あか)” の例文
電燈の球は卓子テイブルの上をったまま、朱をそそいだようにさっあかくなって、ふッと消えたが、白くあかるくなったと思うと、あおい光を放つ!
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ひょっとしてそれがむす子の情事に関する隠語ではあるまいか」こういう考えがちらりと頭にひらめくと、かの女は少しあかくなった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と松さんは大げさにいつて、よひあからんだ顔を向けてそちらを見た。そして「豊助とよすけ。栄坊ちやんの大事な鹿にわるさするぢやないぞォ。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
その「火の玉」少尉は、田毎大尉と旧友戸川中尉との前を辞するときに、一段とかたちをあらため顔面を朱盆しゅぼんのごとにあかくして
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ七刻ななつを過ぎたころ、黄昏たそがれには間のある時刻だが、剣山の高所、陽は遠く山間やまあいに蔭って、さかしまにす日光がいただきにのみカッとあかく、谷、かい
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がっちりと骨太に肥えた、あから顔のぶあいそな、そしてひどく口の重い男であるが、気の好い情にもろい性分であった。
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
チッとしか鳴かないあかちゃけた土色の若雲雀わかひばりがころがるようにとびだしてきても、それに気がついていながら振り返ってみる心の余裕がないのである。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
左内から恋の告白をされて、お菊は眼もとをあからめたが、物もいわずにうつむいて、膝の上で両手を握りしめた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
でっぷり肥ったあから顔の折鞄をマントの下に抱え込んだ男だった。私はその姿を見ると興ざめた心地がした。それで順番を村瀬に譲って、傍から見ていた。
微笑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これは普通火山で見受ける、あかく焦げた熔岩とは思えないので、道者連は真石と称えているが、平林理学士に従えば、橄欖かんらん輝石富士岩に属しているそうだ。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「あの、何卒どうぞお構いなく」娘はあかくなって下を向いた。そのぶな優しさがフリント君の心を捕えた。
夜汽車 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
と、言い、わしは出所して始めての暖かく恭謙きょうけんな挨拶を受けたが、その時、眼をあげた奈世はわしの眼にぶつかると、わしにもはっきりとわかる程に顔をあからめた。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
「兎も角御邸へ帰って見ようじゃありませんか。まさかさっきの様に僕と駈落して下さいとはいえませんからね」紋三はあかくなってぎこちなく冗談みたいなことをいった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
色合いはあか色がかった熱帯色。だが、ノラよ。スリップにつけたレースがまんかいしてスカートからすねのあたりに××××るのはあまり感心しないがどうしたものか。赤い蛇皮へびかわの靴。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
大たぶさにり上げ、あかぐろい、酒やけのした顔で、長身の——清水狂太郎なのだ。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鼠色の壁の幾つかの煤けた硝子ガラス窓からは、流石さすがに強烈な日光が流れ込んで、そこらの麦稈帽や鳥打帽やあかづら鼈甲縁べっこうぶちの眼鏡やアルパカの詰襟のぼんのくぼなどが一時にくわっと燃え立って
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
わたくしがこう問ねましたとき、童子はあかくなってこたえました。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「あまりおそくならないうちに、お庄ちゃんは一足先へお帰り。叔父さんが心配するといけませんよ。」と、大分経ってから、安火に逆上のぼせたようなあかい顔をあげながら磯野はいいつけるように言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
どうしなすツたの」と、お花も、松島と云ふ一語に顔あからめぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かの女は危く叫びそうになって、きっと心を引締めると、身体の中で全神経が酢を浴びたような気持がした。次に咽喉のどの辺から下頬があかくなった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
云いながら、フッと気がついてそれは自分自身に納得させているのだと思うと鷲尾は顔があかくなった気がした。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
あから顔の、口のあたりに、もぢやもぢやと無精ひげの生えた、眼のぎよろりとした、屈強の男かと思つて出て来た役人は、庭にちよこんとすわつてゐるせぎすの
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
予もいささ辟易へきえきしたから謹んで傍へ行って、「此処で貝を拾っても宜いか」と訊ねた。壮漢は逞しいあから顔をはたと予に向けて「どんな貝を取っているんだ」と居丈高に呶鳴どなる。
と、梁軍りょうぐん七千の人と旗は黒い風に吹きちらされ、み舞わされ、冬の木の葉に異ならない。あれよあれよの、叫喚きょうかんだった。ただ見る日輪だけがあかく、ひょうじって砂礫されきを吹きつける。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
Kama Sutra や Ananga Ranga にでてくるような、閨技けいぎ秘奥ひおうや交合の姿態などを細密に説いて、旦那マスターがたをよろこばせ、若い夫人たちの顔をあかくするのを
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
四、五間うしろにそのあかい平べったい、顔を見いだしたとき、女は
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
たぶん妹か、めいらしい女のに声をかけると、曼珠沙華ひがんばなのようにあかちゃけた頭髪はくるッと振りむいて、ひどくいきどおった顔色で「赤ンベイ」をしてみせた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
親たちのこの模様がえを聞かされた時、かなり一緒に行きい心を抑えていたむす子は「なんだい、なんだい」とあかくなって自分の苦笑にむせながら云った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今晩だけは特別だと云って、康子の手で麦酒ビールが開けられた、清三も青木も顔のあかくなるほど飲んだ、清三はまたかねがね聞かされていた神戸の牛肉の美味うまさに頻繁ひんぱんはしを鍋に運んだ。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さらにまなこの光もただならず、丸ッこいあから顔を、もじゃもじゃしたひげが取り巻いている。また腰なるは、太原風たいげんふうの帯ヒモとそして金環きんかんの飾りある剣。——問うまでもなくこれは軍装である。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき良寛さんの長頭ながあたまが、こてんこてんと左右にかたぶくので、うしろから見てゐる下男は可笑をかしくなつて、つい、ぷつ、と噴き出してしまつた。すると良寛さんは、さつと顔をあかめて
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
おきみは急に深く首を下げましたが、彼の頸元から耳朶みみたぶへかけて日の出のさしたようにあかくなっていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
遠くから見る西洋人の肌はき立てのバナナのようにういういしい——小田島は突然顔をあからめた。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三月の末、雲雀ひばりが野の彼処に声を落し、太陽があかく森の向うに残紅をとどめていた。森の樹々は、まだ短くておさない芽を、ぱらぱらに立てていた。風がすこし寒くなって来た。
兄妹 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
肩をゆすって顔を覗き込む。子供は感違いした母親に対して何だか恥しくあかくなった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いかに戦国のならいとは云え敵と味方に分れてはかりごとの裏をかき合って居るのだとは……蘇秦の豪傑肌なあから顔と張儀の神経質な青白い顔とが並び合って落日を浴びながら洛邑の厚い城壁に影を
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
濃く縮れた髪の毛を、程よくもじょもじょに分け仏蘭西フランスひげを生やしている。服装はあかい短靴をほこりまみれにしてホームスパンを着ている時もあれば、少し古びた結城ゆうきで着流しのときもある。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
作太郎はあかくなってそれから土気色になった。口に一ぱい詰めた生米は程よく乾いていたので少々の唾液ではみ下せなかった。まして新妻の前で吐き出すことはどうしても出来なかった。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
熟し切った太陽の下でセーヌ河のうすあかい土色の水が流れて居た。流れは箱型の水泳船の蔭へ来て涼しい蘆の中で小さい渦を沢山こしらえる。渦と渦と抱き合ってぴちょんぴちょんと音を立てる。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おとうさんが、きつぱりと云ひますと、先に云ひ出したおかあさんがいそいそとしたなかにもすこしはずかし相なあからめた顔色を見せました。わが母ながら美くしい愛らしいと、むすめはそれを眺めました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
灼熱しゃくねつした塵埃じんあいの空に幾百いくひゃく筋もあかただれ込んでいる煙突えんとつけむり
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おとうさんのほお何故なぜか少しあからみました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
娘は少しあかくなった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)