ほつそ)” の例文
雨夜あまよたちばなそれにはないが、よわい、ほつそりした、はなか、空燻そらだきか、なにやらかをりが、たよりなげに屋根やねたゞようて、うやらひと女性によしやうらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼女の指先の紅らみの中に浮き出てゐたほつそりとした指半月つめのね、豊な彼女の唇を縁づけるくすぐるやうな繊細な彎曲、房々と垂れた彼女の髪のかすかな動揺と光沢
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
デント大佐夫人はそれほど華美はでではなかつたが、ずつと貴婦人らしいと私は思つた。彼女はほつそりした身體つきと、蒼白い、温和な顏と、美しい髮とを持つてゐた。
麦酒ビエエルを飲んで居ると約束の午後四時にそのお嬢さんが遣つて来た。しか今日けふにはか差支さしつかへが起つてかれない、只その断りに来たのだと言ふ。目附の憂鬱メランコリツクな、首筋のほつそりとした、小柄な女である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「なかなかえゝをなごだつせ。ほつそりした姿で、あれが柳腰いひまんねやろ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
……をんなは、薄色縮緬うすいろちりめん紋着もんつき單羽織ひとへばおりを、ほつそり、やせぎすな撫肩なでがたにすらりとた、ひぢけて、桔梗色ききやういろ風呂敷包ふろしきづつみひとつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
メァリーは彼女のせいの割合にはほつそりし過ぎてゐたが、ブランシュはまるでディアナ(月の女神)のやうに出來てゐた。勿論、私は、特別の興味を以て彼女を觀察した。
つかさんと娘とで踊つてる組もある。一人紫紺しこん薄手うすで盛衣ロオヴを着て白い胸飾むねかざりをした、ほつそりと瀟洒せうしやなひどく姿のい女が折折をりをり踊場をどりばに出ては相手を求めずに単独で踊のむれを縫ひながら縦横にけ廻る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そらに一りんつぼみへて、いたやうに、常夏とこなつはなにした、ほつそりとしろと、さくらぢらしの紫紺しこんのコート。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分は劇場やの展覧会の中、森を散歩する自動車や馬車の上に、睡蓮の精とも云ひたい様な、ほつそりとした肉附にくづきの豊かな、肌に光があつて、物ごしの生生いきいきとした、気韻の高い美人を沢山たくさん見る度に
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
黒繻子くろじゆすえりのかゝつたしま小袖こそでに、ちつとすきれのあるばかり、空色そらいろきぬのおなじえりのかゝつた筒袖こひぐちを、おびえないくらゐ引合ひきあはせて、ほつそりとました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
婿むこさんが葡萄酒ぶだうしゆをおはかんなさるあひだに、ほつそりしたを、うね、ほゝへつけて、うつくしいめてつめなすつたんでせう、のびてるかうだかつて——じつ御覧ごらんなすつたんですがね
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すこしお歩行あるきなさい、白鷺しらさぎは、白金しろかね本家ほんけしば)のにはへもますよ。」つい小岩こいはから市川いちかはあひだひだり水田すゐでんに、すら/\と三羽さんばしろつまつて、ゆきのうなじをほつそりとたゝずんでたではないか。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくれましたが、ほつそりしたうでいたしたに、ちらりとむすえました……扱帶しごきはしではござりません……たしかにおびでござりますね、つき餘程よほどらしうござります……成程なるほど人目ひとめちませう。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)