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうさ、また男が風呂敷包ふろしきづつみなんか持って歩けますかい」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
末子は家へのみやげにと言って、町で求めた菓子パンなどを風呂敷包ふろしきづつみにしながら、自動車の中に私たちを待っていた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やはり赤い布と鈴とをつけ、小さな風呂敷包ふろしきづつみを持っていました。そして村の家の前で踊ってみせました。がこんどは、風呂敷から野菜の切端きれはしを取り出して、それをくれと言うようなんです。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかもあかじみた萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきがだらりとさがつたひざうへには、おほきな風呂敷包ふろしきづつみがあつた。そのまたつつみをいた霜燒しもやけのなかには、三とう赤切符あかぎつぷ大事だいじさうにしつかりにぎられてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぼくが弁当の風呂敷包ふろしきづつみとボールとを持ち階段を駈けあがると、屋上の金網に幽霊のような姿勢で両手の指を突っこみ、じっと広尾ひろお方面の焼跡を見下ろしている一人の先客の背が目にはいった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
彼女はおかしな風呂敷包ふろしきづつみをつくっては墓場の道を走って行く。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
よし子は風呂敷包ふろしきづつみの中から、蜜柑みかんかごを出した。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の旦那だんなの首を夜中に拾いに行って、木曾川の水でそれを洗って、風呂敷包ふろしきづつみにして持って帰ったという話がある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とまた松雲は静かに言い添えて、小さな葛籠つづら風呂敷包ふろしきづつみにしてあるのを取り出して来た。あだかも、和尚の本心はその中にこめてあるというふうに。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
公役見送りの帰りとあって、妻籠と馬籠の宿役人はいずれもはかま雪駄せったばきの軽い姿になった。半蔵の脱いだ肩衣かたぎぬ風呂敷包ふろしきづつみにして佐吉の背中にあった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
巻きたたんだあら毛布けっとを肩に掛け、風呂敷包ふろしきづつみまで腰に結び着けて、朝じめりのした坂道を荒町から登って来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは門人らの筆記になる平田篤胤の講本だ。王滝の宿であけて見たいと思って、馬籠を出る時に風呂敷包ふろしきづつみの中に入れて来た上下二冊の『静の岩屋』だ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私が支払い口の窓のところで受け取った紙幣は、風呂敷包ふろしきづつみにして、次郎と二人ふたりでそれを分けてげた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
妻籠土産みやげ風呂敷包ふろしきづつみが解かれ、これは宗太に、これは森夫にと、留守居していた子供たちをよろこばせるような物が取り出されると、一時家じゅうのものは妻籠の方のうわさで持ち切る。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もっとも、飯田の方に着いて同門の人たちと一緒になる場合を考えると紋付の羽織にはかまぐらい風呂敷包ふろしきづつみにして肩に掛けて行く用意は必要であり、馬籠本陣への手土産てみやげも忘れてはいなかったが。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを餞別せんべつのしるしにと言って、風呂敷包ふろしきづつみにして半蔵の前に出した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)