船脚ふなあし)” の例文
いさみに勇む第十三潜水戦隊は、その日から船脚ふなあしに鞭うって、東南東の海面へ進撃してゆきました、いよいよ×国は近くなる一方です。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船は時にその腹に汚水や糞尿を船脚ふなあしの重くなるまで満喫する代りには時に淫蕩いんとうな男女の秘密を載せて軽々と浮く様な性質のものであつた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
「おなじく、明石街道の磯道を、友軍の船脚ふなあしと見合せながら進んでおり、やがて大蔵谷へ近づくばかりにございまする」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じつ不思議ふしぎだ——あの船脚ふなあしはやことは——』と右手ゆんで時辰器じしんき船燈せんとうひかりてらして打眺うちながめつゝ、じつかんがへてるのは本船ほんせん一等運轉手チーフメートである。つゞいて
薄黒いデコボコの連山は、さながら勇躍せる鉄のけだものの背にも似て、あとへあとへとくようにも見えた。それでもわたしは船脚ふなあしがのろくさくさえ思われた。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
画は此船が任務を果してまた東へ帰り去る光景をえがいた。海原の果には、最早もう小さく小さくなった船が、陸から吹く追手風おいてに帆を張って船脚ふなあし軽く東へ走って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし主将たる窪田らの心の中はこの間にも敵の船脚ふなあしや漕法に注意することを怠らなかった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
グーンと沈んで甲板をザアザアザアと洗われながら次の大山脈のドテッ腹へもぐり込む。なんしろ船脚ふなあしがギッシリと重いのだから一度、大きなやつにたたかれると容易に浮き上らない。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
船脚ふなあしらめきのなごりが残っていて、からだがふらりふらりと揺れるような感じを失ってはいなかったが、広い畳のに大きなやわらかい夜具をのべて、五体を思うまま延ばして
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「で、船脚ふなあしが恐ろしく速く、風がなくてもはしることが出来た。ヨット型とか申したよ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妙に船脚ふなあしのあがった五百石で、大帆柱おおほばしらの帆さきととも油灯ゆとうの赤い灯がついている。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
広場には絞車盤こうしゃばんがすえられ、サクラ号が船脚ふなあしをはかるために用いた測量索ロクラインをまいて、たこの糸とした、たこにつるさがったかごには、重さ六十キログラムの土をもったふくろをつみこんだ
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あし枯葉かれはをぬら/\とあをぬめりのみづして、浮草うきぐさ樺色かばいろまじりに、船脚ふなあしころの、五位鷺ごゐさぎはうちやう。またひとしきりはげしくきふに、なめらかなおもみづひゞいて、鳴渡なりわたるばかりとつたが。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
入日に染まる船脚ふなあし
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
船は、あと一日で、目的の極地へつくはずになっていたが、あいにく今になって、猛烈な吹雪ふぶきに見舞われ、船脚ふなあしは、急にがたりとおちてしまった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
またその甲板かんぱん下部したには數門すもん大砲等たいほうなど搭載つみこまれるのではあるまいか、その船脚ふなあし尋常じんじやうならずふかしづんでえる。
そしてそこの狭い船やぐらの内をおりの獅子みたいに巡りながら八方を観望していた。——味方の陸上軍の歩速——特に山手隊のうごきと、全船列の船脚ふなあしとを見合せて
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なつかしい過去、旧世界、故国、歴史、一切の記念、其等との連鎖は、かの船脚ふなあしの一歩〻〻に切れて行くのである。彼等の胸は痛み、眼には涙が宿って居るに違いない。然しながら彼等は若い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
うね/\とうすひかみづすぢかげえない船脚ふなあしなみ引残ひきのこされたやうなのが、あたままるとがどうながくうねり、あし二つにわかれて、たとへば(これ)がよこの(はち)の向合むかひあつて、みづうみなかばりやうしてうか
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その船脚ふなあしすざまじくはやことわかるから、やが本船ほんせん切迫せつぱくするのも十ぷんか十五ふんのちであらう。
ふかしぎな船は、いつか弁天島べんてんじまのうらで船脚ふなあしをとめた。そして、親船をはなれた一そう軽舸はしけが、矢よりも早くあやつられて伊那丸いなまるの夢をうつつに乗せている小船のそばまで近づいてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船頭おやぢ辨當べんたう使つかあひだ、しばらくはふね漂蕩へうたうながるゝにまかせて、やがて、かれひまして、ざぶりとふなべりあらさまに、割籠わりごむとてみづが、船脚ふなあしよりはながいて、うごくもののないおも
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
満載した船ならば、かならず船脚ふなあしが深く沈んでいなければならないのに、いま眼の前に来る船はすべて水深すいしん軽く、さして重量を積んでいるとは見えません。——これいつわりの証拠ではありませんか
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)