かがり)” の例文
祝部いわいべの村落までかかると日が暮れた。村民は戸ごとにかがりいて領主の通路を照らした。そして軒端軒端の下にみな土下座していた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土人達はかがりを焚いた。血の色をしたほのおに照らされ、抜き身の武器はキラキラ輝き土人達の顔は真っ赤に染まり凄愴の気を漂わせた。
春照しゅんしょう高番たかばんという陣屋に、夜もすがら外にはかがりを焚かせ、内は白昼のように蝋燭ろうそくを立てさせて、形勢穏かならぬ評議の席がありました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
加えて波上はじょうの炎々たる水雷火すいらいか、その魚鱗火ぎょりんか、連弾光、鵜舟うぶねかがり、遊覧船の万灯まんとう提灯ちょうちん、手投げの白金光、五彩の変々たる点々光、流出柳箭りゅうしゅつりゅうせん
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ともへさきの二カ所に赤々とかがりを焚いて、豪奢ごうしゃきわまりない金屏風を風よけに立てめぐらし、乗り手釣り手は船頭三人に目ざむるような小姓がひとり。
月は中天にありて一条の金蛇きんだ波上にする処、ただ見る十数そうの漁船あり。かがりき、ふなばたを鳴して、眼下めのした近くぎ寄せたり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠洋へ乗り出してくじらの群を追ひ廻すのは壮快に感ぜられるが佃島つくだじま白魚舟しらうおぶねかがりいて居る景色などは甚だ美しく感ぜられる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
船迫ふなばさまの柏屋に伊助という者がいまして、かがり釣りというのをやります、ふちのところで水の上へ篝火を架けると、魚が火をしたって集まるのです、そこを
彼は赤いかがり火影ほかげに、古代の服装をした日本人たちが、互いに酒を酌みかわしながら、車座くるまざをつくっているのを見た。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それにしては話声もせずかがりはぜる音も聞えぬのは何故であろう? いや、矢張やッぱりおれが弱っているから何も聞えぬので、其実味方は此処に居るに相違ない。
もっとも、番士は交代でかがりく、村のものは村のもので宿内を警戒する、火の番は回って来る、なかなか寝られるようなものじゃありませんでしたよ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
暴れだすとするならお渡御がすんでかがりがついてからか、ひとの顔が見えるようになった白々明けにちがいない。
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
夜になると各自立止つた地点を動かずかがりをたいて不寝番を立て、三十五日を費して、遂に海まで突きぬけた。
わが血を追ふ人々 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
見張りの交代もほど間近とみえ、魚油をともすかがりの火が、つながり合いひろがり合う霧の中を、のろのろと、異様な波紋を描きながら、上っていくのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かがりき、松明たいまつを造り、「青砥藤綱あおとふじつな」ほどの騒ぎをするのを、平次はいい加減に眺めて、庵寺へ引返します。
主人の言葉どおりに庭の作り一つをいってもここは優美な山荘であった、月はないころであったから、流れのほとりにかがりかせ、燈籠とうろうらせなどしてある。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「とにかくうるさい奴ですよ。大抵かがりに飛び込んで、焼け死んだ跡が、あれ程遣って来るのですからね」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
永久にさえずる小鳥と共に歌い暮してふきとりよもぎ摘み、紅葉の秋は野分に穂揃うすすきをわけて、宵まで鮭とるかがりも消え、谷間に友呼ぶ鹿の音を外に、まどかな月に夢を結ぶ。
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
一人の船頭は、マッチを闇につて、大きな煙管きせるに火をつけて、スパリスパリつて居た。時々とまの中の明るく見える船や、かがりのやうに火をいて居る船などがあつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
柵内柵外の木々の紅葉は大分散り果てたが、それでもまだ名残なごりの色を留めて居て美しい。柵の前に燃え尽きたかがりが二三箇所置いてある。赤松の陰に「山門制戒」の高札も立っている。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「むむ、これから筑波颪つくばおろしでこの橋は渡り切れねえ」と、七兵衛はうす明るい水の上を眺めながら云った。「もうじきに白魚のかがり下流しもての方にみえる時節だ。今年もちっとになったな」
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜に入ればことごとかがりをたいて闇にひらめく無数の火影は、さながら不知火しらぬいと疑うばかり、全く浮世絵式の情調、それも追い追い白魚が上らなくなって、せっかくの風致も川口から退散。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
舟がゝりほとゝぎす待つよるの江や帆もつくろひぬかがりかげ
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かばかり多くトロイアの軍勢燃やすかがりの火、 560
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
それでもまだかがりのある所まで来られない。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かがりから篝へつたって行きましょう。4070
振たてゝ柳にちるかがり 林陰
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
かがり火枝ほえだついばしめし去ると
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
蛇紋山地じやもんさんちかがりをかかげ
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かがりいたには相違ないのですが、今朝になって見ると、それが滞りなく炭の屑に化してしまっていただけのもので、その篝火の下で
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもそこここと水を打って清掃してあるあたり、かがりの火も清らかに、門を守る兵までが、膝を組み合ってみな居眠っている様子である。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然るに答える者はなく、駈け出して来る兵もなく、楠氏なんしの陣営には、きすてられたかがりが、余燼よじんを上げているばかりであった。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
攻撃を中止した敵は、逆襲に備えて二丁あまり退き、そこでかがりいて息を入れていた……図書は湯漬けを食いながら、六郎右衛門の調べてきた報告を聴いた。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「七分じゃー八分じゃー一貫じゃー、そら、おかがりじゃ、お祭じゃ、家も蔵も、持ってけ、背負しょってけ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
庭中にかがりをたけ、言ひすてゝ奥の間に入り、久野といふ女房に給仕をさせて茶漬を三杯、それから枕をもたせて、ゴロリとひつくり返つて前後不覚にねてしまつた。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
村上の森のわきにあたる街道筋にはかがりいて、四、五人ずつの番士が交代でそこに見張りをした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんなみじめな境地はないであろうと源氏は歎息たんそくをしながら夜ふかしをしていたが、人が怪しむことをはばかって帰って行こうとして、前の庭のかがりが少し消えかかっているのを
源氏物語:27 篝火 (新字新仮名) / 紫式部(著)
戰場中に休らへり、かがりは光煌々と。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
まず照らされたその谷間の光景はすこぶる狼藉ろうぜきたるもので、かがりの燃えさしだの、木や竹のきれだの、地面に石や穴が散在していることだの
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
城楼でときの太鼓が鳴った。こよいに限り夜空もあかあかとかがりえ、今朝の初日の出がまだ沈みきらずにあるようだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがりが両側に燃えている。篝の前を通る時だけ高く痩せた城主の影が、向こう側へ映る。そうして仮面めんが血のように赤く、焔のようにテラテラする。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庭中にかがりをたけ、言ひすてゝ奥の間に入り、久野といふ女房に給仕をさせて茶漬を三杯、それから枕をもたせて、ゴロリとひつくり返つて前後不覚にねてしまつた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
薄 武士が大勢で、かがりいております。ああ、武田播磨守殿、御出張、床几しょうぎかかってお控えだ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
町々のつじ秋宮あきみやの鳥居前、会所前、湯のわき、その他ところどころにかがりかれた。四、五人ずつの浪士は交代で敵の夜襲を警戒したり、宿内の火の番に回ったりした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
烈火のかがりに形相変じて、今にも悪鬼に化するかとばかり、そのままの地獄図絵だった。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木のしげった中からさすかがりの光が流れのほたると同じように見える庭もおもしろかった。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昨夜中はそこを将座しょうざとして戦況を聞いたり使番に会ったりしていた所である。幔幕まんまくのまわりにはかがりの燃え殻が散らかっていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがりがドカドカと燃えている。それに照らされた正雪と時行、かなりおかしげな対照である。ぶっ裂き羽織に裾縁野袴すそべりのばかま
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とある店前みせさきかがりを焚いて、その前で多数の雲助が「馬方蕎麦そば」の大盤振舞にありついているところです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……雪の下を流るる血は、人知らぬかがりに燃ゆる。たとえば白魚に緋桜ひざくらのこぼるるごとく。——
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)