ぐう)” の例文
で、椅子いすにかけたまま右後ろを向いて見ると、床板の上に三畳たたみを敷いた部屋へやの一ぐうに愛子がたわいもなくすやすやと眠っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこからは、アカシアの植わった小さな広場の一ぐうが見え、なお向うには夕靄ゆうもやに浸った野が見えていた。ライン河は丘のふもとを流れていた。
踊る者があり、歌う者があれば、また、一ぐうでは、怒色どしょくをなして、酒に、うつをいわせている者があるのも、人間講とすれば、やむをえない。
この陰うつなオピタル大通りのうちでの最も陰鬱いんうつな所といえば、五十・五十二番地の破屋のある今日でもあまり人の好まぬその一ぐうであった。
「一ぐうを照らすものを国宝となす」と伝教大師はいっていますが、この国宝こそ、今日最も要求されているのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「黒八、十とこれでよろしい。十四までの別れ申し分なしと。白を一ぐう屏息へいそくせしめ、外に向かって驥足きそくを伸ばす。この作戦われながらよいて。……」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
炬燵の上にはお料理のおぜんが載せられてある。そのお膳の一ぐうに、雀焼すずめやきの皿がある。私はその雀焼きが食いたくてならぬのだ。頃しも季節は大寒だいかんである。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
ところが、ぼくは室の一ぐうにポツンとあかりのさしているのに気がついた、ぼくはそっと近づいた、見ればイルコックが左門先生の地図を写しとっているのだ
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
すると、この建物が、戸山ヶ原の北がわ、西よりの一ぐうにあるということが、ハッキリとわかったのでした。ここでまた、七つ道具の中の磁石が役にたちました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今まで心の一ぐうにうごめいていた処理しょりのつかぬ感情を根こそぎにはらいのけて、自分でも不思議なほど、どっしりとした落ちつきが、一日ごとに私の生活の上にあらわれていた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
硝子ガラス窓が二つ附いて居る。浦潮斯徳ウラジホストツクに駐在して居る東京朝日新聞社の通信員八十島やそじま氏から贈られた果物の籠、リモナアデのびん、寿司の箱、こんな物が室の一ぐうに置いてあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
このにち運動うんどうは、ほねずいまで疲勞ひろうするやうかんじるのであるが、そのあらげたる破片はへん食卓しよくたくの一ぐうならべて、うして、一ぱいやるとき心持こゝろもちといふものは、んともはれぬ愉快ゆくわいである。
彼はとうとう部屋の一ぐうに求めるものを発見した。どうやら身体が抜けられるらしい。それが分ると、彼は急いで樽の明いているのを集めた。そしてそれを城のように積み重ねていった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その部屋はある教室の階上にあたって、一方に幹事室、一方に校長室と接して、二階の一ぐうを占めている。窓は四つある。その一方の窓からは、群立した松林、校長の家の草屋根などが見える。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕も及ばずながら大原君を助けてそういう人にしてみたいと思う。家庭にりては良主人りょうしゅじん、社会に立っては好紳士として文学者の感化力を我邦わがくには申すに及ばず、世界八ぐうへ波及せしめたいと思う。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この命題めいだいもとに見るにまかせ聞くにまかせ、かつは思ふにまかせて過現来くわげんらいを問はず、われぞかずかくの歌のごと其時々そのとき/″\筆次第ふでしだい郵便いうびんはがきをもつ申上候間まうしあげさふらふあひだねがはくは其儘そのまゝ紙面しめんの一ぐう御列おんならおき被下度候くだされたくさふらふ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
自分じぶんおしずしなるものを一つつまんでたがぎてとてもへぬのでおめにしてさら辨當べんたうの一ぐうはしけてたがポロ/\めし病人びやうにん大毒だいどくさとり、これも御免ごめんかうむり、元來ぐわんらい小食せうしよく自分じぶん
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
円座に着きながら、ふと見ると、無地の銀屏風びょうぶが一ぐうにめぐらしてあり、そこに鏡立と、耳盥みみだらい剃刀かみそりなどがそなえてあった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼が立っている広間の一ぐうには、判事らがぼんやりした顔つきをしすり切れた服を着て、爪をかんだり目を閉じたりしていた。他の一隅には粗服の群集がいた。
とテーブルの一ぐうでひたいをあつめてなにごとか話しあっていたドノバンが、とつぜん立ちあがった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いつでも部屋の一ぐうの小さな卓を囲んで、その卓の上にはウイスキー用の小さなコップと水とが備えられていた。いちばんいいにおいの煙草たばこの煙もそこから漂って来た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これは後々のちのちにも関係のあることだから、読者の記憶の一ぐうとどめて置いてもらわねばならぬのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある者は口笛を吹き、ある者は皮肉な喝采かっさいをした。最も気のきいた連中は「も一度ビス」と叫んだ。一つの低音バスが舞台前の一ぐうから響いてきて、道化どうけた主題を真似まねしはじめた。
と、八方から呼ばわる捕手に追い廻され、とどのつまり、僧房の一ぐうに袋づめにされて、十手の乱打に気をうしない、高手小手にしばりあげられる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉子はさすがに針で突くような痛みを鋭く深く良心の一ぐうに感ぜずにはいられなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
首領は天井の一ぐうからさがっているストーブのえんとつみたいな物を指さしました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
イルコックの三人ととうを組んで、食事のときのほかは一同と顔をあわすこともほとんどまれとなり、多くは洞穴の一ぐうにひとかたまりとなって首をあつめなにごとかひそひそと語りあうのであった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
おそらく、彼はその精神の最も空漠くうばくたる一ぐうにおいて、移り変わりゆく眼界と人間の一生とを比べてみたであろう。人生のあらゆる事物は絶えず吾人ごじんの前を過ぎ去ってゆく。影と光とが入れ交じる。
すると、一ぐうから、一羽の烏天狗が起って、ずかと、高時の前に立った。と思うと
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
開けろ。開けねば蹴破るぞ。この荘院内やしきうちに、こよい少華山の賊どもが会合しておると、訴人そにんあって明白なのだ。四りんぐうのがれんとて、遁るる道はない。賊を渡すか、踏み込もうか。いかにいかに
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——廊下の一ぐうで、唐金からかねの水盤らしいものにさわった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと、一ぐうの席も空けてくれた。そのうえ皆して
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)