透綾すきや)” の例文
今日自家の祭酒に酔うた仁左衛門さんが、明日は隣字の芝居で、透綾すきやの羽織でも引被ひっかけ、寸志の紙包かみづつみを懐中して、芝居へ出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
透綾すきやの着物が肌まで濡れ徹った。水を吸い込んだ草履が重くふやけ、ビシャッ、ビシャッと、伸子の足の下で泥を跳ね上げた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
煙草をのみながら、透綾すきやのように透き通る笠の、前半面から、悠然として、目に余るすすき野原をながめているのであります。
萌黄の帷子かたびら。水色の透綾すきや。境内は雜然としてかんてらの燈火あかり四邊あたり一面の光景ありさまを花やかに、闇の地に浮模樣を染め出した。
二十三夜 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
餘り結構な身なりではないが、義雄の餘り構はない棒じま透綾すきやの羽織りの袖口に汗じみがあるなどには、却つて釣り合ひが取れてゐると思へた。
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
しま単衣ひとえに古びた透綾すきやの夏羽織を着て、なかばはげた頭には帽子もかむらず、小使部屋からこっそりはいってきて、「清三はいましたか」と聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ところへ花道から俳人高浜虚子たかはまきょしがステッキを持って、白い灯心とうしん入りの帽子をかぶって、透綾すきやの羽織に、薩摩飛白さつまがすり尻端折しりっぱしょりの半靴と云うこしらえで出てくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
磨いた顔をいやにてかてかと光らせて、眉毛を細く剃りつけ、見るから芸人を看板にかけているような気障きざ人体じんていであったが、工面くめんが悪くないので透綾すきや帷子かたびらに博多の帯
廿九日の牡丹餅 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ねへ美登利さん今度一処に写真を取らないか、れは祭りの時の姿なりで、お前は透綾すきやのあらじまで意気ななりをして、水道尻すいだうじりの加藤でうつさう、龍華寺の奴が浦山しがるやうに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
でも、お師匠しょさん、すこし根下りの大丸髷おおまるまげに、水色鹿の手柄で、鼈甲べっこうくしが眼に残っていますって——黒っぽい透綾すきやの着物に、腹合せの帯、襟裏えりうら水浅黄みずあさぎでしたってね。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それで高帽子たかじゃっぽで、羽織がというと、しま透綾すきやを黒に染返したのに、五三の何か縫着紋ぬいつけもんで、少し丈不足たけたらずというのを着て、お召が、阿波縮あわちぢみで、浅葱あさぎ唐縮緬とうちりめん兵児帯へこおびめてたわ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薩摩の蚊飛白がすり、紺献上の五分づまりの帯、透綾すきやの羽織、扇子と煙草入れを腰へ差し、白木しらきののめりの下駄を履き、白鞣しろなめしの鼻緒に、十三本柾が通っている。桐は越後ではなく会津でございます。
噺家の着物 (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
それがしやくに触ると言つて、お客は桃太郎の頭から熱爛あつかんの酒をぶつ掛けた。酒は肩から膝一面に流れた。あか長襦袢ながじゆばんの色は透綾すきやの表にまでとほつて来たが、桃太郎は眉毛一つ動かさうとしなかつた。
白い透綾すきやの霧が降つて居ます。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
媒妁夫妻は心嬉しく、主人は綿絽めんろの紋付羽織に木綿茶縞の袴、妻は紋服もんぷくは御所持なしで透綾すきやの縞の単衣にあらためて、しずかに新郎新婦の到着を待った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白縮緬しろちりめんえりのかかった襦袢じゅばんの上へ薩摩絣さつまがすりを着て、茶の千筋せんすじはかま透綾すきやの羽織をはおったそのこしらえは、まるで傘屋かさや主人あるじが町内の葬式の供に立った帰りがけで
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
詰襟つめえりの服を着けた、白縞しろじまの袴に透綾すきやの羽織を着たさまざまの教員連が、校庭から門の方へぞろぞろ出て行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
無地むぢかとおもこん透綾すきやに、緋縮緬ひぢりめん長襦袢ながじゆばん小柳繻子こやなぎじゆすおびしめて、つまかたきまでつゝましきにも、姿すがたのなよやかさちまさり、打微笑うちほゝゑみたる口紅くちべにさへ、常夏とこなつはな化身けしんたるかな。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
多少骨っぽくなって、頭髪などもさらりとあらっぽい感じがする。羽二重や、ぬめや、芦手あしで模様や匹田鹿ひったがの手ざわりではなく、ゴリゴリする浜ちりめん、透綾すきや、または浴衣ゆかたの感触となった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ねへ美登利さん今度一處に寫眞を取らないか、我れは祭りの時の姿なりで、お前は透綾すきやのあら縞で意氣ななりをして、水道尻の加藤でうつさう、龍華寺の奴が浦山しがるやうに、本當だぜ彼奴は岐度怒るよ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
薄い透綾すきやせに来る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
べら/\した透綾すきやの羽織を着て、扇子をぱちつかせて、御国はどちらでげす、え? 東京? 夫りや嬉しい、御仲間が出来て……私もこれで江戸っ子ですと云つた。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此辺には滅多に見た事も無い立派な輿だ。白無垢の婦人、白衣の看護婦、黒い洋服の若い医師、急拵きゅうごしらえの紋を透綾すきやの羽織にった親戚の男達、其等が棺の前後に附添うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
透綾すきやの羽織に白地のかすりを着て、安い麦稈むぎわらの帽子をかぶった清三の姿は、キリギリスが鳴いたり鈴虫がいい声をたてたり阜斯ばったが飛び立ったりする土手の草路くさみちを急いで歩いて行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ねへ美登利みどりさん今度こんどしよ寫眞しやしんらないか、れはまつりのとき姿なりで、おまへ透綾すきやのあらじま意氣いきなりをして、水道尻すいだうじり加藤かとうでうつさう、龍華寺りうげじやつ浦山うらやましがるやうに、本當ほんたうだぜ彼奴あいつ屹度きつとおこるよ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
べらべらした透綾すきやの羽織を着て、扇子せんすをぱちつかせて、お国はどちらでげす、え? 東京? そりゃうれしい、お仲間が出来て……わたしもこれで江戸えどっ子ですと云った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のうじゆつこれも藝人げいにんはのがれぬ、よか/\あめ輕業師かるわざし人形にんげうつかひ大神樂だいかぐら住吉すみよしをどりに角兵衞獅子かくべいじゝ、おもひおもひの扮粧いでたちして、縮緬ちりめん透綾すきや伊達だてもあれば、薩摩さつまがすりのあら黒繻子くろじゆす幅狹帶はゞせまおび
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)