閉口へいこう)” の例文
『さようか。いや御念入ごねんいりは結構。此方このほうも、歳のせいか、近来はとかく耳が遠い。それにな、物忘れや勘違いが多うて、閉口へいこうでござるよ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の心事について素振そぶりに対して一点の疑いをはさむこともなく、かえって閉口へいこう頓首とんしゅしてその日の中に送り出すようにしてくれたというのは
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
見て實に閉口へいこう屈伏くつぷくしたりと思はるゝならんが此伊賀亮がおもふには今日大岡が恐れ入りしはいつはりにて多分病氣を申立引籠るべし其内に紀州表を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親が、子供のいう事を聞かぬ時は、二十四孝にじゅうしこうを引き出して子供をいましめると、子供は閉口へいこうするというような風であります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うむ‥‥」と、河野かうのうなづいた。「しかし、演習地えんしふちあめ閉口へいこうするな‥‥」と、かれはまたつかれたやうなこゑつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
けれども、私は、そんなことに閉口へいこうしてはいられない場合ですから、ただ、もう百観音の運命が気掛かりでたまらないのですから、こう主人に話し掛けました。
「そうですかね……それにあの学生さんたちが無遠慮ぶえんりょに僕のからだをいじりまわすので閉口へいこうしました」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
踏み返した男、とうとう閉口へいこうしてあやまりし由。その老婦人は矢島楫子やじまかぢこ女史か何かの子分ならん。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いちいちの口上こうじょうにマチアは目をまるくした。でもかれはいっこう閉口へいこうしたふうを見せなかった。
かくの如き僞善的態度を自分は憎むのだ。若し已むを得ない方便として假面を冠る必要があるなら、もう少し上手に冠つて貰ひたい。直ぐに奧の見えすく山師の玄關は閉口へいこうである。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
わたくしこれにはすこぶ閉口へいこうしたが、どつこひてよ、と踏止ふみとゞまつて命掛いのちがけに揉合もみあこと半時はんときばかり、やうやくこと片膝かたひざかしてやつたので、この評判へうばんたちま船中せんちゆうひろまつて、感服かんぷくする老人らうじんもある
今度は五右衛門も、まったく閉口へいこうしてしまいました。夜になると、痛みと寒さとで今にも死ぬような思いをしながら、橋の上まではい出してきまして、ポンポンポンと手を三度たたきました。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そら、お談議になったと、静枝がかしこまって、閉口へいこうしかけているところへ
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かけまわっているうちに体はぽかぽかあたたまってきたが、すっかり風邪かぜをひいたらしく、しきりにくしゃみがでるのには閉口へいこうしたよ。落ちついてみると、ぼくの下宿げしゅくのあるまちにきてたんだ
私にはそれがうそのような気がしてならないのである。信じたいとあがいても、私の感覚が承知しないのである。実際、あのドラマチックな転機には閉口へいこうするのである。鳥肌立つ思いなのである。
苦悩の年鑑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
閉口へいこう閉口。」と元から細い眼尻を一倍細くして、赤い顔をした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ところやつ突然とつぜんぼくうちにやつてやがつて、『どうも五個月間かげつかん葉書攻はがきぜめには閉口へいこうしました。あなたの根氣こんきには實際じつさいおどろきました』なんてやがつて、三十ゑんかねいてつたが、ぼくじつうれししかつたよ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
まるで大きな荷物をしょいこんだ形でほとほと閉口へいこうしてしまった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
爺やは頭をいて閉口へいこうするばかりだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しゃべりまくるんだ。閉口へいこうしたよ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
矢野は人一倍閉口へいこうしたのである。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
弁慶べんけい閉口へいこうして
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
聞今さら何ともちんずべき樣なく赤面せきめん閉口へいこうなし甚だ恐れ入候旨答へければ大岡殿には彌々いよ/\以て申わけなきやと申さるゝに三人口を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はたして、兼好は、「そいつは閉口へいこうですな。色恋のとりもちなどは、法師の不得手。ましてただびとの後家ではなし」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うん、それもさうだが、なにしろおれはもうねむくて閉口へいこうだ。此處ここらでゴロリとやつちまひたいな‥‥」
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
ところが異人たちは、それには閉口へいこうせず、遠まきにして目を光らかせ、すきをみては、とびこんで来た。岩石をなげつけられても、けがをして血を出すようでもなかった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
南無三なむさん。」とわたくし逡巡しりごみした。おほく白晢はくせき人種じんしゆあひだ人種じんしゆちがつた吾等われら不運ふうんにも彼等かれらとまつたのである。わたくし元來ぐわんらい無風流ぶふうりうきはまるをとこなのでこの不意打ふいうちにはほと/\閉口へいこうせざるをない。
閉口へいこうしたですが荷物をそのままほうっては自分の命のかてがなくなるから一生懸命いっしょうけんめい力を籠めて両方の手で荷物を上に引き挙げた。まあこれでいいと思ってどっかり坐ってホッと一息きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
決してそんなつもりじやないのだから閉口へいこうした。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
取てたのまれしとて罪の處は同じ事だぞと申さるゝに多兵衞は彌々いよ/\閉口へいこうなし實に恐れ入ました金子をべつに取てたのまれたと申ではなく少々せう/\ばかりの酒代さかだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「毎晩、足の土踏まずが、かさかさして閉口へいこうでござる。われら、今は何の慾もない。裸足はだしで土がふみとうござる」
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おかしいぞ、へんなことをいいだしたな。どうもこっちへきてから人造人間をつかいすぎたせいか、ときどき故障がおこるのには閉口へいこうじゃ。どれ、ちょっとしらべてやろう」
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
下僕はへいへいと実にひるに塩を掛けたように縮こまって閉口へいこうしてしまった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
牛丸少年は、たいくつに閉口へいこうしながら、一つの願いを持つようになった。それはいつか頭目の前へいっしょに呼びだされた戸倉老人と、話しあうようになりたいという望みであった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聞きほじると、生意気にいさめだてして、それにゃ、浄海入道も閉口へいこうだからな
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まっぴら閉口へいこうして、もうもういたしません。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
又右衛門も、閉口へいこうしている。こちらでは問題としなくても、先は熱心をまさないのである。物を届けて来る。些細ささいな用でもすぐ来る。無くてもやって来る。来れば話しこむ。——その末には
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もういい加減、閉口へいこうしたろうねえ”
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)