かぎ)” の例文
捕虜をとらえていた悪漢はその手を離した。またたく間に、繩梯子なわばしごは窓の外におろされ、二つの鉄のかぎでしっかと窓縁に止められた。
多くの小船は、たちまちそこに集まってかぎをおろし、エイヤエイヤの声をあわせて、だんだんと浅瀬あさせのほうへひきずってくるようすだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石附のところにはかぎのついた分銅が入っていて、振るとブーンとうなりを立てて、長い綱が飛び出してくる仕掛けになっていた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
向うのアカシヤの植えこみに包まれたかぎ型の第三、第四校舎の間で、焚火が見えた。若芽が伸びたアカシヤの葉末は、焚火に紅く染っていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
チクリと来ると吐出はきだすが又、喰う。そのうちにかぎが舌に引っかかるんだが、引っかかったら最後、決して啼かないから妙だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ひろげた指はき寄せようと、かぎになったり熊手になったりしてあがいている。しかし彼らの願望は上までは届かなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それから狐の読んでいたものをあらためると、それには大勢の女の名を書きならべて、ある者には朱でかぎを引いてあった。
そのとき彼女の眼は小豹こひょうのように輝く、きだした白い歯がかちかちと鳴る、それ以上なにか云えば、彼女は両手の爪をかぎのようにして跳びかかり
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その上、上げ蓋の下には頑丈な掛金がかかっているし、繩梯子を投げた所で、天井にかぎのかかる箇所は全くない。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
石畳を一つ起すと、その中に凹みがあって、したたかな棕梠しゅろ縄、かぎ、柄の短かい鶴嘴つるはしなどが入って居ります。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
平吉はさっきから人待顔にすぐ前に下っていた太いくさりの先のかぎに軽く右足をかけて鎖に全身をたくした。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
黄昏時たそがれどきの七時頃、がらっと障子戸を開けると土間、あがりばたの部屋には囲炉裡があって、自在かぎにかけたお鍋の蓋をとって煮物のお塩梅をしていた、やせたお婆さんが
三浦環のプロフィール (新字新仮名) / 吉本明光(著)
けずつた羊毛は先づ長い小房に分けられる。そして此の房の一つをぐる/\廻つてゐるかぎのそばへ持つて行く。鈎は其の羊毛を掴んで廻りながら其の繊維を一本の糸にる。
「今降りて来る女はやりましたよ」と、ただ之れ丈け云って自分の人指ゆびをかぎにして見せた。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
エーレンフェルトは、小柄で、頭が禿げ、微笑を浮かべ、茶褐ちゃかっ色の頤髯あごひげやし、元気のない繊細な顔つきをし、かぎ鼻であって、流行記事や世間的雑報を雑誌に書いていた。
此方こちらからはお使番つかいばんが馬に乗って駆けて来る。仕事師はまといを振りかぎをかついで威勢く繰出してまいる騒ぎに、二人はまご/\しながら漸く逃出しましたが、き所がありません。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
縁から一インチ半ばかりのところに、穴を二つあけ、これにかぎが二つ引っかけてあります。その鈎を長い綱で馬車にくゝり、こんなふうにして一マイル半以上も引きずって来たのです。
と、突然、後部の巻揚機ウインチががら/\とすさまじい響を出して、その五六本の鋼条ワイヤーの先にるしたかぎづきの滑車が弾薬庫にする/\と滑りこんだ。それを真つ先に見つけたのは掌砲長しやうはうちやうだつた。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
鳥屋の店先であをぶくれの若者が、パタ/\あがいてゐる鷄をつかんで首をおツぺしよるやうに引ンねぢツてゐることや、肉屋の店に皮を剥がれたまゝの豚がかぎに吊されて逆さになツてゐることや
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
蛇また蟾蜍ひきが雄鶏が産んだ卵を伏せかえして生じ、蛇形で翼と脚あり、鶏冠をいただくとも、八足または十二足を具え、かぎごとく曲ったくちばしありとも、また単に白点を頂にせる蛇王だともいう。
釣針つりばりのやうなかぎつめをどこへでもひつかけて、赤や青や黄や紫の自動車や汽船や大砲やタンクや乳母車を、五つも六つも、いつしよにひいて、ゾロッ・ゾロッと、お縁をはつて行きます。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
もう子ねずみさえもかからなくなってしまった捕鼠器ねずみとりは、ふたの落ちたまま台所の戸棚とだなの上にほうり上げられて、かぎにつるした薩摩揚さつまあげは干からびたせんべいのようにそりかえっていた。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
円いかぎをもち、髪をわけ下駄げたをはいた魚屋の主人や、けらを着た村の人たちが、みんなこっちを見ているのに気がついて、すっかりあわてて急いで手をふりながら、小声で言い直しました。
山男の四月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かぎのような鼻が盛り上っているし、牛のようにも太い頸筋には静脈が紐のようにうねっている、半白ではあったがたっぷりとある髪を、太々しく髷に取り上げている、年の格好は六十前後であったが
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄金こがねかぎ龍王りうわう
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ピューッと舟から空に走ったのは、かぎのついた一本のなわ。ガリッというと手にもどって、上からザラザラと岩のかけらが落ちてくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
警護の兵士のひとりは、先にかぎのついた棒を持っていて、時々その人間の塵芥溜ごみためをかき回そうとするような顔つきをした。
重い物体をひっかける化物ばけもののようにでっかいかぎが、太い鋼線ロープってあり、また橋梁の一隅いちぐうには、鉄板てっぱんで囲った小屋がっていて、その中には
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにしても他のひとりの媳はどうしたかと見まわすと、はりの上に一羽の大きい怪鳥けちょうが止まっていた。鳥は灰黒色のはねを持っていて、口喙くちばしかぎのように曲がっていた。
わけのわからぬ事をわめくと、お小夜の手はかぎの如く曲つて、十本の指は、喉から胸へと、滅茶々々に掻きむしりながら、はぢも外聞もなく、その邊をのた打ち廻るのです。
真赤に染まったハンカチの上に、何かしら細長いものが、かぎなりに曲って横わっていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
松のこずえで小鳥が鳴き騒いだ。顔を掩った両手の指が(苦悶くもんのため)かぎのように曲り、やがて嗚咽おえつの声がもれた。それはぞっとするほど絶望的で、圧しひしがれるような響きをもっていた。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
魚というものは普通えさかぎもない糸を食うものではないということは、彼もよく知っていたけれど、しかし一度くらいは、自分のために、魚が例外なことをするかもしれないと思っていた。
あらわに痩せたすねが膝の上まで捲くれ上がり衣裳の裾から洩れて見えたが、その脛が一本塀の上から、塀の面へのばされて、拇指おやゆびの先がかぎのように曲がって、塀の面の一所へいぼのように吸い付いた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
anchor はラチンの anchara でまたギリシアのアンキユラで「曲がったかぎ」であり、従ってまた英の angle とも関係しているらしい。ペルシアでは lāngar である。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、かれの貪慾どんよく相好そうごうがニヤニヤみくずれてきた。——湖水の中心では、いましもかぎにかかった獲物えものがあったらしい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電灯をその方へさしつけてみたが、天井のあることと、そのまん中あたりに、よろいでもぶら下げるためにつけてあるのか、大きなかぎが一つ見える。その他ははっきり見えない。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時マリユスは、今まで何かわからなかったその繩みたいなものは、実は木の桟と引っかけるための二つのかぎとがついてるきわめて巧みにできた繩梯子なわばしごだということがわかった。
溜池の底に鳶口とびくちと手網と、かぎと、あらゆる道具を入れて掻き廻しました。
というのは、その廊下の斜向うに、かぎの手になった建物の大きな白壁が、夜目にも薄白く、目を圧するように浮上っているのだが、その白壁の表面にボーッと白くりんのような光がさしていたのである。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてついに衆のいきどおりをこめた声が「わあッ」となって、かい水棹さお、水揚げかぎ、思い思いな得物えものを押っとり、李逵へむかってかかって来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで宿命の暗澹あんたんたる暴虐からいかにむごたらしく引きずられ縛り上げられているか、その深淵しんえんの中でいい知れぬかぎにいかにしかと結び止められているか、それを見ては心おびえるほどである。
平次は棒秤のかぎの先に分銅を縛り付けて、力任せに振つて見せました。
絨毯の上にどっしりした台を置き、そこから上に向って人の背丈よりもやや高く架台があって、その架台の先が提灯をかけるように曲って横に出ているが、そのかぎに鳥籠が下げられているのだった。
地獄の使者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みると周馬の左の手が、いつのまにか、部屋の角柱すみばしらに伸びていて、そこにあるかぎのようなものへ指をかけている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自在かぎにつるしてある鉄の鍋は火に煮立っていた。
この車にはまた、起重機のようなかぎがついている。台上の歯車を兵が三人掛りで廻すと、綱によって、地上の何でも雲梯の上に運び得る仕掛になっていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
智慧ののような金具を出して五ツのかぎに解き放し、それを長押なげしへ一つずつ懸けて、笠、衣類、合財袋、煙草入れ、旅の身上しんしょうをのこらずこれに吊ってみせる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、そのかぎの爪がガッキとどこかへ食いついた途端に、天神岸から軽舸けいかを飛ばしてついてきた原士はらしたち、縄をじてポンポンといなごのようにおどり込んできた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十合とも太刀打ちせずに潘璋は逃げはしった。追いまくって密林の小道へ迫りかけた時、四方の巨木から乱離らんりとしてかぎのついた投縄なげなわ分銅ふんどうが降った。関羽の駒はまた何物かに脚をからまれていなないた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)