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閾
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しきい
ふりがな文庫
“
閾
(
しきい
)” の例文
閾
(
しきい
)
のきしむ雨戸をこじ明けて、
水口
(
みずくち
)
から踏み込むと、半七は先ず第一の
獲物
(
えもの
)
を発見した。それは野暮な赤い櫛で、土間に落ちていた。
半七捕物帳:60 青山の仇討
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
閾
(
しきい
)
のところに立って、
凍
(
こご
)
えたような眼でキャラコさんをにらみつけていたが、そのうちに、鶏の鳴くようなけたたましい声で叫んだ。
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
その時呼び笛の声が高く響き、もう一人の男が闇から現われて、その
閾
(
しきい
)
に足をかけた。裕佐は
縄
(
なわ
)
を持っているその手くびをつかんだ。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
自分が建業を発するとき、呉王は親しくこの身に宝剣
印綬
(
いんじゅ
)
を授けたまい、
閾
(
しきい
)
の内は王これを
司
(
つかさど
)
らん、閾の外の事は将軍これを制せよ。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
間もなく、門倉平馬、これも、思いもよらない
椿事
(
ちんじ
)
が、いつか耳にはいったものと見えて、顔色が変っているのが、
閾
(
しきい
)
外に手を突いて
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
▼ もっと見る
頭上に開いていた北窓には、窓の
閾
(
しきい
)
まで日光を遮断する、樺色の日覆が来る日も来る日も拡げた蝙蝠の片羽のかたちで垂れさがっていた。
窓
(新字新仮名)
/
鷹野つぎ
(著)
彼女は
丁度
(
ちょうど
)
奥の窓から
額際
(
ひたいぎわ
)
に落ちるキラキラした朝の
日光
(
ひかげ
)
を
眩
(
まぶ
)
しさうに眼を
顰
(
しか
)
めながら、
閾
(
しきい
)
のうへに
爪立
(
つまだ
)
つやうにして黒い
外套
(
がいとう
)
を脱いだ。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
芸術家にとっては夢と
現
(
うつつ
)
との
閾
(
しきい
)
はないと言っていい。彼は現実を見ながら眠っている事がある。夢を見ながら目を見開いている事がある。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
笹村は自分のことにかまけて、しばらくM先生の
閾
(
しきい
)
もまたがずにいた。先生と笹村との間には、時々隔りの出来ることがあった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
後ろの窓際まで行ってその
閾
(
しきい
)
の上にそれを載せたが、また私の側に帰って来て、「この前の幕は何でしたか」と
馴々
(
なれなれ
)
しく
訊
(
き
)
いた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
閾
(
しきい
)
で仕切られているだけで、かつて
襖
(
ふすま
)
の立てられたことのない自分の居間で、短い
敷蒲団
(
しきぶとん
)
に足を縮めて横になって目を閉じた。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
スタールツェフはやって来たが、それ以来というもの彼は
繁々
(
しげしげ
)
と、すこぶる繁々とトゥールキン家の
閾
(
しきい
)
をまたぐようになった。
イオーヌィチ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
それより外に道をえらぶべくもない彼女は、まだみんなが
寝
(
やす
)
んでいるあいだ、正月の飾りにまもられた恩愛の家の
閾
(
しきい
)
に別れた。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
もとより酒は嫌いなほうではなかったが、そんなに酔ったのは初めてである、——なにしろ玄関へあがると、杉戸の
閾
(
しきい
)
の上へ倒れてしまった。
松林蝙也
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
ちょうど、わたしが教会の
閾
(
しきい
)
をまたごうとする時でした。突然に一つの手がわたしの手を握ったのです。それは女の手です。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
夫人が戸を開けたとたんに、さっと吹きこんだ風でランプは消え、しぶきが横っ倒しに来ると、熱した
火屋
(
ほや
)
が破裂してその破片が
閾
(
しきい
)
に散った。
犬舎
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
ソウタシンダ スグ カエレアンという、
安斎
(
あんざい
)
の旦那からの電報でびっくりして駈けつけると、
閾
(
しきい
)
をまたぐや否やいきなり旦那に言い渡された。
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
そのうちに大勢駈け付けて来て、やっとのことで押さえつけて家へ引っ張って行ったんですが、家の
閾
(
しきい
)
を跨ぐまでは可なり元気に歩きましたね。
紀伊国狐憑漆掻語
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そして、一度家の
閾
(
しきい
)
を外にしたならば、
何時
(
いつ
)
なんどき相果てるかも知れないという——それが彼らの常識であり、心構えであらねばならぬのだ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
仏像は背延びをするようにしてのろりのろりと歩きだしたが、十足ばかり往ったところで
閾
(
しきい
)
に
礙
(
ささ
)
えられたようにひっくり返って大きな音をさした。
太虚司法伝
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
私は直ちに勇気を出して、
閾
(
しきい
)
を跨ぎ、その男が桛杖に
凭
(
もた
)
れながら一人の客と話している処へ、まっすぐに歩いて行った。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
胡弓弾きはいきなり胡弓を鳴らしながら
賑
(
にぎ
)
やかに
閾
(
しきい
)
をまたいではいってゆかねばならないのだが、木之助は知らずに
最後の胡弓弾き
(新字新仮名)
/
新美南吉
(著)
「南無三!」と、お菊は雨戸を閉じガッチリ
閾
(
しきい
)
をおろして置いて、今度は窃と足音を忍ばせ、丸窓の
側
(
そば
)
へ寄って行く。
赤格子九郎右衛門の娘
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
かねてそれを合図と示し合せてあったから、やがて一日分の握飯と一升の乾飯をたずさえ、簑笠や毛布をまとって、彼等はそれぞれ家の
閾
(
しきい
)
を離れた。
渡良瀬川
(新字新仮名)
/
大鹿卓
(著)
が、そうはいっても、やがてわが家のまえに立ったとき、今更のようにかれは
閾
(
しきい
)
の高いのを感じた。なぜなら降るからそうしたに違いない片戸ざし。
春泥
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
と首を仰向いて、
閾
(
しきい
)
うちにいるわたくしの顔を射し込む早春の陽ざしと共に額越しに眩しそうに眺めながら言います。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
伸太郎 ちょいと高い
閾
(
しきい
)
だったが、娘のお蔭で越えさせられてしまった。俺もこれでやっぱり
親爺
(
おやじ
)
の端っくれかな。
女の一生
(新字新仮名)
/
森本薫
(著)
一瞬間、
閾
(
しきい
)
の上に立ち止まって、ひとわたり一同を見回すと、彼はそれがこの席の主人だと見てとって、いきなり長老のほうへつかつかと歩み寄った。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
で、彼が家へ歸つてくると、玄關の戸がもう
閉
(
しま
)
つてゐた。信吾は何がなしにわが家ながら
閾
(
しきい
)
が高い樣な氣がして、成るべく音を立てぬ樣にして入つた。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
今お宅へ参じたのじゃが、お
留守
(
るす
)
じゃけれ、大方ここじゃろうてて
捜
(
さが
)
し当ててお出でたのじゃがなもしと、
閾
(
しきい
)
の所へ
膝
(
ひざ
)
を
突
(
つ
)
いて山嵐の返事を待ってる。
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
或日五百は使を
遣
(
や
)
って貞白を招いた。貞白はおそるおそる日野屋の
閾
(
しきい
)
を
跨
(
また
)
いだ。兄の非行を
幇
(
たす
)
けているので、妹に
譴
(
せ
)
められはせぬかと
懼
(
おそ
)
れたのである。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
何とか口実を設けて
閾
(
しきい
)
の外から立ち去らせる所で有ったけれど、悲しや余よりも秀子が先に入って、此の様を見たのだから今更如何ともする事が出来ぬ。
幽霊塔
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
だが死んだ親父の
位牌
(
いへい
)
に対しても済まねえから、
家
(
うち
)
の
閾
(
しきい
)
を
跨
(
また
)
がせることは出来ねえ義理だから、裏の
明店
(
あきだな
)
へ入れて置き、
食物
(
くいもの
)
だけは
日々
(
にち/\
)
送ってくれべい
塩原多助一代記
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
晩になると、いつもいくらかの金をどうにか手に入れて、この小人は
芝居
(
しばい
)
に行く。ところがその
蠱惑的
(
こわくてき
)
な
閾
(
しきい
)
を一度またぐと、彼らの様子は変わってしまう。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そこの
欞子窓
(
れんじまど
)
の
閾
(
しきい
)
に腰をかけてついこの春の初めまでいた赤城坂の家の
屋根瓦
(
やねがわら
)
をあれかこれかと遠目に探したり、日本橋の方の人家を眺めわたしたりして
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
あての死んだお
父
(
と
)
はんが、よう、いやはってた——男は、いったん、家の
閾
(
しきい
)
をまたいで出たら、七人の敵が居る、と思え。帰って来ると思うな。……って。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
実はかうなんだ、あまり
閾
(
しきい
)
が高えもんだから、それでつい躓いたのよ。ぢやア真平御免なさいやしかハハハハ
磯馴松
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
ドリスがいかに巧みに機嫌を取ってくれても、歓楽の天地の
閾
(
しきい
)
の外に立って、中に這入る事の出来ない
恨
(
うらみ
)
を
霽
(
は
)
らすには足らない。詰まらない友達が羨ましい。
世界漫遊
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ユリウス・ダビット
(著)
役者がちょいと片足上げたら、其処に内外を分つべき
閾
(
しきい
)
があるのだと云われても、これ
亦
(
また
)
想像に難くはない。
上海游記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
Yはその後も度々故郷へ行ったり上京したりしたが、傷持つ足の
自
(
おの
)
ずと
閾
(
しきい
)
が高くなって、いつも手紙をよこすだけでそれぎり私の家へは寄り附かなくなった。
三十年前の島田沼南
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
男というものは、
閾
(
しきい
)
を
跨
(
また
)
げば七人の敵があるものだという話だが、この人の敵は、七人や八人ではあるまい。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
朧
(
おぼ
)
ろな望みに耽っていたもの——それがいまや、吹きしく嵐と化したのであったが、二人はそこの
閾
(
しきい
)
まで来たとき、ハッと打ち据えられたように顎を
竦
(
すく
)
めた。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
お行儀がよくなったせいではなく、息が切れて、しばらくは後が続かなかったせいでしょう。どもりが
疳癪
(
かんしゃく
)
を起したように、一生懸命
閾
(
しきい
)
を引っ
叩
(
ぱた
)
いております。
銭形平次捕物控:067 欄干の死骸
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
到
(
いた
)
るところに
隙間
(
すきま
)
が出来、建具も畳も散乱した家は、柱と
閾
(
しきい
)
ばかりがはっきりと現れ、しばし奇異な沈黙をつづけていた。これがこの家の最後の姿らしかった。
夏の花
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
彼女は玄関まで送り出てきて、
閾
(
しきい
)
に両手をついたまま彼が門を出てしまうまで、彼の後ろを見送っていた。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
はてはずらりと次の座敷の
閾
(
しきい
)
の外に整坐して、感激に満ちた面持ちで
此
(
この
)
光景に見とれていたのであった。
朝香宮殿下に侍して南アルプスの旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
台下の農家、取着きのに先ず入ったが、夜に入っては旅の人に取合わぬ此土地の
淀
(
おきて
)
と云い張って、
閾
(
しきい
)
から内へは入れなかった。事情を訴えても聴くので無かった。
死剣と生縄
(新字新仮名)
/
江見水蔭
(著)
それですからハヤブサワケの王は御返事申しませんでした。ここに天皇は直接にメトリの王のおいでになる處に行かれて、その戸口の
閾
(
しきい
)
の上においでになりました。
古事記:03 現代語訳 古事記
(旧字新仮名)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
彼は
閾
(
しきい
)
のところでしばらく立ち止まって考えていましたが、やがて膝を折って、お豊の枕元の方へ近よりました。さすがの留吉も、じっとその方を見つめておりました。
白痴の知恵
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
ただし趙家の
閾
(
しきい
)
だけは
跨
(
また
)
ぐことが出来ない——何しろ様子がすこぶる変なので、どこでもきっと男が出て来て、
蒼蝿
(
うるさ
)
そうな
顔付
(
かおつき
)
を見せ、まるで
乞食
(
こじき
)
を
追払
(
おっぱら
)
うような体裁で
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
閾
漢検1級
部首:⾨
16画
“閾”を含む語句
閾際
閾越
閾口
識閾
戸閾
窓閾
門閾
閾上
閾内
閾外