たた)” の例文
多分女学生時代の彼女のロオマンスがたたりを成していたものであろうことは、ずっと後になってから、迂闊うかつの庸三にもやっとうなずけた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
東京に近い地方でありながら、村の人たちはかなりに迷信深く、彼の生まれたのは、彼の祖父が猫を殺したたたりだと解釈しました。
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかしそれが毒草以上に恐れられているのは、その花が若い女の肌に触れると、その女はきっとたたられるという伝説があるからだ。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こういうことのあったのは永禄元年のことであるが、この夜買った紅巾こうきんたたりで、土屋庄三郎の身の上には幾多の波瀾はらん重畳ちょうじょうした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その正成父子に対する崇拝が反尊氏思想となり、日本一の不忠者のように云われ、六百年の後まで、中島商相にまでたたるのである。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今更、山王のたたりの恐しさをまのあたりにみて、関白の母である摂政藤原師実もろざねの妻は、もういても立ってもいられない気持である。
その無理がたたって、今でもこの通りだと、逐一ちくいちを述べ立てると先方の女は笑いながら、あの金剛石は練物ねりものですよと云ったそうです。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仕立屋なぞは衣裳のたたりだなぞと蔭口を云っていたそうですが、もともとひよわな体質なのに無理な旅行なぞをしたせいでしょう。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「幽霊も大袈裟だがよ、悪く、蜻蛉にたたられると、おこりを病むというから可恐おっかねえです。縄をかけたら、また祟って出やしねえかな。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、典獄ばかりでなく、牢役人の大半も実は道士に帰依きえしているので、いたくそのたたりを恐れ、縄尻を持つのもいとう風であった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
持てあまし、要点が捕えられず、恐れるべきなのか、憐れむべきなのか、とにかく触らぬ神にたたりなし、そう、きめた風に感じられた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「冬になると痛むだ、大したことじゃねえ、二三年出なかったっけが、——水のあとの無理がたたったらしい、死んだ親父もこうだった」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここには、紀文の時のように、吾勝ちに争う幇間たいこ末社まっしゃたぐいもなし、梅忠の時のように、先以まずもって後日のたたりというものもないらしい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「尺八になんにたたるというのか、こいつは変っているぜ。首を振りながら、あいつを吹く図は、あまり色気のある図じゃないが」
大統領の激怒げきどである。ぐずぐずしていては、後のたたりの程もおそろしと、旗艦きかんマサチュセッツから発せられる総爆撃雷撃の命令!
それも夫婦の義務の鎖につながれていてする、イブセンのう幽霊にたたられていてすると云うなら、別問題であろう。この場合にそれはない。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なんとも珍妙な風態だけれど、いつものことだから、行きおく女中、茶坊主、お傍御用の侍たちも、さわらぬ神にたたりなしと、知らん顔。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
率先した横浜貿易があの旧師にたたった上に、磊落らいらくな酒癖から、松尾の子息むすこともよくけんかしたなぞというふるい話も残っていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはまずよかったけれど流石さすがの元気男の弥太郎も苦労したと見え、また永年の酒のたたりもあって中気をき起してしまった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
役人はこわい者、機嫌を取っておかぬと後のたたりが恐ろしいという、そうしたその時代の百姓心理を、ゆくりなく初日から示したのであった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「いや、祖父が大酒を飲んだ酬いで親父が病身でした。現に私が、頭が好くないって、社長に叱られるのも祖父の不行跡ふぎょうせきたたっているんです」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
が、いくら歩いて行っても、容易に私の旅館へ来ない。その内に私はアニセットのたたりか、喉が渇いてたまらなくなった。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「だいじょうぶだろうね。置いていっても、飢え死するようなことはないだろうね。死霊のたたりということもあるからね」
その代りに中幕なかまくへ「たたられるね」というような代名詞につかわれている「緑の朝」を須磨子に猿之助が附合つきあうことになった、無論菊五郎にはめ
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
野次馬がたかって大騒ぎになったことがあった。白羊の眼が悪くなったのは、たぶんこんな深酒がたたっているのだろう。
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それは後のたたりを恐れるからではない。子供たちのことは子供仲間で解決つけて、大人の所へは持って行かないという不文律が支配しているのだ。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
玄関はたつみの方に向かへり。きはめて古き家なり。この家には出して見ればたたりありとて開かざる古文書の葛籠つづら一つあり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
間もなく二度目に家を持ったのが牛込うしごめ北山伏町きたやまぶしちょうで、債務の段落が一時着いたというもののやはり旧債にたたられていた。
内地にて一般に恐れらるる、天狗か狐のつくとかたたるとかいう話は、余が北海道にいる間、一回も聞いたことがない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
とにかく金がないのに高い煙草を吸い、高いマロン・グラセーをかじったのがたたったと見えて、今日でも時々、西洋に居て金が無くなって困る夢を見る。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「もゝつたふ」の歌、残された飛鳥の宮の執心びと、世々の藤原のいちひめたたる天若みこも、顔清く、声心く天若みこのやはり、一人でおざりまする。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
北方の狐のたたりは、なおいろいろのことをして追いだすことができるが、江蘇浙江こうそせつこう地方の五通に至っては、民家に美しいおんながあるときっとおのれの所有として
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
彼は頑健であったが登山・野営等の無理がたたったせいもあり、一八五五年頃から不健康になり、六〇年十二月にひどい感冒にかかり、ついに肺病になった。
彼は頑健であったが登山・野営等の無理がたたったせいもあり、一八五五年頃から不健康になり、六〇年十二月にひどい感冒にかかり、ついに肺病になった。
だが口惜くやしかんべえ、なあお高! 人にうらみがあるものか、ねえものか、鬼になって棚田の家にあだを返してやれ! 生き代り生まれ代ってたたりをしてやれ。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「周防のむすめの絵像があっても、木像があっても、何時いつも俺にたたる堂じゃ、今日は焼き払う、その方は早く出よ」
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
感激がたたって、お婆さんは夜明けまで興奮し続けた。うつらうつらとまどろみかけたのは、それからであった。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
金徳一は、知る人ぞ知る、先のバンタム級の世界ベストテンに数えられた名選手でした。リングでの負傷がたたって落ち目が続き、帰国の旅費もないとやら。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「この頃ここらに妖邪のたたりがあるのを、おまえたちも知らぬはずはあるまい。早くここへり出して来い」
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
己は今風下かざしもの海岸に浮いている情ねえ老いぼれ船みてえなもんだから、そのラムが飲めねえとなれぁ、ジム、お前にたたるぞ。それからあの医者の阿呆にもな。
そして、たとへば、たとへばと諸賢しよけんのの麻雀振マアジヤンぶり紹介せうかいするつもりだつたが、ちやうどゆるされた枚數まいすうにもたつしたし、あとのたたりもおそろしいので。(せう五・三・三)
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
厳格おごそかに口上をぶるは弁舌自慢の円珍えんちんとて、唐辛子をむざとたしなくらえるたたり鼻のさきにあらわれたる滑稽納所おどけなっしょ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
柔らかい草原をしとねにする贅沢ぜいたくは、思いも寄らず、睡眠不足がたたって、くる日の登山には、大分こたえた。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
話し手にわざわいがかかるか、聞き手の身に禍いが起るか、いずれにしても必ずともに何ぞ怪しいたたりがあるゆえ気をつけいと、気味のわるい念を押しましたゆえ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
それから、高山の御用聞きの連中にはぐれたんだが、逢ったら俺のことを話してくれ。忘れると後でたたるぞ。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
日本にも、櫛笥殿北山大原の領地で銃もて大牝猴をうかがうに、猴腹を示し合掌せしにかかわらず打ち殺し、そのたたりで煩い死んだと伝う(『新著聞集』報仇篇)。
邪念の悪業あくごうにひきずられて、あるときはそれが生前の獣の姿になって恨みをはらしたり、またあるときは鬼となったりみずちとなったりしてたたりをするという例は
さてもさてもの替り様、我身が嫁入りの噂聞えそめた頃から、やけ遊びの底ぬけ騒ぎ、高坂の息子はまるで人間が変つたやうな、魔でもさしたか、たたりでもあるか
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
真打しんうちになったら自分の名をがせてやろうとまで言われるようになったのに、若いとき身を持ち崩したたたりで、悪い病気がとうとう脳にきて、その頃同棲どうせいしていた
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかしながら、銘刀はたたりをなすという事がある。それは銘刀の所有者が低能者であったからである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)