蹌踉よろめ)” の例文
権四郎爺は、二間道路の路幅一っぱいに、右斜めに歩いては左斜めに歩き、左斜めに歩いては右斜めに歩き、蹌踉よろめきながら蛇行した。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
すると彼ははずみを喰って蹌踉よろめくとたあいもなく尻もちをつきましたが、その時私のインヴァネスの羽を掴んで破ってしまったのです。
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
余は驚きの余り蹌踉よろめきて倒れんとしわずかに傍らなる柱につかまり我が身体を支え得たり、支え得しまゝしばしが程はほとんど身動きさえも得せず
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
而して幾度か止まり幾度か蹌踉よろめいて、子供等の小さい胸を痛ましめた神輿は、突然何か思ひ付いたやうに細い道を東の方に驅つて行つた。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
手も力もなく蹌踉よろめきながら、はだかった胸を掻き合わせて、露深い草の上に落ちたマキリを探し当てて、懐中ふところさやに納めながら
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
恥辱の念と憤怒の情が、ダイナマイトでも爆發した樣に、身體中の血管を破つて、突然いきなり立上つたが、腹が減つてるのでフラフラと蹌踉よろめく。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そこへ来ると飛行機はもうよろよろと蹌踉よろめきます。しかし、絶壁下にひろがる悪魔の尿溜の湿林は濃稠のうちょうな蒸気に覆われてまったく見通しが利きません。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
案山子かゝしみのは、みつつともぴしよ/\とおとするばかり、——なかにもにくかつたはあとからやつかさたを得意とくい容躰ようだい、もの/\しや左右さいうみまはしながら前途ゆくて蹌踉よろめく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そしてわしも亦、教会の戸口の方に蹌踉よろめいて行つた、死のやうに青ざめて、額にはカルヴァリイ(註。耶蘇の磔殺された地名)の汗よりも血のやうな汗を流しながら。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
くうを撃ったお杉は力余って、思わず一足前へ蹌踉よろめ機会はずみに、おそらく岩角につまずいたのであろう、身をひるがえして穴の底へ真逆さまに転げちた。蝋燭は消えて真の闇となった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と怒鳴ると、陶は蹌踉よろめくように座敷へ上ってきて、畳に両手をついて頭をさげた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
森はひょろひょろと蹌踉よろめきながら後ずさりし、膿盆のうぼんのような海は時々ねたまし気な視線をギラリとなげかける。やがて、けちくさいまだらなあくたと化した地球は、だんだんに遠ざかって行く——。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
私は蹌踉よろめきかかった女をしっかり抱きとめて
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
そして、蹌踉よろめきもせずに再び足で立った。
彼は跛のように蹌踉よろめいた。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
蓬髪ほうはつの男蹌踉よろめ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
恥辱の念と憤怒の情が、ダイナマイトでも爆発した様に、身体中の血管を破つて、突然いきなり立上つたが、腹が減つてるのでフラフラと蹌踉よろめく。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平三はそう言い返して、大手を振りながら祠の軒先まで蹌踉よろめいて行った。そして彼は、そこの礼拝の座に立ち小便を始めた。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
突然蹌踉よろめいて、持っていたその本を、隅にある乾隆硝子けんりゅうガラスの大花瓶に打ち当てて、倒してしまったのでございます。ところが、それからが妙なんですわ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
時々見えたり聞えたりするものを夢うつつのように感じたが、しまいにはその夢うつつさえ感じられなくなるまで恍惚として蹌踉よろめいて行った……ように思う。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蹌踉よろめきて卓子ていぶるたおれ掛り、唯口の中にて「私しでは有りません、私しでは有りません」と呟くのみ。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
下じめの端を両手できりきりとめながら、蹌踉よろめいて二階を下りて来た、蝶吉の血相は変っている。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鷺太郎は、蹌踉よろめくように、人の輪を抜けて、ほっと沖に目をやっていた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そして跣足はだしのまま、蹌踉よろめきながら、咳につぶれた声で呼び立てた。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
長順 (蹌踉よろめきながら立ち上りて、南蛮寺の門扉に至り倚る。)
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
ロンネの蒼ざめた影のような身体が、扉から蹌踉よろめき出たのはそれから間もなくの事で、法水は何んと考えたか、それなり追求を止めて去らしめてしまった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私はヨロヨロと背後うしろ蹌踉よろめいた。モウ一度眼を皿のようにしてその声の聞こえて来る方向を凝視した……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
定めし居たたまらぬ想いをしたに違いない、いま物音をさせたのも余りの事に聞きかねて気絶しかけ、身の中心を失って蹌踉よろめいた為ではあるまいか、何うも其の様な音であった。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
出足へ唐突だしぬけ突屈つッかがまれて、女房の身は、前へしないそうになって蹌踉よろめいた。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その中でも、どうしたものか、車輛しゃりんの放射状になった軸の一つにその男のだけが、ぶら下っていた。源吉は、のぞき込むように見て、思わず「わッ!」と叫ぶと、よろよろっと蹌踉よろめいて仕舞った。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その男は、再びもとの酔いどれ口調に返って、えりを立てながら渡舟わたしのなかに蹌踉よろめき込んだ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何かいおうとするけれど其言葉は口から出ず蹌踉よろめいて椅子に倒れると云う騒ぎです
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
身のすこやかなる夫人は、かえって、かッと上気して眩暈めまいを感じて、扉を閉めながら蹌踉よろめいたが、ばらばら脱ぎ散らした上草履乱れた中に、良人のを見て、取って揃えて直しながら、袖にも襟にも
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ですから、その『予言の薫烟ヴァイスザーゲント・ラウフ』の存在が明瞭になると、自然伸子のうそが成立しなくなるのです。あの女は、蹌踉よろめいた拍子に『聖ウルスラ記』を花瓶に当てて倒したと云いました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
空色のあわせに襟のかかった寝衣ねまきなりで、寝床を脱出ぬけだしたやつれた姿、追かけられて逃げる風で、あわただしく越そうとする敷居に爪先つまさきを取られて、うつむけさまに倒れかかって、横に流れて蹌踉よろめく処を
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あっ、水だ!」と熊城は、思わず頓狂な叫び声を立てたが、跳び退いたはずみに蹌踉よろめいて、片手を左側にある洗手台せんしゅだいで支えねばならなかった。しかし、それで万事が瞭然りょうぜんとなった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
手の手巾ハンケチを愛吉が一心になってつかんだ、拳が凝って指がほぐれず。はッと腰をもたげると、膝がぶつかってたこの脚、ひょろひょろともつれて、ずしん、また腰を抜く。おもみにかれて、お夏も蹌踉よろめく。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、そう云い終ると同時に、突然ジナイーダはかすかな呻声うめきごえを発してクラクラと蹌踉よろめいた。法水は危く横様よこざまに支えたが、額からネットリした汗が筋を引いて、顔面は蝋黄色を呈している。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
老爺ぢいしはぶきひとわざとして、雪枝ゆきえ背中せなかとん突出つきだす。これに押出おしだされたやうに、蹌踉よろめいて、鼓草たんぽゝすみれはなく、くも浮足うきあし、ふらふらとつたまゝで、双六すごろくまへかれ両手りやうていてひざまづいたのであつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
月とよしを描いた衝立ついたての蔭から、よろよろと蹌踉よろめき上り、止めようとする宅悦の襟首えりがみをひっ掴んで、逆体さかていに引き据え、上になったお岩の生際はえぎわから一溜の生血なまち、どろどろと宅悦の顔にかかるのが
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
蹌踉よろめいたように母屋の羽目にもたれた時
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)