びょう)” の例文
ただ一つお目にかけて置きたいのは、このびょうの頭です(と、前夜卓子テーブルの脚のところから拾いあげた針のとれている鋲の頭を示しながら)
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新館の上層たる望楼は、屋根裏の一種の大広間で、三重の鉄格子てつごうしがはめてあり、大びょうをうちつけた二重鉄板のとびらでしめ切ってあった。
いかにも博士の言うとおり、それは何百何千という金の板を、金のびょうでつなぎあわせて、どくろのかたちに、つくったものでした。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
模様入りの人造革を張り詰めた室内の壁には、白樺材を真似た塗料がせてあった。びょうが、掃除婦の忠実を説明して、光っていた。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そのいしずえ花崗岩みかげいしと、その扉の下半分とが、ぼうと薄赤く描き出されていた。どうした加減か一つのびょうが、鋭くキラキラと輝いていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殊に紅唐紙べにとうしれんった、ほこり臭い白壁しらかべの上に、束髪そくはつった芸者の写真が、ちゃんとびょうで止めてあるのは、滑稽でもあれば悲惨でもあった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ガラガラとウィンチ(捲揚機まきあげき)の廻転する音、ガンガンと鉄骨を叩く轟音ごうおん、タタタタタとリベット(びょう)を打ち込むひびき、それに負けないように
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
鍔と鍔はびょうを打ったようにガッキリ食い合って、互いの顔と顔の間で、十字にからんだ剣尖のみが、ただかすかな光のふるえを刻んでいるばかり——
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栗毛くりげこまたくましきを、かしらも胸もかわつつみて飾れるびょうの数はふるい落せし秋の夜の星宿せいしゅくを一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼をえる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、こうして語るその情景を、眼に、思いうかべてもらいたい。霧立ちめた夜、波たかく騒ぐ海、駆逐艦からは爆雷が投ぜられて、艇中のびょうがふるえる。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
軍靴のびょうが階段に触れる音が、けだるい四肢しし節々ふしぶしかすかに響いて来る、跫音はそのまま遠ざかるらしかった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
長さは三フィート半、幅は三フィート、深さは二フィート半あった。鍛鉄たんてつたがでしっかりと締め、びょうを打ってあって、全体に一種の格子こうし細工をなしている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
みかん箱に新聞紙を張りつけて、風呂敷をびょうでとめたの。箱の中にはインクもユーゴー様も土鍋も魚も同居。あいなめ一尾買う。米一升買う。風呂にもはいる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
箱の外壁をグルリとで廻すと、所々に打ったいかめしいびょうの一つが、どうやら心持動くではありませんか。
そのかくしベルは人間が楽にはいられるくらいの大きさで、鉄の締金しめがねびょうとで厳重に釘付けにされていた。
てのひらをかえすように前後左右に傾いて行き、丸いびょうのとび出した鉄の柱や板が、一まい一まい、ねじ切られるような、きしみ音をたてるので、眠れなかった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それはちょうど鶴のような恰好をした自働器械オートマトンである。そのくちばしが長いやっとこばさみのようになって、その槓杆こうかんの支点に当るねじびょうがちょうど眼玉のようになっている。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうなるまでは、作品は母体に結びつけられてる赤児あかごであり、生きた肉体にびょう付けされてる生けるものである。生きんがためには、それを切断しなければいけない。
甲冑の材料である鉄板の堅い感じ、その鉄板をつぎ合わせているびょうの、いかにもかっちりとして並んでいる感じ、そういう感じまでがかなりはっきりと出ているのである。
人物埴輪の眼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
大太鼓おおだいこを作る店なども真に見ものであります。革の厚み、胴の張り、びょうのふくらみ、健康な姿を思わせます。日蓮宗の信徒が手にする団扇太鼓うちわだいこも東京出来のをよいとします。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかもどういう造り方がしてあるのか、くぎびょうという物が一切これには使ってなかった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
黒革くろかわ張りに真鍮しんちゅうびょうを乱れ打ちに打った、津賀閑山が騒ぎまわっている、あの鎧櫃だ!
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さてさて困ったと困り抜いていると、それもなんでもない事だと小さい太鼓のかわをはがして、その中へたくさんのはちを入れ、びょうを打ちなおしてむりな殿さまのところへ持参させた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのくせ、彼女のからだはそこへびょうでねじつけられでもしたように、動かなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
(カルタ卓の上に図面をひろげて、びょうでとめる)あなたのお生れは、どちらです?
ハイネが静夜の星を仰いで蒼空における金のびょうといったが、天文学者はこれを詩人の囈語げいごとして一笑に附するのであろうが、星の真相はかえってこの一句の中に現われているかも知れない。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
びょうの打ってない靴の底はずるずる赤土の上を滑りはじめた。二間余りの間である。しかしその二間余りが尽きてしまった所は高い石崖の鼻であった。その下がテニスコートの平地になっている。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「御通知によって、昨朝飛翔したアブロ練習機を精査してみると、車輪軸に打たれているびょうが一個はずれている事を発見した。紛失は昨日の練習飛行の際行われたものである事は明らかである」
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
びょうがゆるみでもするように、ギイギイと船の何処かが、しきりなしにきしんだ。宗谷海峡に入った時は、三千トンに近いこの船が、しゃっくりにでも取りつかれたように、ギク、シャクし出した。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
はたせるかな、そこには長さ一アルシン(約七十センチメートル)以上もあって、そりぶたがつき、キッドの赤革を張って、鋼鉄のびょうを一面に打ってある、かなり立派なトランクが置いてあった。
その内側に巨万の富をしまい込んでいるらしい……黒い……重たい……マン丸く光る黄金色のびょうを縦横に打ち並べた……ただその扉が普通と違うところは、その把手ハンドルが少し低目に取付けてある事と
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つけられた方は、呆れるより、いきなりなぐるべき蹴倒し方だったが、かたわらに、ほんのりしている丸髷まげゆえか、主人の錆びたびょうのような眼色めつき恐怖おそれをなしたか、気の毒な学生は、端銭はした衣兜かくし捻込ねじこんだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
キキキキ……、鋼が悲鳴をあげて、びょうがゆるんだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
昨夜来の寒波かんぱのためにすっかり冷え切っていて、早登庁はやとうちょうの課員の靴の裏にうってつけてあるびょうが床にぴったりこおりついてしまって
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちょっと、ここへ来てごらん。又靴のあとだよ。でも、今度は保君のじゃない。大人の靴だよ。びょうの打ってない上等の靴だよ」
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このヴァンデアン党(訳者注 王党の一派にしてストフレーはその将軍)の紙幣は、この前の庭番が壁にびょうで留めたものだった。
それに唐草アラベスクの模様があって、まわりに真鍮のびょうが光っていた。ゴセック式の大きな釦金クラスプがそのまま製本の役をつとめていた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
大門のびょうが光っていてその下に膝を抱いてうずくまって、顔を膝頭におしあてて眠りにはいっている、嘉門の全身も明るすぎるほどに明るんで見えた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして彼女はその日の午後に、ちょうど駕をもって迎えに来た姉の通子の方と同道して、びょう乗物に姿を隠し、打ち沈んだまま江戸城の大奥深くへ入ったのである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玉を並べた様なびょうの一つを半ばつぶして、ゴーゴン・メジューサに似た夜叉の耳のあたりをまとう蛇の頭を叩いて、横に延板の平な地へかすかな細長いくぼみが出来ている。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
深さ一メートルの四角なコンクリートの柱の頂上のまん中に径一寸ぐらいの金属のびょうを埋め込んで
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして歩廊を踏む靴びょうの音が遠ざかって行った。僕はそのまま再び深い眠りに落ちた。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
障子にぴっちりつけて机があった。その机の上には障子に風呂敷がびょうで止めてあった。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
月はなかったが、何といううつくしい星空だろう! 碧黒あおぐろい壁一めんに、銀のびょうを打ったような星がちかちかとかずかぎりもなくまたたいていて、手をのばしただけで、つかみ取れそうに近かった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
するとほとんをおかずに、そこから鉄にびょうを打ち込むリベット・ハンマー(鋲打びょううちつち)の音がタタタタタと聞えはじめた。一男には気のせいかその音が、ほかの音より元気がないような気がした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
敷物の向う端をびょうで止め、人形の着衣から護符刀タリズマンを抜いておく——そしていよいよ博士が背後を見せると、敷物カーペットの端をもたげて、縦にした部分を足台で押して速力を加えたので、敷物カーペットにはしわが作られ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
松山の坐っていた場所については特に注意を払い、布をひっぱったり、びょうをはずしたり、刷毛はけほこりをあつめて紙包をいくつも作ったりした。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大事件というのは壁の門の開くことであって、そのびょうのいっぱいついた恐ろしい鉄のとびらは大司教の前にしか決して開かれなかったのである。
燈明の火が明るく輝き、紫の幕が、華やかにえ、その奥から、真鍮しんちゅうびょうを持ったほこらの、とぼそが覗いていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いいえ、あの人はハンブルグの荷上にあげ人夫ではないのです。コロンの郊外に生産工場を持っていて、半世紀来欧羅巴ヨーロッパじゅうの客車と貨物列車へ打ってきたびょうの供給者なのです。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)