諏訪すわ)” の例文
「——たッた一つある手がかりは、そのなかに、お諏訪すわさまの禁厭まじないというてすえた、大きな虫のきゅうのあとがあることだけです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早朝から道楽の紙屑拾いに出て行った藤吉部屋の二の乾児の葬式とむらい彦兵衛が、愛用の竹籠を背に諏訪すわ因幡守様の屋敷前を馬場へかかると
私の知るかぎりでは諏訪すわにも松本にも、また静岡にもそれぞれの記録があるが、上越後かみえちごでは高田を中心としたものが有力であった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三郎らに次いでは、村社諏訪すわ分社の禰宜ねぎ松下千里の子息にあたる千春が荒町から通って来る。和助と同年の千春もすでに十五歳だ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
美しい俳優わざおぎは、そうした行人の、無遠慮なささやきを、迷惑そうに、いつか、諏訪すわ町も通り抜けて、ふと、右手の鳥居を眺めると
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
連句でもたとえば、「入りごみに諏訪すわ涌湯わきゆの夕まぐれ」「中にもせいの高い山ぶし」は全くこの手法によったものである。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「なるべくならば神尾主膳と名乗りたくない、尋ねたならば、諏訪すわの家中で江戸へ下るとでも申しておいたがよろしかろう」
金眸がひげちりをはらひ、阿諛あゆたくましうして、その威を仮り、数多あまた獣類けものを害せしこと、その罪諏訪すわの湖よりも深く、また那須野なすのはらよりもおおいなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
右手に半ば諏訪すわ山にかくれて兀鷹はげたかの頭のように見えるまっ黒な丘をさしてこうつぶやくと、うつむきながらそこへ寄ってきた野良犬のらいぬの背をなでていた。
(おお、諏訪すわの湖のあたりまで馬市へ出しやすのじゃ、これから明朝あしたお坊様が歩行あるかっしゃる山路を越えて行きやす。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私には諏訪すわ稲荷が乗り移りおれば、私がいうとおりを守るときは、いかなる望みといえどもかなわざることなし。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
首と衣を手に入れた山賊は、暫くその二品ふたしな資手もとでに、木曾街道の旅人をおどしていたが、間もなく諏訪すわの近くへって首の由来を聞いた。山賊は青くなった。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを追つて信濃の國の諏訪すわみずうみに追い攻めて、殺そうとなさつた時に、タケミナカタの神の申されますには
あの穴八幡あなはちまんの坂をのぼってずっと行くと、源兵衛村げんべえむらのほうへ通う分岐道わかれみちがあるだろう。あすこをもっと行くと諏訪すわの森の近くに越後様えちごさまという殿様のおやしきがあった。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伯次さんは諏訪すわ様の裏の寮に、昼過ぎまでおりましたが、こんな時は雑魚を相手の方が宜いとか何んとか浮世離れのしたことを言って、瓢箪ひょうたんをブラさげて、釣竿を
「……三菱みつびしドックにお諏訪すわの月見、花はカルルス桜に菊人形、夜は丸山、寺もないのに大徳寺……」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
遍路をそこに呼止め、いろいろ話していると、この年老いた遍路は信濃しなのの国諏訪すわ郡のものであった。T君はあの辺の地理にくわしいので、ぐ遍路の村を知ることが出来た。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
諏訪すわの台の雪見寺、道灌山の月と虫、六あみだ四番の興楽寺、また尾久から荒川堤への枯野など、四季それぞれの眺めに富むため、市中から遊山に来る人が絶えなかった。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
としはじめ発会式ほっかいしきも、他家にくらぶれば華やかであった。しほの母はもと京都諏訪すわ神社の禰宜ねぎ飯田氏のじょで、典薬頭てんやくのかみ某の家に仕えているうちに、その嗣子とわたくししてしほを生んだ。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
眼の下はるかの下界に当たって、碧々あおあおたたえられた大湖水、すなわち諏訪すわの湖水であって、彼方かなたの岸に壁白く石垣高くそびえているのは三万石は諏訪因幡守いなばのかみの高島城の天主である。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先ず香取かとり鹿島かしま及び息栖いきすの三社、それに流山ながれやま在の諏訪すわの宮、常陸は阿波村の大杉明神、立木村たつきむら蛟𧍑みずち神社、それ等の神々に詣で、身も心も二つながら清めて、霊剣一通り振り納め
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
諏訪すわ神社の祭礼まつりももう直ぐだなと云うと、住職の全達が笑いながら、諏訪の祭りが見たければ直ぐ出て行け、十月までには間に合うだろうと云って、みんなが大きい声で笑っていました
レコードが鳴っている。私は田端たばたの自笑軒の前を通って、石材屋の前のおどけたたぬきのおきものを眺めたり、お諏訪すわ様の横のレンガ坂をあてもなく登ってみたりした。小学生が沢山降りて来る。
貸家探し (新字新仮名) / 林芙美子(著)
嫡子清水冠者しみずのかんじゃ義重という当年十一歳の息子に、海野うみの望月もちづき諏訪すわなどといった一騎当千の侍達を付けて、人質にさし出したので、頼朝も始めて義仲の本意を覚り、まだ子のないところから
転じて山の手方面では谷中やなか諏訪すわの台、諏訪明神社前の崖上、ここにも掛茶屋があって、入谷、日暮里にっぽり田圃たんぼ越しに遠く隅田川、紫がかった筑波の姿まで眼界広濶こうかつ、一碗の渋茶も嬉しい味
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
よしや此恋諏訪すわうみの氷より堅くとも春風のぼや/\と説きやわらげ、凝りたるおもいを水に流さし、後々の故障なき様にせではと田原は笑顔えがおあやしく作り上唇うわくちびるしばなめながら、それは一々至極の御道理
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
貴方あなたがいやなら諏訪すわあたりで待っててもいいわ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「山梨県東山梨郡諏訪すわ村です」
入込いりこみ諏訪すわ涌湯いでゆゆうぐれ 水
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
名月や兎のわたる諏訪すわの湖
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
諏訪すわうみには魚多し
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
天明四年の正月は信州の諏訪すわ近くで迎えたらしい。「諏訪の海」という一巻の紀行があったというが、これはまだどこからも出てこない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たとえば、甲州打入りの際、諏訪すわの陣所で、主人光秀に飲めない酒をむりにいて、酒興のうえとはいえ、廻廊の板敷へおもてじ伏せて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに勅使左衛門督さえもんのかみ大原重徳しげのりを奉じて東下して来たほどの薩摩人の活躍を想像しながら、その年の六月中旬には諏訪すわにはいった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信州諏訪すわの温泉、孫次郎の宿についた晩、お雪は久助と外のお湯へ行き、竜之助は、ひとり剃刀かみそりおもてを撫でておりますと
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひとりそのむれを離れた諏訪すわ栄三郎、腰の武蔵太郎安国むさしたろうやすくにに大反りを打たせて、星屑をうかべた池のほとりにたった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私には諏訪すわ稲荷が乗り移りおれば、私がいうとおりを守るときは、いかなる望みといえどもかなわざることなし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
諏訪すわ神社の縁日に虎の見世物が出て、非常な人気を博したことはついその十日ほど前のことであった。孫四郎の絵ではその虎のおりが街頭に引き出されている。
怪量は首を袖へつけたままで山をおり、それから信州の諏訪すわへ出て平気で村から村を托鉢してまわった。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
友達は甲州線こうしゅうせん諏訪すわまで行って、それから引返して木曾きそを通ったあと、大阪へ出る計画であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「……お前がこの世に産まれた時——もう十四年の昔になる——お前のお父様とお母様とはこのお城からお出ましになり諏訪すわの湖水の波を分け行衛ゆくえ知れずにおなりなされたのだよ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いずれ夕方は白鬚しらひげあたりに着けて、諏訪すわ明神様裏の寮で一と騒ぎするでしょうが、その日だけは、主人の平左衛門が、小僧の伊佐松とたった二人で駒形の店に留守番をするんだそうで
あくる朝、はやく宿を出立したかれは、道を東にとって、諏訪すわ郷から海へと出た。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奥州会津諏訪すわの宮に朱の盤という恐しき化物ありける。或暮あるひぐれ年の頃廿五六なる若侍一にん、諏訪の前を通りけるに常々化物あるよし聞及び、心すごく思いけるおり、又廿五六なる若侍きたる。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引き返してお諏訪すわさんへ向う途中
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
秤を腰に差して麻袋をしょったような人達は、諏訪すわ、松本あたりからこの町へ入込んで来る。旅舎やどやは一時繭買まゆかいの群で満たされる。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
上州の桐生きりゅう附近ではオキャクサンヤッコ、信州諏訪すわ地方でオキャクボッコ、またはオキャナンコというのが東京などの御客遊びに該当する。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
軍団は、三縦隊にわかれ、諏訪すわはら平子山ひらこやまのふもと、印場いんばとすすんで、矢田川をこえ、さらに、香流川かなれがわを渡って、長久手ながくての原へかかった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「明日は諏訪すわが勝ち抜いて、この乾雲丸をさすにきまっておる。ついでだが、そち、栄三郎をどう思う?」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
信州諏訪すわ神社の境内には杉の古木が茂っておる。そのうち、最も古き大木が神木としてあがめてある。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)