節穴ふしあな)” の例文
おじいさんは、わざと勝手かってもとから、もんほうへまわりました。そして、へいについている節穴ふしあなから、そとのようすをのぞいてました。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「その野郎なら御心配なく、——節穴ふしあな見たいなものを二つ持つて居ますが、何を聽いたつて、人に漏らす氣遣ひはございません」
やがて、赤羽主任は、その節穴ふしあなをふさいでいた血染ちぞめのせんを、吹矢の先に刺して懐中電灯の光を借りて、じいっと見つめた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おのれがおのれがその二つの眼、節穴ふしあなかそれとも蜂の巣空すがらか! ……その香具師の群れ茨組こそ、飛天夜叉なのじゃ、飛天夜叉組なのじゃ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
立てめられた湯気は、ゆかから天井をくまなくうずめて、隙間すきまさえあれば、節穴ふしあなの細きをいとわずでんとする景色けしきである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
星どころじゃない、節穴ふしあなどころの沙汰さたじゃアない。へんなやつがいる! へんな人間が屋根うらのはりに、取ッついている!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新三郎は一心になって経文を唱えていたが、やがて駒下駄の音が垣根の傍でぴたりととまったので、恐るおそる蚊帳から出て雨戸の節穴ふしあなから覗いてみた。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お客は馬屋うまやの戸に、なかからかんぬきをおろしてしまいました。そこで、主人は節穴ふしあなからのぞいてみました。
そう申しては口幅っとうございますが、先ずこう申す五郎助七三郎が筆頭で、それから夜泣よなきの半次はんじさかずり金蔵きんぞうけむり与兵衛よへえ節穴ふしあな長四郎ちょうしろう。それだけでございます
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
……へッ、嘘をつけ、唄の文句ならそれでもいいだろうが、そんなチョロッカなことじゃ世間は誤魔化されねえ。……おい、六平、芳太郎さんの眼は節穴ふしあなじゃアねえよ。
「新ちゃん、君と僕は子供の時からの附き合いだが、君は僕の目を節穴ふしあなだと思っているのかい?」
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ううむ! と左膳が寝返りをうった時、やにわに! 紙を貼った戸の節穴ふしあなに人影がさして
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「また雨らしいな……」と溜息ためいきをつきながら私が雨戸を繰ろうとした途端に、その節穴ふしあなから明るい外光がれて来ながら、障子しょうじの上にくっきりした小さな楕円形だえんけい額縁がくぶちをつくり
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お駒と定吉とは、正午ひる少し前頃まで寢てゐて、門も雨戸も閉め切りになつてゐた。節穴ふしあな隙間すきまから日の光が白く射し込んで、サーチライトのやうにお駒と定吉との枕元を照らした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雨戸に大きな節穴ふしあながあって、障子に倒逆とうぎゃくした小さい風景を映していた。天然色映画のように、何か高価な感じのする色がその風景をいろどっていた。どういう景色だかはっきり判らない。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
南屋の普請ふしんかかって居るので、ちょうど与吉の小屋と往来を隔てた真向まむこうに、小さな普請小屋が、真新まあたらしい、節穴ふしあなだらけな、薄板で建って居る、三方さんぽうが囲ったばかり、編んで繋いだなわも見え
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは勿論戸の節穴ふしあなからさして来る光のためだったのです。しかし僕は腹ばいになり、一本の巻煙草をふかしながら、この妙に澄み渡った、小さい初秋の風景にいつにない静かさを感じました。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
米友は戸の節穴ふしあなからそっとのぞいていると、蜜柑箱みかんばこを枕にした折助が
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうだ、その意気いきだ、しっかりやれ。」と、こころなかで、酒屋さかや小僧こぞうさんに応援おうえんしながら、へい節穴ふしあなからをはなしませんでした。
日の当たる門 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なかなかあかなかったけれど、蜂矢がその黒箱の板の節穴ふしあなに小指を入れてみたときに、きゅうに箱がばたんとはねかえり、四方の枚がはずれた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あなの底で生れて一段ごとに美しい浮世へ近寄るためには二十七年かかった。二十七年の歴史を過去の節穴ふしあなからのぞいて見ると、遠くなればなるほど暗い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「曲者の姿は確かにこの眼で見た。火を附けるところを節穴ふしあなから覗いたんだから、間違ひのある筈はない」
事実じじつ、よくよく目をあらためてみるとそれは星にて星の光ではなく、屋根うらの隙間すきま節穴ふしあなが、あかるい空の光線こうせんをすかして、星のように見えたのであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南屋みなみや普請ふしんかゝつてるので、ちやうど與吉よきち小屋こや往來わうらいへだてた眞向まむかうに、ちひさな普請小屋ふしんごやが、眞新まあたらしい、節穴ふしあなだらけな、薄板うすいたつてる、三方さんぱうかこつたばかり、むでつないだなは
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
節穴ふしあなの多い天井だなあ。暇にまかせて数えてやるか。七ツ八ツ九ツ十」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まなこはあッても節穴ふしあな同然
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
低い天井てんじょうの白茶けた板の、二た所まで節穴ふしあな歴然れっきと見える上、雨漏あまもりみをおかして、ここかしこと蜘蛛くもあざむすすがかたまって黒く釣りをけている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うした油断のならぬ節穴ふしあながあったことさえ、夢にも知らない事であったのに、その上、誰が持ち込んだものか、望遠鏡やら、活動写真の撮影機やら、吹矢やら
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
十手をはしのように持って、この年まで目明しの飯を食ってきた自分でさえ、あの下屋敷の塀の節穴ふしあなさえのぞけずにいたものをと、少し片腹痛い気がしないでもない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へェ、何んにもありませんね、節穴ふしあなは一つも無いし——血は飛沫しぶいて居るが」
小野さんは重い足を引きってまた部屋のなかへ這入はいって来た。坐らずに机の前に立っている。過去の節穴ふしあながすうといて昔の歴史が細長く遠くに見える。暗い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そッとうらへまわってみたり、羽目板はめいたに耳をつけてみたり、まど節穴ふしあなからのぞいたりしてみると、天なるかなめいなるかな、ているどころか、ふだんより大きな声をだして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが終ると、彼はかねて探って置いた、由蔵の秘密のたのしみ場所たる、女湯の天井の仕掛のある節穴ふしあなの処へ来て、由蔵が設置した望遠鏡の代りに、持って来た撮影機を据えつけた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼等のあるものは、石油缶せきゆくわんそこはせた四角なうろこで蔽はれてゐる。彼等の一つを借りて、夜中よなかはしらの割れるおとまさないものは一人ひとりもない。彼等の戸には必ず節穴ふしあながある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
敬二はハアハア息をはずませながら、それを塀の節穴ふしあなから認めたのである。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)