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蔽
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おお
ふりがな文庫
“
蔽
(
おお
)” の例文
そは戦敗の黒幕に
蔽
(
おお
)
われ、
手向
(
たむけ
)
の花束にかざられたストラスブルグの石像あるがために、
一層
(
いっそう
)
偉大に、一層
幽婉
(
ゆうえん
)
になったではないか。
曇天
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
夕日は物の影をすべて長く
曳
(
ひ
)
くようになった。高粱の高い影は二間幅の広い路を
蔽
(
おお
)
って、さらに向こう側の高粱の上に蔽い重なった。
一兵卒
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
そうして彼の顔の上には、ペンキのように青い空が二ツ三ツ白い雲のキレを溶かし込みながらピカピカと光って
蔽
(
おお
)
いかぶさっていた。
童貞
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
竹藪があり、麦畑があり、長い橋があり、冬には雪がその道を
蔽
(
おお
)
うのであった。私たちはゲートルを穿いて、雪道を踏んで通学した。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
唯
(
と
)
見る時、
頬
(
ほお
)
を
蔽
(
おお
)
へる髪のさきに、ゆら/\と
波立
(
なみだ
)
つたが、そよりともせぬ、
裸蝋燭
(
はだかろうそく
)
の
蒼
(
あお
)
い光を放つのを、
左手
(
ゆんで
)
に取つてする/\と。
処方秘箋
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
立派な革椅子に、チーク材の卓子など、すこぶる上等な家具が並んでいて、床を
蔽
(
おお
)
う
絨氈
(
じゅうたん
)
は地が
緋色
(
ひいろ
)
で、黒い線で模様がついていた。
鞄らしくない鞄
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
唐紙
(
からかみ
)
へ手をかけると、建付けの悪いに似ず、心持よく滑って少し荒らした古畳の六畳が、
蔽
(
おお
)
うところなく一と目に見られるのでした。
銭形平次捕物控:086 縁結び
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
それは
降
(
くだ
)
ってまた昇るのであるが、暫くは密林帯で、数町の間樹木に
蔽
(
おお
)
われて、日の目も漏らぬトンネルのような
幽邃
(
ゆうすい
)
な谷がつづく。
雲仙岳
(新字新仮名)
/
菊池幽芳
(著)
初め山道は麓の村落で
嚇
(
おどか
)
された程急ではないが、漸く
樵夫
(
きこり
)
の通う位の細道で、両側から
身長
(
みのたけ
)
よりも高き雑草で
蔽
(
おお
)
われている処もある。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
この時崩れかかる人浪は
忽
(
たちま
)
ち二人の間を
遮
(
さえぎ
)
って、鉢金を
蔽
(
おお
)
う白毛の靡きさえ、
暫
(
しばら
)
くの間に、
旋
(
めぐ
)
る渦の中に捲き込まれて見えなくなる。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そして知らない文字に攻められるのが恐ろしさに、内部をば開けてみないで、手馴れている自分の書物で
蔽
(
おお
)
うて机の片隅へ押遣った。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
テープの貼られた所だけに型が残るのならよいが、剥がす拍子に周囲に疵がひろがるので、誰かが開けたことは
蔽
(
おお
)
い隠しようもない。
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
故郷の山も、春は若葉に
蔽
(
おお
)
われるのだが、海があり、白砂があり、砂丘や牧場があって、その若葉はさしてめだたなかったのである。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
荷駄の背には
荒菰
(
あらごも
)
を
蔽
(
おお
)
いかけてある。そしてがんじがらみにした男の体を鞍の上にくくしつけ、両側から柴の
薪束
(
まきたば
)
を抱き合せてある。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼女の魂はまったく夫の魂となり
了
(
おう
)
せて、マリユスの考えの中で影に
蔽
(
おお
)
われてるものは皆、彼女の考えの中でも暗くなるのであった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
氏に接するとき私はいつも、雪に
蔽
(
おお
)
われて剣のように尖っている信州の連山を思い起す。同じ雪の山でも富士山のように平凡ではない。
国枝史郎氏の人物と作品
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
兎も角も、家の屋根の如き、天日を強く受ける所や、その他の燃える恐れの有る物件は、燃えぬ品物を以て
蔽
(
おお
)
う用意をするが
好
(
よ
)
かろう。
暗黒星
(新字新仮名)
/
シモン・ニューコム
(著)
その一瞬間、眼の前が霧にでも
蔽
(
おお
)
われたように、突然ぼうとなり、宿の者の姿がかすんで、無限に小さく、遠のいてゆくように思えた。
樅ノ木は残った:04 第四部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
烈しい口調で言ったかと思うと、悲しみにゆがんでくる顔を、ハッと両手で
蔽
(
おお
)
い隠し、そのまま肩を震わせて泣き入るのであった。
暗黒星
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
いつもより余程手を抜いてはいるが、化粧の秘密を
藉
(
か
)
りて、
庇
(
きず
)
を
蔽
(
おお
)
い美を
粧
(
よそお
)
うと云う弱点も無いので、別に見られていて困ることは無い。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
この名の児童遊戯は浜辺で一人を顔を
蔽
(
おお
)
うてうつむき伏させ、その上からうんと砂をかけておいて、下界のことを尋ね問う遊びだという。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
やっと見出した工夫は、商品を包んだ風呂敷で頭を
蔽
(
おお
)
い、着物のたくし揚げをおろして、ちぢこまって、足をくるんで寝ることであった。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
吃
(
ども
)
りながらそう云って、彼は
両掌
(
りょうて
)
で、顔を
蔽
(
おお
)
った。感きわまって子供のように泣きだした。おさえていたものを抑えきれなくなったのだ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
もはや
蔽
(
おお
)
わんとして
蔽
(
おお
)
いがたき事態の急激なる悪化は、支配階級及びその代弁者どもをして今さらのように国難来を叫ばしむるにいたった。
『日本資本主義発達史講座』趣意書
(新字新仮名)
/
野呂栄太郎
(著)
「恐ろしい! 恐ろしい!」と呻きながら、精も根も尽き果たした彼は、扉の一つへ体を持たせかけて遂々両手で顔を
蔽
(
おお
)
った。
人間製造
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
その蓋から一方へ向けてそれで
蔽
(
おお
)
い切れない部分が二三尺はみ出しているようであった。だが、どうもハッキリ分らなかった。
淫売婦
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
艫
(
とも
)
の方を見ると、実に驚くべき速さでむくむくと湧き上がる、奇妙な銅色をした雲が、水平線をすっかり
蔽
(
おお
)
っているのに気がついたのです。
メールストロムの旋渦
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
更に進むと、一面に塩に
蔽
(
おお
)
われた侵蝕高原地帯に入る。それも支那書では「
白竜堆
(
はくりょうたい
)
」という名で残っているものだそうである。
『西遊記』の夢
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
暫らく二人は窓の下に
佇
(
たたず
)
んでいた。丘の上の、雪に
蔽
(
おお
)
われた家々には、灯がきらきら光っていた。武石は、そこにも女がいることを思った。
渦巻ける烏の群
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
しかしこれ一部を以て全部を
蔽
(
おお
)
うものである。一度旧約聖書を
去
(
さっ
)
て新約に入らんか、この種の陰影は
毫
(
ごう
)
も認めがたいのである。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
太平洋の島々の中で最も神秘的なイースター島(其処では、今は絶滅した先住民族の残した怪異巨大な偶像が無数に、全島を
蔽
(
おお
)
うている。)
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
見上げると朝の空を今まで
蔽
(
おお
)
うていた綿のような初秋の雲は所々ほころびて、洗いすました青空がまばゆく切れ目切れ目に輝き出していた。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
やがて御釈迦様はその池のふちに
御佇
(
おたたず
)
みになって、水の
面
(
おもて
)
を
蔽
(
おお
)
っている蓮の葉の間から、ふと下の
容子
(
ようす
)
を御覧になりました。
蜘蛛の糸
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
古い城下の、
椎
(
しい
)
や
榎
(
えのき
)
やタモの大木のある裏町には、星ぞらがともすれば
蔽
(
おお
)
われがちで、おけらがぶるぶると、
溝汁
(
どぶじる
)
の暗い片かげに啼いていた。
蛾
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
「しっ、しっ。そんなに大きな声をお出しになってはいけません」と、リザベッタはその手で、彼の口を
蔽
(
おお
)
いながら言った。
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
山桜の花は幾重もかさなりて、木のもとの
苔
(
こけ
)
の青さも見えぬほどである。水に散っては水を
蔽
(
おお
)
って、こぎゆく舟のあとをくっきりきわ立てる。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
奔馬の
紋
(
もん
)
のついた真白い着物を着た、想像よりはずっと
痩形
(
やせがた
)
だが、長身の方で、そうして髪は
月代
(
さかやき
)
で
蔽
(
おお
)
われているが、
面
(
かお
)
の色は
蒼
(
あお
)
いほど白い。
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
そして机の前へ来て
煙草
(
たばこ
)
をふかしていた。と、いきなり葉子が
転
(
ころ
)
がるように入って来たと思うと、
袂
(
たもと
)
で顔を
蔽
(
おお
)
って畳に突っ伏して泣き出した。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
丘陵の上にあるハコネ(駅)から見おろすと、視界はことごとく雪と氷で
蔽
(
おお
)
われていて、どこまでが陸で、どこからが海か、見当がつかない。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
……長いこと、
鬱陶
(
うっとう
)
しく
蔽
(
おお
)
いかぶさっていたこの
梅雨雲
(
つゆぐも
)
が今日こそは晴れるのではないかと思ってな。……待っているのだ。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
同じ雪に
蔽
(
おお
)
われながらも、この鳥形のみは粗き山の膚(元より白色)の中に、滑らかに平に浮び出で居候が、認められ候。
雪の白峰
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
飼うには重曹とか舎利塩などのような広口の瓶の
空
(
あ
)
いたのを利用して、口は紙で
蔽
(
おお
)
うてそれに針で沢山の穴をあけて置く。
三筋町界隈
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
彼女はその発作が鎮まっても、いつまでも苦しそうに身体をねじらせたまま、両手で顔を
蔽
(
おお
)
いながら、ただ
頷
(
うなず
)
いて見せた。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
故人の
瑜瑕
(
ゆか
)
並び
蔽
(
おお
)
わざる全的生活は他日再び伝うる機会があるかも知れないが、今日はマダその時機でない。かつ
自
(
おの
)
ずから別に伝うる人があろう。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
我々は経済学の経験的性質でこの合理的性質を
蔽
(
おお
)
いかくしていたことが久しいが、何人もこれを批難し得ないであろう。
純粋経済学要論:01 上巻
(新字新仮名)
/
マリー・エスプリ・レオン・ワルラス
(著)
その全体を
蔽
(
おお
)
うもの、もしくはその主潮となっているものは、いうまでもなく後者であり、それがなくては日本の民族生活は全く失われてしまう。
日本精神について
(新字新仮名)
/
津田左右吉
(著)
長門
(
ながと
)
は山陽の
西陬
(
せいすう
)
に
僻在
(
へきざい
)
す、
而
(
しこう
)
して萩城連山の
陰
(
きた
)
を
蔽
(
おお
)
い、
渤海
(
ぼっかい
)
の
衝
(
しょう
)
に当る。その地海に
背
(
そむ
)
き山に面す、
卑湿
(
ひしつ
)
隠暗。城の東郊は則ち吾が松下村なり。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
夜目にも、もの凄い横波が、
廂
(
ひさし
)
のように
蔽
(
おお
)
いかぶさったかと思うと、次の瞬間にはボートはひとたまりもなくひっくりかえってしまったのだった。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
往々疑問の雲に
蔽
(
おお
)
われていると同じく、ガーイウスの事跡の如きもまた同じ運命を免れることが出来ないのは、史上の奇現象というべきであろうか。
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
彼女の頭に映っていたかつての彼の
男々
(
おお
)
しく美しかったあの顔は、今は拡まった
窪
(
くぼ
)
みの底に眼を沈ませ、
髯
(
ひげ
)
は突起した
顋
(
おとがい
)
を
蔽
(
おお
)
って縮まり、そうして
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
蔽
常用漢字
中学
部首:⾋
15画
“蔽”を含む語句
日蔽
蔽被
蔽膝
隠蔽
蔽布
立蔽
打蔽
蔽重
蔽包
掩蔽
遮蔽
蔽物
掩蔽物
言路壅蔽
蔽覆
覆蔽
蔽蓋
蔽隠
隱蔽
遮蔽膜
...