そしり)” の例文
しからばすなわち今の改革者流が日本の旧習をいとうて西洋の事物を信ずるは、まったく軽信軽疑のそしりを免るべきものと言うべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
曲学阿世のそしりがあってはならぬ。しかしながら我ら歴史家もまた、同時に帝国臣民である事を忘れてはならぬと自分は信じているのである。
道鏡皇胤論について (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
とお祖父さんは、早速気転きてんかして、芳夫さんに豆を浴せかけた。これで嫁の里の長男を鬼扱いにしたというそしりは受けない。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三年の歳月は早くも過ぎ、いつか五年六年目となった。もともとわたくしは学ぶに常師というものがなかったから、独学固陋ころうそしりまぬかれない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも空虚のそしりまぬかれるように、誰が見ても内発的であると認めるような推移をやろうとすればこれまた由々しき結果におちいるのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は余りに可燃質なり、彼は余りに殺急に、余りに刃近はしかし、切言すれば彼は浅躁せんそう軽慓けいひょう雑馭ざっぱくとのそしりを免るるあたわず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
無実のあかしを立ててやりたい、……それで、出しゃばりのそしりもかえりみず、出しゃばりをしているわけなんで……。
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いわゆる世の実務家あるいは実業家などにはの長過ぎる人があるとすれば、学者かんに短か過ぎる人のあると同然、両者ともに不具なりとのそしりはまぬがれまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かかる機会を与ふるにやぶさかなりしと共に、儒教主義の教育を受けたる予も、亦桑間濮上さうかんぼくじやうそしりおそれたるを以て、無限の離愁を抱きつつ、孤笈飄然こきふへうぜんとして英京に去れり。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
尤も今では春秋の気候の好い時節には、松本市の中学校や女学校で生徒の遠足地としてよく登山するそうであるから、或は遼東のいのこたるそしりを免かれないかも知れぬ。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
愛情のこまやかなるを記さんとしては、思わず人の嘲笑を招くこともあるべければ、それらの情冷かになりそれらのそしり遠くなりての後にまた筆をることを楽むべし。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
マ幾らか官職を帯びてもんじゃ、亭主の留守には宅に居る下男といえども、家内と席をともにせんと云うのが女子おなごの道じゃ、うなければ家事不取締のそしりは免がれん事じゃ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
吾人われらは思想の自由を尊ぶが故に信条を掲げて以て去就を明かにせんとする也。天下の心は猶天下の面の如し。人々異なれり、誰れか狭隘のそしりを免れん、誰れか独断の譏を免れん。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
その道筋を教えるまでなりと思えば、そのあらましをとなえ出せしなり。はじめて唱える時に当りては、なかなか後のそしりを恐るるようなる碌々たる了見にて企事くわだてごとはできぬものなり。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼岸かのきしの人と聞くつらさ、何年の苦労一トつは国のためなれど、一トつは色紙しきしのあたった小袖こそで着て、ぬりはげた大小さした見所もなき我を思い込んで女の捨難すてがた外見みえを捨て、そしりかまわずあやうきをいとわず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひとあるひはわがはいのこの意見いけんもつて、つまらぬ些事さじ拘泥こうでいするものとしあるひは時勢じせいつうぜざる固陋ころう僻見へきけんとするものあらば、わがはいあまんじてそのそしりけたい。そしてつゝしんでそのをしへをけたい。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
世に伝うるマロリーの『アーサー物語』は簡浄素樸そぼくという点において珍重すべき書物ではあるが古代のものだから一部の小説として見ると散漫のそしりは免がれぬ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○軍は段違いのスコアで△軍をほふった。二年間負け続けて先輩から風紀敗頽はいたいそしりを受けていた折からの快勝に、嬉しさ余った選手達は相擁して泣き出すという始末。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
第三に吝嗇りんしょくそしりさえ招いだ彼の節倹のおかげだった。彼ははっきりと覚えている——大溝おおどぶに面した貸本屋を、人の好い貸本屋の婆さんを、婆さんの内職にする花簪はなかんざしを。
一 言葉を慎みておおくすべからず。仮にも人をそしり偽を言べからず。人のそしりきくことあらば心におさめて人に伝へかたるべからず。そしりを言伝ふるより、親類ともなか悪敷あしくなり、家の内おさまらず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さて僕も富士見町ばかりでは所詮山の手の土臭く井戸の蛙のそしりもうしろめたしと思へる折から、神田連雀町かんだれんじゃくちょう金清楼の宴会にて、講武所こまかかえ小みつといへるが水を向けるをこれ幸ひと
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
文壇の二三子つと傲岸不遜がうがんふそんそしりありと聞く。されど予はいまだ一人いちにんのバルザツクに似たるものを見ず。もとより人間喜劇の著述二三子の手に成るを聞かざれども。(二月十五日)
さいわいにして我慶應義塾はこの辺に於ていささか他に異なる所のものを存して、鉄砲洲以来今日に至るまで固有の気品を維持して、凡俗卑屈のそしりまぬかれたることなれども、元来無形の談にして
今日こんにち浮世絵の研究は米国人フェノロサその他新進の鑑賞家出でて細大もらす処なく完了せられたるののちさかのぼつてゴンクウルの所論をうかがへば往々おうおう全豹ぜんぴょうを見ずして一斑いっぱん拘泥こうでいしたるのそしりを免れざるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金瓶梅きんぺいばい肉蒲団にくぶとんは問はず、予が知れる支那小説中、誨淫のそしりあるものを列挙すれば、杏花天きやうくわてん燈芯奇僧伝たうしんきそうでん痴婆子伝ちばしでん、牡丹奇縁、如意君伝によいくんでん、桃花庵、品花宝鑑ひんくわはうかん、意外縁、殺子報、花影奇情伝
かつてそしりを受けたることなきのみならず、かえって聖人の賛誉を得たり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
軽薄不実のそしりを受けむ心づかひもなし。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なおこれから書く事も、あるいは冗漫じょうまんそしりを免れないものかも知れません。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けだし慶応義塾の社員は中津の旧藩士族にいずる者多しといえども、従来少しもその藩政にくちばしを入れず、旧藩地に何等なんらの事変あるもてんとして呉越ごえつかんをなしたる者なれば、往々おうおうあやまっ薄情はくじょうそしりうくるも
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だから鑑賞かんしやうの上から云へば、菊池の小説を好むと好まざるとは、何人なにびとも勝手に声明するがい。しかしその芸術的価値の批判にも、粗なるが故に許し難いとするのは、好む所にへんするのそしりを免れぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
このシヤルムさへ認めないのは偏狭へんけふそしりまぬかれないであらう。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)