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砧
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きぬた
ふりがな文庫
“
砧
(
きぬた
)” の例文
「
御手打
(
おてうち
)
の夫婦なりしを
衣更
(
ころもが
)
へ」や「いねかしの男うれたき
砧
(
きぬた
)
かな」も、やはり複雑な内容を十七字の形式につづめてはゐないか。
点心
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
卯の花の礼心には、
砧
(
きぬた
)
まき、紅梅餅、と思っただけで、広小路へさえ
急足
(
いそぎあし
)
、そんな暇は貰えなかったから訪ねる事が出来なかった。
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と思ったが、女房はさしたる顔もなく、
砧
(
きぬた
)
を片づけたり、朝の
炊
(
かし
)
ぎの仕掛をしたり、台所のほうでガチャガチャ水仕事に
忙
(
せわ
)
しない。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
遠くて、その男の姿が隠れる時でも、上ったり下ったりする
槌
(
つち
)
だけは見えた。そして、その槌の音が遠い
砧
(
きぬた
)
の音のように聞えた。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
この
砧
(
きぬた
)
村の野の中に住んだ当座、私は庭に僅かな芝生を設けて、春の緑を楽しんでいたが、毎日のようにその中に雀の卵の破片を見かける。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
▼ もっと見る
今宵
(
こよい
)
は月がよく
冴
(
さ
)
えている。
主婦
(
あるじ
)
のお徳は庭へ出て
砧
(
きぬた
)
を打っていると、机竜之助は縁に腰をかけてその音を聞いています。
大菩薩峠:08 白根山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
三十分程走り続けると、車は昔の
砧
(
きぬた
)
村——今の世田谷区の端の方の、木立の中に押し隠したように建って居る、ささやかな家の門に着けられました。
法悦クラブ
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
(妻の柳は長柄の鎌を持ち、李中行は長煙管を持ち、たがいに云い募って詰めよるを、近所の農家の亭主會徳が支えている。
砧
(
きぬた
)
の音せわしく
聞
(
きこ
)
ゆ。)
青蛙神
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
内懐
(
うちぶところ
)
からクララのくれた一束ねの髪の毛を出して見る。長い薄色の毛が、麻を
砧
(
きぬた
)
で打って柔かにした様にゆるくうねってウィリアムの手から下がる。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
源氏はうるさかった
砧
(
きぬた
)
の音を思い出してもその夜が恋しくて、「八月九月
正長夜
(
まさにながきよ
)
、
千声万声
(
せんせいばんせい
)
無止時
(
やむときなし
)
」と歌っていた。
源氏物語:04 夕顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
理窟をいえば衣を擣つ者が妻であり、帰って来る者が夫であることも、句には現れておらぬようであるが、そこはそう解するのが
砧
(
きぬた
)
の句の
定石
(
じょうせき
)
であろう。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
春の
茶摘
(
ちゃつみ
)
歌、
五月雨
(
さみだれ
)
頃の田植歌、夏の日盛りの田草取の歌から、秋の哀れも身に
泌
(
し
)
む
砧
(
きぬた
)
の音、さては
機織
(
はたおり
)
歌の如き、
苟
(
いやしく
)
も農事に関する俗歌俗謡の如きものは
夫婦共稼ぎと女子の学問
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
近くから澄んだ
砧
(
きぬた
)
の音が
洩
(
も
)
れてくる。
窺
(
うかが
)
えば
青衣
(
せいい
)
を
纏
(
まと
)
った一人の女が調子も静に砧をたたく。凡ての村がさながら一つの庭で、川辺の堤に寄り沿って静に集る。
全羅紀行
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
謡の「
砧
(
きぬた
)
」に取材したものですが、章句の中には格別に時代が決定されていませんので、私の自由に徳川時代元禄から享保頃迄の人物にこれを表現してみました。
砧
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
五月
末季
(
すえ
)
のある夕ぐれ、商売上の些細なことから犬も食わない立廻りのあげく、打ちどころでも悪かったものか、おりんは平兵衛の振り上げた仕事用の
砧
(
きぬた
)
の下に
釘抜藤吉捕物覚書:06 巷説蒲鉾供養
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
現に大東京の計画中には、北多摩郡でも一番東部の千歳村、
砧
(
きぬた
)
村の二村が包含される事になって居ます。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
この
境
(
きやう
)
、都を
距
(
へだつ
)
ること遠からず、むかし行きたる時には
幾度
(
いくたび
)
か
鞋
(
わらぢ
)
の紐をゆひほどきしけるが、今は汽笛一声新宿を発して、名にしおふ玉川の
砧
(
きぬた
)
の音も耳には入らで
三日幻境
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
かつてはお耳に達したこともないような
砧
(
きぬた
)
の響き、道を行く人の足音、車のきしりなど枕辺の近くに聞えることもあり、雲井の上では及びもつかない下々の生活にも
現代語訳 平家物語:03 第三巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
縁側に木綿車と
砧
(
きぬた
)
が置いて在る。庭はなくて、全部手入れの届いた野菜畑である。ホーレン草、キャベツなぞ。入口に架けた翁瓦の笑顔が主人公の益田男爵にソックリである。
お茶の湯満腹談
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
今
一言
(
ひとこと
)
……今一言の言葉の関を、
踰
(
こ
)
えれば先は
妹背山
(
いもせやま
)
、
蘆垣
(
あしがき
)
の間近き人を恋い
初
(
そ
)
めてより、昼は
終日
(
ひねもす
)
夜は
終夜
(
よもすがら
)
、唯その人の
面影
(
おもかげ
)
而已
(
のみ
)
常に
眼前
(
めさき
)
にちらついて、
砧
(
きぬた
)
に映る軒の月の
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
夜が更け
冴
(
さ
)
えて、足袋やさんが打つ
砧
(
きぬた
)
が——
股引
(
ももひき
)
や、腹掛けや、足袋地の木綿を打つ音が、タン、タン、タン、タン、カッツン、カッツンと遠くまで響き、
鼈甲
(
べっこう
)
屋さんも
祝月
(
いわいづき
)
が近づくので
旧聞日本橋:23 鉄くそぶとり(続旧聞日本橋・その二)
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
東京の
郊外
(
こうがい
)
の
砧
(
きぬた
)
といえば畑と野原ばかりのさびしいところである。
月世界探険記
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
米洗いとか竹スとか
砧
(
きぬた
)
とか
錣
(
しころ
)
とかの寄席囃子を聴き、当時はいまだいまだ正統派な軽妙江戸前のが多々といた万橘三好、
鯉
(
り
)
かん、勝次郎、枝太郎、歌六などの音曲師のうたう市井の俗歌を耳にすると
わが寄席青春録
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
(塵取り、
鍬
(
すき
)
、
砧
(
きぬた
)
などを投げつけ、太郎吉を抱いて逃げ込む)
沓掛時次郎 三幕十場
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
松の実を杖のかしらに人割るも
砧
(
きぬた
)
めきたる吉林の汽車
満蒙遊記:附 満蒙の歌
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
うき我に
砧
(
きぬた
)
うて今は又止みね 蕪村
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
をちこちをちこちと打つ
砧
(
きぬた
)
かな
俳人蕪村
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
砧
(
きぬた
)
の、
香
(
かう
)
の
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
砧
(
きぬた
)
の音が
野口雨情民謡叢書 第一篇
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
ただどこかで先程から、こーん、こーん、と凍っている夜空にひびく
砧
(
きぬた
)
の音がある。それを
的
(
あ
)
てに二人は歩いて、ようやく一つの明りを見た。
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
以前はここらで
売卜者
(
うらない
)
などをしていたが、ひとり娘が
容貌
(
きりょう
)
望みで
砧
(
きぬた
)
村の豪家の嫁に貰われたので、今では楽隠居のように暮らしているというのです。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
石の上で打つ
砧
(
きぬた
)
の音も静かな水に響けて来た。しばらく岸本は戦争を
外
(
よそ
)
に砧の音を聞いていた。その時、つと見知らぬ少年が彼の側へ来て声を掛けた。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
秋になって、夕顔の五条の家で聞いた
砧
(
きぬた
)
の耳についてうるさかったことさえ恋しく源氏に思い出されるころ、源氏はしばしば常陸の宮の女王へ手紙を送った。
源氏物語:06 末摘花
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
散
(
ち
)
る、
風
(
かぜ
)
なくして
散
(
ち
)
る
其
(
その
)
もみぢ
葉
(
ば
)
の
影
(
かげ
)
の
消
(
き
)
ゆるのは、
棚田
(
たなだ
)
、
山田
(
やまだ
)
、
小田
(
をだ
)
の
彼方此方
(
あちこち
)
、
砧
(
きぬた
)
の
布
(
ぬの
)
のなごりを
惜
(
をし
)
んで
徜徉
(
さまよ
)
ふ
状
(
さま
)
に、
疊
(
たゝ
)
まれもせず、
靡
(
なび
)
きも
果
(
は
)
てないで、
力
(
ちから
)
なげに
魔法罎
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
この
砧
(
きぬた
)
の新村の初期には、野は
満目
(
まんもく
)
の
麦生
(
むぎふ
)
であり、空は未明から雲雀の音楽を
以
(
もっ
)
て覆われていた。
野草雑記・野鳥雑記:01 野草雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
忍び寄つて後ろから一と突き、土竈の中の金だけ取つて逃げ出したところへ、
砧
(
きぬた
)
樣がやつて來た
銭形平次捕物控:101 お秀の父
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
お徳の面影が思われると、同じような月夜の晩に、月見草の多い庭で
砧
(
きぬた
)
を打ちながら
大菩薩峠:20 禹門三級の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
黒い顔! 中には日本に籍があるのかと怪まれるくらい黒いのがいる。——刈り込まざる髯!
棕櫚箒
(
しゅろぼうき
)
を
砧
(
きぬた
)
で打ったような髯——この
気魄
(
きはく
)
は
這裏
(
しゃり
)
に
磅礴
(
ほうはく
)
として
蟠
(
わだか
)
まり
沆瀁
(
こうよう
)
として
漲
(
みなぎ
)
っている。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「あれは里人の
砧
(
きぬた
)
擣
(
う
)
つ音にて候」
謡曲と画題
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
狩衣
(
かりぎぬ
)
を
砧
(
きぬた
)
の
主
(
ぬし
)
にうちくれて
路通
(
ろつう
)
芭蕉雑記
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
砧
(
きぬた
)
村
大字
(
おおあざ
)
岡本字下山、岩崎別邸。
五百句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
をちこちをちこちと打つ
砧
(
きぬた
)
かな
俳人蕪村
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
打つ
砧
(
きぬた
)
極楽とんぼ
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
(弥三郎の妹お妙、十七八歳。村の娘おあさ、おつぎと共に針仕事の稽古をしている。百姓善助、五十余歳、鍬を持ちて縁に腰をかけている。
砧
(
きぬた
)
の音きこゆ。)
人狼
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
それは
砧
(
きぬた
)
ともいい
御守殿
(
ごしゅでん
)
ともいう木造りの形のものに限られ、その上でも守らねばならない教訓があった。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
見知らない男が入って来て、いきなり
鞴
(
ふいご
)
のそばの火にしがみついたので、女房は
砧
(
きぬた
)
の手を止め
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
淡い青磁色——あの
砧
(
きぬた
)
青磁という品の良い色をした服装と、健康そうな薄桃色の皮膚の色とが、よく調和していることや、表情的な小さい唇の線や、昔夢二が好んで描いた
奇談クラブ〔戦後版〕:05 代作恋文
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
大きなたまらぬ音響のする何かだと思っていた。そのほかにもまだ多くの騒がしい雑音が聞こえた。白い麻布を打つ
砧
(
きぬた
)
のかすかな音もあちこちにした。空を行く
雁
(
かり
)
の声もした。
源氏物語:04 夕顔
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
月の夜の玉川に、
砧
(
きぬた
)
を枕にした風情、お夏は愛吉のその膝に、なおすやすやと眠っていた。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
砧
(
きぬた
)
に
擣
(
う
)
たれた布は、こうもあろうかとまで考えた。それほど正体なくきめつけられ
了
(
おわ
)
った状態を適当に形容するには、ぶちのめすと云う下等社会で用いる言葉が、ただ一つあるばかりである。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
“砧”の解説
砧(きぬた)は、洗濯した布を生乾きの状態で台にのせ、棒や槌でたたいて柔らかくしたり、皺をのばすための道具。また、この道具を用いた布打ちの作業を指す。古代から伝承された民具であり、古くは夜になるとあちこちの家で砧の音がした。その印象的な音は多くの和歌にも詠まれまた数多くの浮世絵の題材とされてきた。日本の家庭では、炭を使うアイロンが普及した明治時代には廃れたが、朝鮮では1970年代まで使われていた。現在では完全に廃れている。
(出典:Wikipedia)
砧
漢検準1級
部首:⽯
10画
“砧”を含む語句
鉄砧
砧青磁
砧村
紙砧
鐵砧
人砧
唐砧
恋砧
擣衣砧上
砧形
砧手
砧盤
砧石
箔砧
金砧
鐡砧