またたき)” の例文
大慈大悲の仏たちである。大して御立腹もあるまいけれども、さくがいいだけに、またたきもしたまいそうで、さぞお鬱陶うっとうしかろうと思う。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空はさはやか晴渡はれわたツて、星が、何かの眼のやうに、ちろり、ちろりまたたきをしてをる。もう村の若衆等わかいしゆたちが、夜遊よあそび歸途かへり放歌うたすらきこえない。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
福太郎はその時にちょっと首肯うなずきたいような気持になった。しかし依然として全身が硬直しているために、またたき一つ出来なかった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
階の両側ふたがわのところどころには、黄羅紗きラシャにみどりと白との縁取ふちどりたる「リフレエ」を着て、濃紫こむらさきはかま穿いたる男、うなじかがめてまたたきもせず立ちたり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さて只今ただいまから幻燈会をやります。みなさんはまたたきやくしゃみをしないで目をまんまろに開いて見てゐて下さい。
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
甲野さんは静かに茶碗をおろして、首を心持藤尾の方へ向け直した。藤尾は来たなと思いながら、またたきもせず窓を通してうつる、イルミネーションの片割かたわれを専念に見ている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はまたたきをした。彼女は見ていたのだ。そして呼吸も可成かなり整っているのだった。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
Sara …… sara ……とふる雪の幽かなまたたきを聴きわけるほど——
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
満枝は彼のおもてしたたか怨視うらみみまたたきず、その時人声してドアしづかきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
疲れてもまた元に返る力の消長の中に暖かい幸福があるのだ。あれあれ、今黄金こがねたまがいざって遠い海の緑の波の中に沈んでく。名残なごりの光は遠方の樹々きぎの上にまたたきをしている。今赤いもやが立ち昇る。
お通はまたたきもせずみまもりながら、手も動かさずなりも崩さず、石に化したるもののごとく、一筋二筋頬にかかれる、後毛おくれげだにも動かさざりし。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あまりの事に驚き悲しんで狂気きちがいのようになって王宮を駈け出ると直ぐ、そこに繋いでおいたこの国第一の名馬「またたき」というのに飛び乗って
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
はてなと思ってしばらくするうちに、また誰か駆けて行く。不思議だとさとってまたたきもせず城壁の上を見つめていると、また誰か駆けて行く。どう考えても人が通るに違いない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お月様はまるで真珠しんじゅのおさらです。お星さまは野原のつゆがキラキラ固まったようです。さて只今ただいまから幻燈会をやります。みなさんはまたたきやくしゃみをしないで目をまんまろに開いて見ていて下さい。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あきれたる貫一はまたたきもせで耳をかたぶけぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかし私はまたたき一つしないまま未亡人の顔を凝視した。にわかに変って来たその態度を通じて、告白の内容を予想しながら……。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
正面のふすまは暗くなった、破れた引手ひきてに、襖紙のけたのが、ばさりと動いた。お君はかたくなって真直に、そなたを見向いて、またたきもせぬのである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先生の世界観がまたたきと共に変るように明るくなる。小野さんはまだ螺旋ねじから手を放さない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右はじの子供こどもがまっすぐにまたたきもなく私を見てたずねました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
けれども三人はまたたき一つず、身動き一つ出来ず、只黒光りする鉄の死骸の、虚空を掴んだ恐ろしい姿を、穴の明く程見つめて立っていました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と、片頬夕日にまぶしそう、ふくれた片頬は色の悪さ、あおざめてあいのよう、銀色のどろりとした目、またたきをしながら呼んだ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助は、突然例の眼を認めて、思わずまたたきを一つした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
沖から遠眼鏡とおめがねで望んだら、またたきする間も静まらず、海洋わだつみあおき口に、白泡の歯を鳴らして、刻々島根を喰削くらいけずらんず、怖しき浪のかしらおさえて、巌窟いわやの中に鎮座まします
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが不思議なことに若林博士も、私のそうした顔を、またたき一つしないで見下しているのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やがてまたたきを一つすると共に、眼は急に近くなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
へいげんはあるいは呆れ、あるいはおどろき、またたきもせで三郎の顔をみまもりたりしが、やや有りてこうべれて
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうしてその死骸を平気で蹴飛ばしてまたたき一つせずに立去り得る人間は殆んど居なかったであろう。奈良原到翁の風貌には、そうした冴え切った凄絶な性格が、ありのままに露出していた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うながすように言いかけられて、ハタと行詰ゆきつまったらしく、ステッキをコツコツとまたたきひとツ、唇を引緊ひきしめた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハッと正気づかれたように眼を丸くして、二三度パチパチとまたたきをされました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お夏さんは酌をしておくんなさる気で瓶を持ちながら、ふと雛の壇を見ましたがね、どうなすったんだか、おや! といってこう、瞳を据えて、またたきもしないでしばらく。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、眼をこすることは愚か、呼吸いきも出来ないような気持になって、なおもまたたき一つせずに、見惚みとれていると、やがてその長く切れた二重瞼の間に、すきとおった水玉がにじみ現われはじめた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
婦人はうしろたたずみて、帯の間より手帳を取出し、鉛筆をもて何やらんまたたきもせず書きしたため、一遍読返して、その紙を一枚引裂き、音低くしてしかも遠きにいたる口笛を吹鳴らせば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前は強いからベソを掻いたわけ、」と念のためいってみて、またたきした、目が渋そう。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも九時半の処を指して、時計は死んでいるのであるが、鮮明あざやかにその数字さえかぞえられたのは、一点、蛍火ほたるびの薄く、そしてまたたきをせぬのがあって、胸のあたりから、ななめに影を宿したためで。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ天下に、を一目も寝ぬはあっても、またたきをせぬ人間は決してあるまい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桂木はふさがうと思ふ目も、鈴で撃つたやうになつてまたたきも出来ぬのであつた。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その上、一面に嬰児あかごほどの穴だらけで、干潟の蟹の巣のように、ただ一側ひとかわだけにも五十破れがあるのです。勿論一々ひとつびとつつぎを当てた。……古麻ふるあさに濃淡が出来て、こうまたたきをするばかり無数に取巻く。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小宮山は三蔵法師をさらわれた悟空という格で、きょろきょろと四辺あたりみまわしておりましたが、頂は遠く、四辺あたり曠野こうや、たとえ蝙蝠の翼に乗っても、虚空へ飛び上る法ではあるまい、またたき一つしきらぬうち
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しずかに云うと、黙って、ややあってまたたきして
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は、ぱちぱちとまたたきした。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またたきをするまぬ。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)