難有ありがと)” の例文
「いいえ、そんなじゃありません。切なければきに寝ますよ。お嬢さん、難有ありがとう存じます。貴嬢あなた、よくおいで下さいましたのね。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三四郎は「えゝ、難有ありがとう、御蔭さまで」と云ふ様な事を真面目まじめに答へながら、したを向いて、御猪口おちよくの葡萄まめをしきりに突つつき出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
難有ありがとうございますと御礼はいったけれども、実によくわからないので、戸棚へつッこんでおくうちに、震災でみんな焼いてしまいました。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女はそれから先の事をこまかに想像して見ずにはいられなかった。多分男は冷やかに微笑ほほえんで、自分と握手をして、「難有ありがとう」というだろう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
難有ありがとう。いろいろ御心配を掛けて済まなかったが、自分は熟考の上で御断りすることに決心した。校長先生へもよろしく伝えて下さい」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうも難有ありがとうございました。この汽車は長くて、辛いですね。殊に家内は夜汽車に慣れないものですから」
「そうですか? じゃ失敬します。」青年はただ疑わしそうに、難有ありがとうとも何とも云わずに帰って行った。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
難有ありがとよ」といったきりで百合子さんは平気な顔をしている。それ見ろ。乃公はトウトウ失恋になってしまった。最早もう此んな薄情な奴とは遊ばないからいいや。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
難有ありがとうございます。いえ。県庁からお宿を仰附おおせつけられましたのは、この上もない名誉な事でございます。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
まで喜びもしなければ、品物が粗末だといって苦情もわず、ただ難有ありがとうございますと云て拝領はいりょうして
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
毎日まいにち安泰あんたいくらさせていただきましてまこと難有ありがとうございます。何卒なにとぞ明日あす無事ぶじ息災そくさいすごせますよう……。』むかしはこんなあっさりしたのがたいそうおおかったものでございます。
いろいろ教えて頂戴ちょうだいしたのね。難有ありがとうよ。お前さんのお蔭で、わたしはあの人が本当に可哀くなったんだから、それもお前さんにお礼を言っても好いわ。わたしもう行ってよ。
青年は、貨幣を受け取って「難有ありがとう」と云った時にもう三足ほど立ち退いていた。長い足で、雪の上を町の方へ向いて行くのである。折々手でずぼんを引き上げながら、歩いて行く。
(新字新仮名) / ウィルヘルム・シュミットボン(著)
難有ありがとう御座います。それで僕も安心しました。イヤまことに失礼しました匆卒いきなり貴様をとがめまして……」と彼は人をおしつけようとする最初の気勢とはうって変り、如何いかにも力なげにわびたのを見て
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
難有ありがとうございます。いつかじゅうも願って見ようかと思っていましたの。(間。)
しきりに勧められるけれど、難有ありがとう難有うとばかり言ってて、手を出さなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それは難有ありがとうございます。なぜと云うに、死人しびとなんぞに
「それは難有ありがとう。それではウイスキイでも抜くかな。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
丹「難有ありがとうございます」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お返事難有ありがとう。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「身に染む話に聞惚ききとれて、人通りがもう影法師じゃ。世の中には種々いろいろな事がある。お婆さん、おかげ沢山たんと学問をした、難有ありがとう、どれ……」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや難有ありがとう」と云っただけであった。別段腹を立てた様子も見えなかったが、些とも感激していないのは、この返事でも明かであった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは難有ありがとう。私もお前さんのとこの子供を見に行かずと思っていた。それに、久し振でお雪さんにも御目に掛りたいし……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お難有ありがとうござります、旦那さま。どうぞ御姓名なまえを伺わせて下さい、貴方さまの御幸福おしあわせをおいのりするために」
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その暇に巻煙草へ火を移した学生が、日に焼けたほおへ微笑を浮べながら、「難有ありがとう」と云った所を見ると、お君さんのこの親切が先方にも通じたのは勿論である。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それは難有ありがとう。明日あした役所から帰る時にでも廻って見ましょう。さあ。饂飩が冷えます。」
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
よるよるで、また神様かみさま御礼おれい申上もうしあげます。『今日きょうにち仕事しごと無事ぶじつとめさせていただきまして、まことに難有ありがとうございました……。』その気持きもちべつ現世げんせときすこしもかわりはしませぬ。
難有ありがとう」と言ったぎり自分が躊躇もじもじしているので斎藤は不審いぶかしそうに自分を見ていたが、「イヤ失敬」と言って去ってしまった。十歩を隔てて彼は振返って見たに違ない。自分は思わずくびすくめた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
誠に難有ありがとうございます、大阪に行けば必ず面白い仕事がありましょうけれども、私はドウも首をもがれたッて攘夷のお供は出来ません、うじゃないかと、箕作といって断わったことがありましたが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いろいろ伺って難有ありがとうございます。さようなら。
丁度い時にいらっしゃって難有ありがとう。あなたを
代助はただ難有ありがとうと答えただけであった。いよいよ汽車の出る間際まぎわに、梅子はわざと、窓際に近寄って、とくに令嬢の名を呼んで
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「また始めたい、理窟をいったってはじまらねえ。可いからまあ難有ありがとうと、そういってみねえな、よ、いやならせ。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
難有ありがとう御座います。あの御守は紙入の中に入れて、こうしてちゃんと持ってます。今日は大に考えました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「髪長彦さん。難有ありがとう。この御恩は忘れません。私は食蜃人にいじめられていた、生駒山の駒姫こまひめです。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ええ難有ありがとう。でも、わたし左様そうしていられないの。ちょいと出かけて、すぐ帰って来るわ」
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「はははは。しかしとにかく難有ありがとう。奥さんにも宜しく云ってくれ給え。」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
誠に難有ありがとうございます。お蔭で始めてこんな兵書を見ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ああそれは難有ありがとう。毎度お気の毒だと思うんだけれど、ツイね私の方も請取うけとる金が都合よく請取れなかったりするものだから、此方こっちも困るだろうとは知りつつ、何処どっこへも言って行く処がないし、ツイね」と言って莞爾にっこり
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「はい、はい。それはどうも、何ともはや、勿体もったいもない、お難有ありがとう存じます。ああ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其代りおれの方がるから。——里見さん一寸ちよつとつて見てください。団扇はうでもい。ただ立てば。さう。難有ありがとう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ナニ、何でもないんです」とお雪は暫時しばらく動かずにいた後で言った。「難有ありがとう——直樹さん、もう沢山です」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「髪長彦さん。難有ありがとう。この御恩は忘れません。わたしは土蜘蛛にいじめられていた、笠置山かさぎやま笠姫かさひめです。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたし達両女ふたりもやっと安心して、お互いに口を利くようになりました……尤も、初めはごく慎ましく『難有ありがとうございます、奥様マダム』とか『御免あそばせ、奥様マダム』といったような風でしたが
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
難有ありがとうございます」と、りよはおうけをして、老女の部屋をすべり出た。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
難有ありがとう御座います。」
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やい、このざまはどうしたのだ。と口なる手拭退けてやれば、お録はごほんとき入りて、「はい、難有ありがとうございます。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
難有ありがとう、まあ相変らずだ。君に宜しく云っていた。実は今日連れてようと思ったんだけれども、何だか汽車に揺れたんで頭が悪いというから宿屋へ置いて来た」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「これはこれはどうも難有ありがとうござります。どうも奥様、御蔭様で助かりますでござります」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「阿母さん。難有ありがとう。」「何だね、お前、私より泰さんに御礼を申し上げなくっちゃ。」
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)